■名古屋 「 亀末廣 」 が突然閉店、なんと悲しいことでしょう■
2012.11.5 中村洋子
( 亀末廣・茶三昧 )
★ことしは、夏から一気に初冬へと、滑り落ちたような気がします。
スリーブを風になびかせ、軽やかに心地よく歩く秋が、
とても短かかったように、感じます。
それでも、先週は橙色に輝く、大きな大きな満月を、
輪郭から溢れ出るような 「 秋の名月 」 を、楽しみました。
★10月 31日は、名古屋でのアナリーゼ講座でした。
名古屋へ行きますのは、講座以外に、
実は、密かな楽しみがあるからなのです。
★お笑い芸人によって、テレビなどで、
面白おかしく、誇張して語られる 「 名古屋弁 」 は、
本当の名古屋弁ではない、ようです。
旧城下町の老舗には、上品な、言葉遣いが、
まだまだ、残っているのです。
( 亀末廣・寒具 )
★私は、大の和菓子党なのです。
名古屋に行く度、中区錦にある 「 亀末廣 」 さんを訪ね、
存在感溢れるお干菓子や、生菓子を眺め、
その歴史の厚みが伝わる美しさに、感嘆の声を上げながら、
お店の奥様やご主人と、取りとめのないお話をするのが、
とっても、楽しみでした。
★そして、私用には “ これ ” 、あの人のためには “ これ ” 、
お世話になった方には “ あれ ” と、少しずつ、
美しく包装して頂きます。
それを初めてお召し上がりになる方の、喜び、感動されるお顔を、
想像しては、いつも、微笑んでいました。
★そんな思いで、KAWAI での講座を終え、いそいそと、
「 亀末廣 」 さんまで、たどり着きました。
硝子戸の貼紙を見て、衝撃をうけました。
( 亀末廣・雛祭りのお菓子 )
★≪お客様各位
お知らせ
日頃は格別のお引き立てを賜り厚くお礼申し上げます。
さて、突然ですが、
明治 29年 京都亀末廣より名古屋分家として独立以来
約 115年余にわたり、ひとかたならぬご愛顧を戴いて
まいりましたが、
この度、諸般の事情により本年 7月 31日(火)をもって
閉店し、京都本店に暖簾と看板をお返しすることに致しました。
お客様ならびに関係各位には大変ご迷惑をおかけすることを
謹んでお詫び申し上げますとともに、
これまでのご愛顧に対し、心より、お礼申し上げます。
平成 24年 7月
名古屋亀末廣 敬白 ≫
★このお店は、ビルに挟まれ、外見は質素、
「 亀末廣 」 という、雄渾な字体の看板を見落としますと、
行き過ぎてしまうような店構えです。
しかし、一歩、足をお店に踏み入れますと、
見えない魂柱が屹立しているような、厳しさが伝わってきます。
最高の味を、粋を、知り尽くした茶人との、
“ 真剣勝負の空間 ” だったのです。
★お味の素晴らしさについて、ここで書くのは、
野暮かもしれません。
しかし、かつて仄聞しました話を一つ、
不正確なところがあるかもしれませんが、
思い出しながら、記します。
★「 亀末廣 」 の、最も有名なお茶菓子が、「 茶三昧 」 です。
硬く固めた漉餡を、黍粉の焼物で上下に挟んだお菓子です。
軽く羽のような舌触りの焼物、餡はどっしりとした重い歯応え、
腐葉土色の餡を、淡い土色の衣で包みます。
変容する大地の色合いです。
まさに、名品です。
★三~四十年前のことだそうです。
「 黍の味が変わった 」 という、苦情が、
ご贔屓の方々から、寄せられたそうです。
「 黍に漂っていた仄かな苦味が消え、
味が、単調になった 」 。
★お店は、徹底的にお調べになったそうです。
直ぐに、その理由が判明しました。
それまでは、杵を使って、黍を手で搗いていたそうですが、
それを、機械搗きに変えた直後から、味に変化が・・・。
しかし、何故 「 仄かな苦味が消えた 」 のか。
★もう一度、杵で搗きましたところ、同じ苦味が蘇りました。
変わったのは、杵を使わなくなったことしかありません。
「 杵で搗くことにより、杵の木の成分が、ごくごく微量ながら、
黍に混じり、それが苦味という絶妙な風味を醸しだす 」 、
という結論に。
それ以来、手による杵搗きに、戻されたそうです。
★目で色彩を、舌で感触の変化を、
そして最後に、味わいを心ゆくまで楽しむ。
どこまでも奥ゆかしい甘み。
これが 「 雅 」 です。
伝統の味は、一朝一夕には出来ないようです。
★このお話一つからでも、「 亀末廣 」 というお店と、
それを支え続けてきた茶人たちの、洗練度が分かります。
日本の伝統文化の粋とも、言えるでしょう。
★最近は、有名なお店でも、和菓子、洋菓子に限らず、
トレハロースなど食品添加物、保存料、旨み調味料などを、
平然と、混入しています。
添加物まみれ、と言っていいほどです。
★私は、過敏症気味ですので、そうした食品を摂取いたしますと、
半日は、体調が不良になってしまいます。
本物の嗜好品を、求めることが、
ますます、困難な時代になりつつあります。
「 苦味 」 が、美味の必須要素であることすら、
知らない方が、増えているかもしれません。
★京都 「 亀末廣 」 のお干菓子も、何度か味わいましたが、
私には、名古屋 「 亀末廣 」 のほうが、より洗練され、
妥協のない、凛とした味のように思われます。
★「 亀末廣 」 さんの閉店は、突然の訃報にも似ています。
私はこれまで、当たり前のように、 “ 綺麗、美味しい ” と、
無邪気に、味わってきましたが、
その最高の水準を維持されてきた陰には、さぞかし、
窺い知れないようなご努力、ご苦労が山のように、
おありになったことでしょう。
★「 暖簾と看板を返却 」 しての、突然の閉店は、
寸毫たりとも、質を落としたくない、
という 「 矜持 」 の、表れなのでしょう。
見事な、散り方です。
本当に、ご苦労さまでした。
掛け替えのない文化が消滅し、寂しく、
悲しい思いで、一杯です。
( 亀末廣・茶三昧 )
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名古屋亀末廣さんの流れを汲む亀広良さんで茶三昧を復活されるそうです。
https://www.facebook.com/kamehiroyoshi
他にも直伝銘菓を引き継いでおられます。
もしご存知でいらしたらご容赦くださいませ。