■Bach 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 2番アナリーゼ講座■
~London original manuscript が発する強烈なメッセージ~
2013.6.7 中村洋子
(ハマナス)
★6月13日の KAWAI 表参道 アナリーゼ講座は、
Bach 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 2番 c-Moll です。
この prelude も 「 二部構成 ( binary form ) 」 です。
★新バッハ全集を基にした Bärenreiter ベーレンライター版 や、
定評ある Henle ヘンレ版 などの 「 実用譜 」 では、ほとんど、
prelude の第 1小節目から、繰り返し記号のある 12小節目までを、
見開き 2ページの左側に配置し、
右ページは、13小節目から最後の 28小節目までとしています。
一見、整合性がとれ、見やすい楽譜のようです。
★その実用譜のレイアウト通りに、前半 12小節目まで 2回弾き、
次に後半を、2回繰り返しますと、
前半と後半を、別々の独立したパートとして感じながら、
弾くことになります。
そのように演奏しますと、どう聴こえるのでしょうか?
≪ 単調で、退屈な、短い練習曲 ≫ となります。
( 紫陽花 )
★それゆえ、この 2番 prelude については、一般的に
「 2声の Invention インヴェンション的な構造の曲である 」 という、
二重の意味で、はなはだ誤った解説が、広く流布しています。
★二重の意味というのは、まず、
≪ Invention ≫ に対する誤解です。
「 Invention は、 Wohltemperirte ClavierⅠ
平均律クラヴィーア曲集第 1巻 への入門的な曲であり、
難易度も高くない 」 という、大きな誤解です。
これまでの講座で、何度も指摘してきましたが、
Wohltemperirte ClavierⅠ の完成が 1722年、
Invention の完成が 1723年であり、
Inventionは、Wohltemperirte ClavierⅠ を、
凝縮したような曲です。
★たとえ Bach が、教育的な見地から入門書としての性格を、
考えていたとしても、出来上がった 「 Inventionen und
Sinfonien 」 は、
「 Wohltemperirte ClavierⅠ」 の上に聳え立つ、
恐ろしいまでに、濃密な曲集となっているのです。
★ちなみに、そうした誤った解説によりますと、
Invention風の曲は、 「 Wohltemperirte ClavierⅡ
平均律第 2巻 」 の中に 7曲ある、としています。
No.2 c-Moll、 No.8 dis-Moll、No.10 e-Moll、No.19 A-Dur、
No.20 a-Moll、 No.22 b-Moll、No.24 h-Moll です。
しかし、その分類は、平均律の本質を見極めるうえで、
大変に、末梢的で浅薄な見方であると、思います。
( 紫陽花 )
★この 7曲は、表面的には、
Invention に、似ているように見えます。
しかし、内容は、大きく異なるのです。
これがもう一つの誤解なのです。
★ 一体 ≪ インヴェンション的 ≫ な曲とは、
どういうことを、意味しているのでしょうか?
肝心なことは、≪ インヴェンション的 ≫ とされる曲の、
どこが、どう ≪ インヴェンション ≫ と異なるのか、
それを、分析することです。
★表面的な類似点を探すより、
Bach が何故、 「 Wohltemperirte ClavierⅡ」 で、
たくさんの曲を、 「 二部構成 ( binary form ) 」 で書いたのか・・・
それを考えることが、何よりも、重要になってきます。
それは、Bach が何故、 「 Wohltemperirte Clavier
平均律クラヴィーア曲集 」 を、第 1巻だけでなく、
第 2巻まで書いたのかという、巨大な謎にも、
迫ることになるからです。
( ドクダミ )
★ 「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ」 には、
prelude が 「 二部構成 ( binary form ) 」 の曲は、
No.2、No.5、No.8、No.9、No.10、No.12、No.15、
No.18、No.20、No.21 と、10曲もあります。
ちなみに、 「 Wohltemperirte ClavierⅠ」 では、
No.24 h-Moll ロ短調のみ、
「 Inventionen und Sinfonien 」 では、
No.6 E-Dur ホ長調だけです。
★上記のたくさんの疑問に答えてくれるのは、やはり、
Bach と アンナ・マグダレーナAnna Magdalena Bach
(1701~ 1760) の自筆譜である ≪ ロンドン写本 ≫
( London original manuscript1739~1742
The British Library 所蔵 ) です。
★この≪ ロンドン写本 ≫( London original manuscript ) で、
Bach は、強烈なメッセージを発しています。
レイアウトが、実用譜と全く異なっています。
( 苧環 )
★1ページが 6段の楽譜。
見開き左ページは、第 1小節目から、2回目の繰り返しの途中までです。
1回目の繰り返しが終わっても、そのまま 2回目の部分を書き続け、
残りを、右ページ 4段で書いています。
しかも、4段目は最後の 28小節目だけです。
5、 6段目は空白にしています。
どうして、このような変則的なレイアウトにしたのでしょうか?
★これは、 誤った意味での ≪ インヴェンション的 ≫ に、つまり、
≪ 単調で、退屈な、短い練習曲 ≫ 風には、
絶対に弾くべきではない、
という Bach の、強い意思の表れでしょう。
逆にいいますと、≪ ロンドン写本 ≫ を読み解いて初めて、
この 2番を、Bach の意図通りに、
演奏することができる、といえます。
★それを、見事に分析しているのが、
天才 Bartók Béla バルトーク (1881~1945)です。
「 Bartók 校訂版・平均律クラヴィーア曲集 」 で、
それが、はっきりと示されています。
★さらに、2番 prelude と fugue が、ともに 28小節という、
全く同数の小節からできていることも、この 2番を分析する上で、
大変に、重要なカギとなっています。
この解析は、推理小説より面白いともいえます。
★6月 13日の KAWAI 表参道 アナリーゼ講座で、
これらのことを、詳しくお話いたします。
(芙蓉)
■ 日 時 : 2013年 6月13日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分
■ 会 場 : KAWAI 表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■ 予 約 : Tel. 03-3409-1958
■ 講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003年~ 05年:アリオン音楽財団 ≪ 東京の夏音楽祭 ≫ で
新作を発表。
07年:自作品 「 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
W.ベッチャー氏が演奏した CD 『 w.ベッチャー日本を弾
く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD ソプラノとギターの 『 星の林に月の船 』 を発表。
08~09年: 「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座」
全 15回を開催。
09年 10月: 「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」 が、W.ベッチャー氏に
よりドイツ・マンハイムで 初演される。
10~12年: BACH平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリ
ーゼ講座(24回) を、カワイ表参道で開催。
10年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲
第 1番 」 が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・
リース&エアラー社から出版される。
CD 『 無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』 W.ベッチャー
演奏を発表。
「 Regenbogen-Cellotrios レーゲンボーゲン・
チェロトリオス( 虹のチェロ三重奏曲集 )」 が、ドイツ・
ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack 社から出版される。
11年 4月: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための10の曲集 」
が、「 Ries & Erler Berlin 」 ベルリン・
リース&エアラー社から出版される。
12年12月:「 Zehn Phantasien für Celloquartett
(Band 1,Nr.1-5) チェロ4重奏のための10の
ファンタジー(第 1巻、1~5番)」が、
ドイツ・ドルトムント Musicverlag Hauke Hack
社から出版される。
・ スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 と CD は、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で、
販売中。
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