音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ 観世寿夫さんの歴史的名演 「 邯鄲 」 が、日本で初公開 ■

2012-11-12 12:01:28 | ■伝統芸術、民俗音楽■

■ 観世寿夫さんの歴史的名演「邯鄲」が、日本で初公開 ■
 ~ お能の新雑誌 ≪ 花もよ ≫ の付録 CDで ~

                2012.11.12 中村洋子

 

 


15日に、KAWAI表参道で開催する 「 クリスマス・アナリーゼ講座 」

の準備で、忙しい毎日です。

http://shop.kawai.co.jp/omotesando/news/pdf/lecture20121115_nakamura.pdf

先月 10月は、28日( 日 )に横浜みなとみらい、

31日(水)は、名古屋でアナリーゼ講座がございましたので、

終わった後の息抜きで、11月 1日( 木 )に、

国立能楽堂へ、「 11月公演 」 を見に参りました。

秋の月が美しい、夕べでした。


★演目は、小舞 「 海道下り 」 山本東次郎 と、

観世流能 「 三井寺 」 でした。


★「 三井寺 」 は、秋の能です。

人さらいに、我が子を奪われた駿河の女が、

京に上がり、清水寺に参詣します。

観世音菩薩から、夢で 「 子供は三井寺 」 と、告げられます。

狂女と化した女は、三井寺へと飛びます。


★三井寺は、「 中秋の名月 」 の観月会。

狂女は、制止を振り切って鐘楼に上り、

取憑いたように、鐘を撞きます。

しんしんと更ける秋の夜。

月明かりに映える狂女の横顔。

寺の稚児となっていた我が子 「 千満丸 」 は、

“ もしや、自分の母ではないか ” と、

問い質します。

正気に戻った母は、再会の喜びにひたり、

手を取り合い、故郷へと戻ります。

 

 


★捜し求めた我が子が亡くなっていた 「 隅田川 」 とは異なり、

このお能は、幸せな結末です。

八人の地謡 ( 浅見真州、藤波重彦・・・ ) と、

笛、小鼓、太鼓が、緊密に絡み、劇的に緊張感を高めます。

地謡が、一糸乱れぬすさまじい迫力で、

女の運命を、突き動かしていきます。


★ことに素晴らしかったのは、アイ/能力の山本則俊さん。

「 海道下り 」 でも、地謡をつとめましたが、

「 三井寺 」 では、名鐘を撞く場面で登場し、

鐘の音を、声で 「 ノオーン、ノオーン 」 と表現します。


この 「 ノオーン 」 の中に、どれだけ豊かなリズムが、

息づいていることか・・・、

痺れるように、感動しました。

なるほど、鐘の霊力とはこのようなものか、と分かります。

これだけの感動は、最近聴いたクラシック音楽で、

果たして、あったかしら? と思います。

 

 


★ロビーで、久しぶりに 「 檜書店 」 の出店に顔を出しました。

懐かしい出店。

お亡くなりになった椙杜茂正さんが、生前、

“ 鴨捕り権兵衛さん ” を、なさっていたところです。

そこで、最近、発刊されました雑誌 

≪ 花もよ ≫ の 4号を、求めました。

≪ 花もよ ≫ は、「 能と狂言総合誌 」 と銘打たれ、

直近の能楽評から、今後の公演予定などが、満載、

今号は、キーン・ドナルド Keene Donald  さんの

 「 大果報者でござる 」 という、

興味深いインタビューも、掲載されています。


★1953年、京都大学に留学して直ぐ、茂山千之丞さんから直接、

狂言を習った、という逸話などが、面白おかしく書かれています。

外国人で、狂言を習った最初の人だそうです。

その後、1960年代には、桜間道雄さんから謡もお習いに。

まさに、「 大果報者 」 ですね。


★キーンさんは、10代からニューヨークのメトロポリタン歌劇場に、

通いつめたオペラファンでもあり、全盛期のマリア・カラス

Maria Callas (1923~1977) も、体験されたそうです。

そのカラスに匹敵するような舞台は、1950年代に活躍された、

先代の喜多六平太さんの 「 鷺 」 だった、そうです。

思い出すだけでも、背中がぞくぞくする、

人間が演じているとは思えないような、名演だったそうです。

 


★この雑誌 ≪ 花もよ ≫ の、最大の特徴は、付録の CDです。

今回は、驚くべきことに、観世寿夫さんの 「 邯鄲 」 が、

入っていました。

1959年、アメリカでのみ発売され、日本では未発表だった

LPレコードを、CD化したものです。

シテ:観世寿夫、 ワキ:宝生弥一、 アイ:野村万作、

地頭:観世静夫(八世銕之丞静雪)、 笛:寺井政数、

小鼓:三須錦吾(幸正影)、 太鼓:安福春雄、

太鼓:観世元信 という、

空前絶後の、大マエストロたちによる饗宴です。


★帰宅後、すぐに聴き、また感動。

歴史的な名演です。

「 ノオーン、ノオーン 」 と同じリズム、

心地よいリズムが、52分間のCDに、満ち満ちていました。

 

 


最近、日本でのクラシック音楽の演奏会に、

あまり足が向かなくなったのは、

観世寿夫さんや山本則俊さん、フルトヴェングラー 

Wilhelm Furtwängler (1886~1954) の、

湧き上がる ≪ リズム ≫ が、

感じられないからです。

 

★それが、どこからくるのか、

そこを、考えているところです。


★≪ 花もよ ≫ は、隔月刊で、定価750円。

購読は、檜書店まで。

電話:03-3291-2488、 FAX : 03-3295-3554

http://www.hinoki-shoten.co.jp/

 


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