■Bartók版「月光ソナタ」のペダリングから、平均律とChopin前奏曲が木霊する■
2015.12.26 中村洋子
★世界各地で異常気象、暖冬のニュースが流れています。
冬の厳しいベルリンでも、桜の花が咲いてしまったそうです。
私の「6 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 全6曲」の
楽譜を出版して下さったベルリンの「Musikverlag Ries & Erler Berlin
リース&エアラー社」の社長、Andreas Meurer
アンドレアス・モイラーさんから、クリスマスのメールが届きました。
★お近くの教会の、ミサの写真が添えられていました。
冒頭の写真が、それです。
クリスマスを祝う人々の様子が、じっくり伝わってきます。
日本の商業主義と違い、清々しい印象です。
★前回のブログの続きです。
Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)の
「Klabiersonate cis-Moll Op.27Nr.2 月光ソナタ」を、
自筆譜と初版譜を勉強しながら、並行して、
Bartók Béla バルトーク(1881-1945)の校訂版、
Artur Schnabel シュナーベル(1882-1951)校訂版、
Claudio Arrau クラウディオ・アラウ(1903-1991) 校訂版も、
見ています。
★Arrau版は、第1楽章にペダルの指示は記されていません。
Schnabel版、Bartók版は、それぞれ独自のペダル指示が、
書き込まれています。
両者とも、大変に優れたペダルであると、思います。
★特に、Bartók版(1909年コピーライト)は、まさしく、
作曲家の観点からの指示であり、(どちらが先か分かりませんが)
平均律1、2巻校訂版とBeethovenのPianoSonata全32曲の校訂版を、
出したからこそ、到達できたペダル指示であると、私は思います。
★例えば、第1楽章1小節目の Fingeringとペダルを見てみましょう。
この1小節目は一見、「cis-Moll 嬰ハ短調」の主和音の分散和音を、
単調に4回繰り返しているように、見えます。
★しかし、Bartókは、1拍目上声「gis cis¹ e¹」の三音にはペダルがなく、
2拍目から3、4拍目を経て、1小節目と2小節目を区切る小節線上まで、
ペダルを持続させています。
★さらに、先ほどの上声「gis cis¹ e¹」には、「1 3 5」と、
Fingeringを付けています。
また、「Cis」と「cis」から成る全音符の下声は、
「Cis」の音にのみ「4」のFingeringをつけています。
★その意味するところは、1小節の間全部をベッタリと
一つのペダルで塗りつぶすのではなく、
1拍目でcis-Moll の主和音を明確に確定し、
続く2、3、4拍目は、主和音の響きを持続するという役割を
になっている、ということです。
★さらに、2小節目の上声は、1拍目と全く同じ「gis cis¹ e¹」を、
四回繰り返すだけなのですが、今回、Bartókは2小節目上声の
二番目の音「cis¹」を、打鍵した直後にペダルをを踏むよう、
指示しています。
「cis¹」と同時にペダルを踏むのではないのです。
★実際に、ピアノで上記の通りに弾いてみて下さい。
実に豊かな音楽、そして、その背後に聳え立つBachの
「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」が、
聴こえてくることに、驚かれるでしょう。
さらに、 耳を澄ますと、
Chopinの「前奏曲」がこだましているのです。
★天才Bartók Béla バルトークは、その若き日に、
そこまで読み込んでいるのです。
★1小節目の下声「Cis」に付けられた「4」の指は、
2小節目下声「H¹ H」に付けられた「5_4」の「5」に
つながり、「Cis H¹」の≪二度 motif モティーフ≫を形成します。
「5_4」の「4」は、また、それに続く3小節目の
「A¹ A」の「A¹」につながり、「H¹ A¹」の≪二度 motif モティーフ≫
を形成しています。
★このように、月光ソナタの冒頭2小節を見ただけでも、
これだけたくさんの情報が内包されています。
次回ブログに続きます。
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