■インヴェンションは「四声体」として発想され、作曲されている■
~15番Inventionは、平均律1巻1番への≪橋渡し≫~
2015.12.19 中村洋子
★私の著書「音楽の大福帳」の発売が、
「2016年2月5日」と決まりました。
そのための最後の校正で、忙しくしております。
★今週の12月16日は、 KAWAI 金沢で1年半にわたって
開催してきましたBach「Inventionen und Sinfonien
インヴェンションとシンフォニア」のアナリーゼ講座最終会でした。
東京、横浜、名古屋に次いで、4ヶ所でインヴェンションの講座を
経験したことになります。
★私の方針としまして、同じことをお話しするのではなく、
必ず、新しい角度から Inventionを分析し、
新しい発見をお伝えするよう、努めてまいりました。
★金沢講座では、「Inventionen und Sinfonien」が、
本来、「四声体」として発想されている、という視点から見直しました。
具体的には、「Inventionen und Sinfonien」を、
ソプラノ、アルト、テノール、バスの四声体のスコアに、
作り直して、ご提示しました。
★また、「二声のInvention」でも、Bach の脳裏には、
四声体の“このような音が聴こえていたであろう”という音を、
さらに、付け加えて演奏する試みなども、いたしました。
これは、私自身にとりましても
大変に、豊かな恵みをもたらしました。
★これまで東京、横浜、名古屋の講座で、
終曲の「15番 h-Moll ロ短調Invention& Sinfona」は、
大きな意味での≪カデンツ≫とする見方を、
提示してきました。
★ことし10月の名古屋「平均律クラヴィーア曲集第1巻1番」
講座では、≪二つの問い掛け≫を皆さまに提示しました。
★それは
➀Bach は何故、平均律1巻1番の34小節バス、
「C」の二分音符二つを、現在流布している楽譜のように、
タイを付けるのではなく、タイのない二つの二分音符としたのか?
②何故1番Fugueが終わってすぐに、同じページのすぐ下の段から、
2番 Preludeを書き始めたのか?ーです。
★その二つの問いに対する答えが、
実は、15番Inventionから得られる、ということを
金沢講座でお話いたしました。
★「15番 Invention& Sinfona」が、
この曲集の素晴らしいカデンツであると同時に、
インヴェンションから平均律への≪橋渡し≫をする、
大変に重要な曲である、という位置付けも
明らかになってきました。
★この点につきまして、来年2016年2月24日(水)の、
KAWAI 名古屋「平均律1巻2番 c-Moll」アナリーゼ講座で、
再度、詳しくご説明いたしますので、
ご期待ください。
★四声体という視点から、
Bach「Manuscript Autograph facsimile自筆譜」で
「15番Sinfonia」を見ますと、
レイアウト上、最初から三分の一に相当する部分、
つまり、1~12小節目3拍目までは、バス声部のabsent(不在)が、
非常に多いことが、分かります。
11小節強の間で、バスのabsent(不在)は、
ほぼ6小節にわたります。
★同様に、三分の一から三分の二に相当する、
12小節目4拍目~22小節目まで10小節強の間では、
ソプラノが3小節以上、absent(不在)です。
★この非常に華やかで、ある意味、ゴージャスな
15番 Sinfoniaの、曲頭から三分の二までは、
全声部を絶えず使った音楽ではなく、それでありながら、
いかにも、すべての声部を使い切ったような、
豪華な印象を、与えているのです。
★当ブログでかつて指摘しました、Tchaikovsky
チャイコフスキー(1840~1893)の交響曲が、意外にも、
tutti が少なく、それがためにかえって、
劇的で重厚に聴こえることに、よく似ています。
★Bach「Brandenburg Concerto ブランデンブルグ協奏曲」も、
絢爛たる響きの音楽でありながら、
総譜を見ますと、各声部がいつもいつも、
分厚くベタ塗りで、音を鳴らしているのではない、
ということと、同じです。
★15番Sinfoniaの最後の三分の一のうち、
23小節目から28小節目3拍目までは、
それ以前とは打って変わって、
四声部の音が縦横に駆け巡っています。
★その後、28小節目4拍目から34小節目6拍目、
つまり、最後の三分の一の真ん中部分までは、
今度はテノール声部が、6小節強の間に、
4小節分absent(不在)となっています。
★一見すると、平坦でシンプルな音楽にしか見えない
「Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア」を、
Bachは上記のように、四声部の配置について、
考えに考え抜いて、作曲しているのです。
★そして、この≪声部分け≫こそが、
「Wohltemperirte Clavier Ⅰ平均律クラヴィーア曲集第1巻」への、
≪扉≫を開け放ち、広大な視界を現出させるカギである、
ということなのです。
それを十全に理解するためには、絶え間ない
Bachの真摯な勉強が欠かせません。
★2016年金沢アナリーゼ講座は、1月20日(水)、2月17日(水)。
Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)の「月光ソナタ」、
「Für Elise エリーゼのために」、Chopinの「雨だれ」の三曲を、
二回にわたって、ゆっくりと勉強する予定です。
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