音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ バッハ・シンフォニア12番の直筆譜から、読み取れること ■■

2009-07-26 13:43:23 | ■私のアナリーゼ講座■
■■ バッハ・シンフォニア12番の直筆譜から、読み取れること ■■
                 09.7.26   中村洋子


★カワイ表参道「コンサートサロン・パウゼ」での、

「第12回 バッハ・インヴェンション アナリーゼ講座」が、

明後日となりました。

09.7.5のブログ「大バッハは、本当に“古い”対位法だけで

作曲していたか?」で、「シンフォニア12番」の様式について、

触れましたが、今回は、直筆譜と原典版楽譜との、

「符尾の位置」の違い、についてお話いたします。


★この違いについて、

「バッハの符尾の書き方が、現在の印刷譜と異なるのは、

大したことではない、当時の習慣によってバッハが、書いただけ」、

という反論が、あろうかと思いますが、以下は、私の見解です。


★バッハは、「シンフォニア 12番」を、

「上声をソプラノ記号、下声をバス記号(ヘ音記号)とアルト記号」を、

使って、書いています。

これを、「大譜表(上声をト音記号、下声をバス記号)」に、

書き換えますと、符尾の書き方が、バッハの書いたものと、

当然、異なってきます。

それにしても、バッハが、符尾の位置を換えることにより、

≪意図的≫に、「何かを伝えたい」と、

そのようにしたことも、多いのです。


★符尾の位置の相違点を、一部、列挙いたします。

・2小節目の下声、3、4拍目の8分音符について:

バッハは、3拍目初めの「A」の符尾を「上向き」、

次の1オクターブ上の「A」と、「Gis」、「Fis」の符尾を、

「下向き」にし、さらに、この4つの音を、

1本の「譜鉤」で、結んでいます。

・ベーレンライター版は、この4音をすべて「下向き」とし、

「譜鉤」で結んでいます。

・ヘンレ版は、4音をすべて「上向き」とし、「譜鉤」で結ぶ。


★3種類を比べますと、バッハの書き方が、圧倒的に、

「分かりやすい」と思います。

大バッハの弟子や息子たちは、ここを、どのようなフレージングで、

弾くべきか、楽譜を見れば、一目瞭然、

直接に教えてもらわなくても、

自然に、演奏できたことでしょう。


★・5小節目 内声の1拍目について:

バッハは、「Cis」の符尾は「上向き」、

直後の1オクターブ上の「Cis」と「Fis」は、「下向き」。

その3音を、1本の「譜鉤」で結んでいます。


★バッハが、このように、書いたのは、

「最初の「Cis」が、フレーズの終わりの音、

次の「Fis」が、新しいフレーズの始まり」と、

意識させるためです。

・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、この3音を、

「下向き」の符尾で、1本の譜鉤で結んでいます。


★7小節目 内声の3つの音すべてについて:

・バッハは、符尾をすべて「上向き」に。

・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、

この3音を、「下向き」の符尾にしています。


★一見したところ、ベーレンライター版とヘンレ版のほうが、

整った形になっており、

最初の「Gis」の音は、ソプラノ記号では、第3線ですので、

「上向き」でも「下向き」でも、可能なのです。

なぜ、バッハが、あえて、「変則的」な書き方をしたか?


★11小節目の3拍目から、12小節目最後までの「下声」について:

・バッハは、9小節目からずっと、符尾を「下向き」にして、

書いていましたが、ここから、急にすべてを、

「上向き」に、換えています。

・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、ここは、

11小節目の1拍目から、「上向き」とし、

12小節目最後まで、続けています。

両版とも、小節の冒頭から、符尾の「向き」が換わっており、

大変に、「整った見映えのいい楽譜」という印象を受けます。


★16小節目 下声2拍目について:

・バッハは、4つの16分音符の1番目の「H」を「下向き」、

次の「Cis」を「上向き」、3番目にくる1オクターブ上の

「Cis」、4番目の「H」を、「下向き」にし、

それらを、1本の譜鉤で結んでいます。

・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、この4つの音を、

「下向き」の符尾で、1本の譜鉤で結んでいます。


★その他、重要な変則的記譜がある小節を、以下に列挙しますが、

なぜ、バッハがそう書いたかは、「当時の習慣」だけでは、

絶対に、説明しきれず、その「変則」の中にこそ、

深い内容が、秘められているのです。


★「17小節目の内声の符尾の書き方が変則的」

「18小節目の3拍目で段落を換えている」

「21小節目の3拍目で段落換え」

「23小節目の3、4拍目のバスの符尾の位置が変則的」

「25小節目 バスの2拍目の符尾の位置が変則的」

「26小節目 ソプラノの4拍目の符尾の書き方が変則的」

「27小節目 内声の3拍目の符尾の書き方が変則的」


★特に、「28小節目後半から、31小節目前半」にかけての、

この曲の頂点となる部分に関して、バッハは、

内声とソプラノの符尾の書き方により、

≪ここを、どう演奏すべきか≫

豊かに、ヒントを指し示しています。

これらは、カワイ・アナリーゼ講座で、お話いたしますが、

バッハの≪意図と示唆≫を、記憶に叩き込むことが、

「暗譜の近道」でもある、といえます。

      
                    (名無しのキノコ)
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