■■ バッハ・シンフォニア12番の直筆譜から、読み取れること ■■
09.7.26 中村洋子
★カワイ表参道「コンサートサロン・パウゼ」での、
「第12回 バッハ・インヴェンション アナリーゼ講座」が、
明後日となりました。
09.7.5のブログ「大バッハは、本当に“古い”対位法だけで
作曲していたか?」で、「シンフォニア12番」の様式について、
触れましたが、今回は、直筆譜と原典版楽譜との、
「符尾の位置」の違い、についてお話いたします。
★この違いについて、
「バッハの符尾の書き方が、現在の印刷譜と異なるのは、
大したことではない、当時の習慣によってバッハが、書いただけ」、
という反論が、あろうかと思いますが、以下は、私の見解です。
★バッハは、「シンフォニア 12番」を、
「上声をソプラノ記号、下声をバス記号(ヘ音記号)とアルト記号」を、
使って、書いています。
これを、「大譜表(上声をト音記号、下声をバス記号)」に、
書き換えますと、符尾の書き方が、バッハの書いたものと、
当然、異なってきます。
それにしても、バッハが、符尾の位置を換えることにより、
≪意図的≫に、「何かを伝えたい」と、
そのようにしたことも、多いのです。
★符尾の位置の相違点を、一部、列挙いたします。
・2小節目の下声、3、4拍目の8分音符について:
バッハは、3拍目初めの「A」の符尾を「上向き」、
次の1オクターブ上の「A」と、「Gis」、「Fis」の符尾を、
「下向き」にし、さらに、この4つの音を、
1本の「譜鉤」で、結んでいます。
・ベーレンライター版は、この4音をすべて「下向き」とし、
「譜鉤」で結んでいます。
・ヘンレ版は、4音をすべて「上向き」とし、「譜鉤」で結ぶ。
★3種類を比べますと、バッハの書き方が、圧倒的に、
「分かりやすい」と思います。
大バッハの弟子や息子たちは、ここを、どのようなフレージングで、
弾くべきか、楽譜を見れば、一目瞭然、
直接に教えてもらわなくても、
自然に、演奏できたことでしょう。
★・5小節目 内声の1拍目について:
バッハは、「Cis」の符尾は「上向き」、
直後の1オクターブ上の「Cis」と「Fis」は、「下向き」。
その3音を、1本の「譜鉤」で結んでいます。
★バッハが、このように、書いたのは、
「最初の「Cis」が、フレーズの終わりの音、
次の「Fis」が、新しいフレーズの始まり」と、
意識させるためです。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、この3音を、
「下向き」の符尾で、1本の譜鉤で結んでいます。
★7小節目 内声の3つの音すべてについて:
・バッハは、符尾をすべて「上向き」に。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、
この3音を、「下向き」の符尾にしています。
★一見したところ、ベーレンライター版とヘンレ版のほうが、
整った形になっており、
最初の「Gis」の音は、ソプラノ記号では、第3線ですので、
「上向き」でも「下向き」でも、可能なのです。
なぜ、バッハが、あえて、「変則的」な書き方をしたか?
★11小節目の3拍目から、12小節目最後までの「下声」について:
・バッハは、9小節目からずっと、符尾を「下向き」にして、
書いていましたが、ここから、急にすべてを、
「上向き」に、換えています。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、ここは、
11小節目の1拍目から、「上向き」とし、
12小節目最後まで、続けています。
両版とも、小節の冒頭から、符尾の「向き」が換わっており、
大変に、「整った見映えのいい楽譜」という印象を受けます。
★16小節目 下声2拍目について:
・バッハは、4つの16分音符の1番目の「H」を「下向き」、
次の「Cis」を「上向き」、3番目にくる1オクターブ上の
「Cis」、4番目の「H」を、「下向き」にし、
それらを、1本の譜鉤で結んでいます。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、この4つの音を、
「下向き」の符尾で、1本の譜鉤で結んでいます。
★その他、重要な変則的記譜がある小節を、以下に列挙しますが、
なぜ、バッハがそう書いたかは、「当時の習慣」だけでは、
絶対に、説明しきれず、その「変則」の中にこそ、
深い内容が、秘められているのです。
★「17小節目の内声の符尾の書き方が変則的」
「18小節目の3拍目で段落を換えている」
「21小節目の3拍目で段落換え」
「23小節目の3、4拍目のバスの符尾の位置が変則的」
「25小節目 バスの2拍目の符尾の位置が変則的」
「26小節目 ソプラノの4拍目の符尾の書き方が変則的」
「27小節目 内声の3拍目の符尾の書き方が変則的」
★特に、「28小節目後半から、31小節目前半」にかけての、
この曲の頂点となる部分に関して、バッハは、
内声とソプラノの符尾の書き方により、
≪ここを、どう演奏すべきか≫
豊かに、ヒントを指し示しています。
これらは、カワイ・アナリーゼ講座で、お話いたしますが、
バッハの≪意図と示唆≫を、記憶に叩き込むことが、
「暗譜の近道」でもある、といえます。
(名無しのキノコ)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.7.26 中村洋子
★カワイ表参道「コンサートサロン・パウゼ」での、
「第12回 バッハ・インヴェンション アナリーゼ講座」が、
明後日となりました。
09.7.5のブログ「大バッハは、本当に“古い”対位法だけで
作曲していたか?」で、「シンフォニア12番」の様式について、
触れましたが、今回は、直筆譜と原典版楽譜との、
「符尾の位置」の違い、についてお話いたします。
★この違いについて、
「バッハの符尾の書き方が、現在の印刷譜と異なるのは、
大したことではない、当時の習慣によってバッハが、書いただけ」、
という反論が、あろうかと思いますが、以下は、私の見解です。
★バッハは、「シンフォニア 12番」を、
「上声をソプラノ記号、下声をバス記号(ヘ音記号)とアルト記号」を、
使って、書いています。
これを、「大譜表(上声をト音記号、下声をバス記号)」に、
書き換えますと、符尾の書き方が、バッハの書いたものと、
当然、異なってきます。
それにしても、バッハが、符尾の位置を換えることにより、
≪意図的≫に、「何かを伝えたい」と、
そのようにしたことも、多いのです。
★符尾の位置の相違点を、一部、列挙いたします。
・2小節目の下声、3、4拍目の8分音符について:
バッハは、3拍目初めの「A」の符尾を「上向き」、
次の1オクターブ上の「A」と、「Gis」、「Fis」の符尾を、
「下向き」にし、さらに、この4つの音を、
1本の「譜鉤」で、結んでいます。
・ベーレンライター版は、この4音をすべて「下向き」とし、
「譜鉤」で結んでいます。
・ヘンレ版は、4音をすべて「上向き」とし、「譜鉤」で結ぶ。
★3種類を比べますと、バッハの書き方が、圧倒的に、
「分かりやすい」と思います。
大バッハの弟子や息子たちは、ここを、どのようなフレージングで、
弾くべきか、楽譜を見れば、一目瞭然、
直接に教えてもらわなくても、
自然に、演奏できたことでしょう。
★・5小節目 内声の1拍目について:
バッハは、「Cis」の符尾は「上向き」、
直後の1オクターブ上の「Cis」と「Fis」は、「下向き」。
その3音を、1本の「譜鉤」で結んでいます。
★バッハが、このように、書いたのは、
「最初の「Cis」が、フレーズの終わりの音、
次の「Fis」が、新しいフレーズの始まり」と、
意識させるためです。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、この3音を、
「下向き」の符尾で、1本の譜鉤で結んでいます。
★7小節目 内声の3つの音すべてについて:
・バッハは、符尾をすべて「上向き」に。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、
この3音を、「下向き」の符尾にしています。
★一見したところ、ベーレンライター版とヘンレ版のほうが、
整った形になっており、
最初の「Gis」の音は、ソプラノ記号では、第3線ですので、
「上向き」でも「下向き」でも、可能なのです。
なぜ、バッハが、あえて、「変則的」な書き方をしたか?
★11小節目の3拍目から、12小節目最後までの「下声」について:
・バッハは、9小節目からずっと、符尾を「下向き」にして、
書いていましたが、ここから、急にすべてを、
「上向き」に、換えています。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、ここは、
11小節目の1拍目から、「上向き」とし、
12小節目最後まで、続けています。
両版とも、小節の冒頭から、符尾の「向き」が換わっており、
大変に、「整った見映えのいい楽譜」という印象を受けます。
★16小節目 下声2拍目について:
・バッハは、4つの16分音符の1番目の「H」を「下向き」、
次の「Cis」を「上向き」、3番目にくる1オクターブ上の
「Cis」、4番目の「H」を、「下向き」にし、
それらを、1本の譜鉤で結んでいます。
・ベーレンライター版、ヘンレ版とも、この4つの音を、
「下向き」の符尾で、1本の譜鉤で結んでいます。
★その他、重要な変則的記譜がある小節を、以下に列挙しますが、
なぜ、バッハがそう書いたかは、「当時の習慣」だけでは、
絶対に、説明しきれず、その「変則」の中にこそ、
深い内容が、秘められているのです。
★「17小節目の内声の符尾の書き方が変則的」
「18小節目の3拍目で段落を換えている」
「21小節目の3拍目で段落換え」
「23小節目の3、4拍目のバスの符尾の位置が変則的」
「25小節目 バスの2拍目の符尾の位置が変則的」
「26小節目 ソプラノの4拍目の符尾の書き方が変則的」
「27小節目 内声の3拍目の符尾の書き方が変則的」
★特に、「28小節目後半から、31小節目前半」にかけての、
この曲の頂点となる部分に関して、バッハは、
内声とソプラノの符尾の書き方により、
≪ここを、どう演奏すべきか≫
豊かに、ヒントを指し示しています。
これらは、カワイ・アナリーゼ講座で、お話いたしますが、
バッハの≪意図と示唆≫を、記憶に叩き込むことが、
「暗譜の近道」でもある、といえます。
(名無しのキノコ)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲