■「弾き初め」、「聴き初め」、シューベルトの「 Crescendo 」■
10.1.7 中村洋子
★新年、明けまして、おめでとうございます。
「書初め」のように、新年初めての、お目出たい「弾き初め」や、
「聴き初め」を、皆様は、どの曲でなさいましたか。
★私の CDの 「聴き初め」は、今春に発表いたします、
私の作曲しました 「無伴奏チェロ組曲2番、3番」の、
マスタリング途中のCD-Rを、元旦に、聴くことでした。
2枚目のCDは、エドウィン・フィッシャーのピアノ、
フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団による、
ベートーヴェン作曲 「ピアノ協奏曲第5番 Op.73 皇帝」でした。
★一枚目は、ベッチャー先生の素晴らしい演奏。
二枚目は、本当に人類の宝物のような作品と、演奏です。
清々しい、聴き初めでした。
★「弾き初め」は、当然ですが「平均律クラヴィーア曲集」
第 1巻 1番のプレリュードとフーガを、
心を込めて、元旦に弾きました。
★1月26日に、カワイ表参道「パウゼ」で、開催いたします、
「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」で、扱う曲です。
既に、たくさんの皆さまから、ご予約いただいていますが、
なかには、「平均律は難しいのでは?」と不安を訴えられる、
お問い合わせも、かなりあるようです。
★「平均律」に関する、出版物や解説本を眺めますと、
私でさえ、逃げ出したくなるような、難解な怖い曲であるかのように、
書かれている、という印象もあります。
★バッハの「マタイ受難曲」の、ドイツ語歌詞は、
多少、古いドイツ語であるようですが、現代でも、
一般のドイツ人なら、誰が聴いていも、本当によく分かり、
力強い言葉で、書かれているそうです。
★ところが、それを、CDなどの解説に付いている、
日本語訳で読みますと、どの時代の日本語なのか不明な、
文語体になっている場合が多く、その結果、
難解で、もったいぶった、不思議な日本語となっています。
★ドイツ語に親しんでいない方でしたら、
バッハの「マタイ受難曲」は、さぞかし難しく書かれていると、
想像されてしまうことでしょう。
★「平均律クラヴィーア曲集」も、これと同じことが言えるようです。
バッハの音楽に素直に、飛び込んでみれば、何も難しいことはありません。
もし、難しいところがあったとしますと、難しいところは、分かりやすく、
分かりやすい部分は、さらに深く理解することを目指したいと、思います。
★弾き初めの2曲目は、シューベルトの「即興曲」
D.935 ( Op.post.142 )Nr.2 でした。
昨年、たまたま聴いていましたラジオの音楽番組で、
この「即興曲集」を「心のおもむくまま、即興的に作曲した曲集」と、
解説していました。
また、日本で出版されている楽譜にも、
そのように書かれている本も、あります。
★シューベルトが残した、この即興曲の「手書き譜」を見ますと、
最初の16小節を、斜線で抹消しています。
その後、あたかも“即興”で、書いたかのように見える
現在の決定稿に、書き直しています。
これにより、さらさらと自然に流れ、“即興”と思わせるような、
旋律の運びを、獲得しています。
★晩年のシューベルトの作曲技法の妙味が、この16小節から、
大変によく、味わえます。
★さらに、重要なことは、7小節目の「 crescendo 」の扱い方です。
現在の実用譜では、1拍目から2拍目にかけて 「 crescendo 」、
3拍目から7小節目の終わりまで「 diminuendo 」に、なっています。
★ところが、シューベルトの「手書き譜」では、
「 crescendo 」が、1拍目から3拍目まで、大きく伸びており、
驚くべきことに、その「 crescendo 」の記号のなかに、
2拍目から3拍目にかけて、「 diminuendo 」記号を、
小さく、押し込むように、書き加えています。
★そして、3拍目から、7小節と8小節を区切る小節線を突き抜け、
8小節目の最初の音まで、新たに「 diminuendo 」を、書いています。
これは、シューベルトを弾くうえで、とても、重要なヒントとなります。
★シューベルトの書いた「 crescendo 」は、聴いている人にとって、
≪「 crescendo 」と聴こえるように≫という、指示なのです。
しかし、3拍子のこの曲の1拍目よりも、2拍目の音を、
強く弾いた場合、「 crescendo 」に聴こえないばかりか、
3拍子そのものを、損なってしまいます。
★このため、弾く場合、≪1拍目より、2拍目を弱くする≫という指示が、
この「押し込められた diminuendo 」の意味です。
そして、3拍目に頂点をもっていき、8小節目の1拍目まで、
「 diminuendo 」します。
★「 crescendo 」の表示は、聴いている人にとって、
「 crescendo 」に聴こえるように、弾くことです。
しかし、演奏する際には、「 crescendo 」記号が付された
部分の音を、≪段々と強くしていくことでは、ないんだよ≫という、
気持ちを込めて、このような変則的な表記を、
シューベルトが、書き残したのでしょう。
★バッハの「平均律アナリーゼ講座」では、
このシューベルトの「crescendo」 のような「効果」を、
出そうとする場合、どのように弾けばよいか、
具体的に、お話していきたいと、思います。
(龍の髭の実)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
10.1.7 中村洋子
★新年、明けまして、おめでとうございます。
「書初め」のように、新年初めての、お目出たい「弾き初め」や、
「聴き初め」を、皆様は、どの曲でなさいましたか。
★私の CDの 「聴き初め」は、今春に発表いたします、
私の作曲しました 「無伴奏チェロ組曲2番、3番」の、
マスタリング途中のCD-Rを、元旦に、聴くことでした。
2枚目のCDは、エドウィン・フィッシャーのピアノ、
フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団による、
ベートーヴェン作曲 「ピアノ協奏曲第5番 Op.73 皇帝」でした。
★一枚目は、ベッチャー先生の素晴らしい演奏。
二枚目は、本当に人類の宝物のような作品と、演奏です。
清々しい、聴き初めでした。
★「弾き初め」は、当然ですが「平均律クラヴィーア曲集」
第 1巻 1番のプレリュードとフーガを、
心を込めて、元旦に弾きました。
★1月26日に、カワイ表参道「パウゼ」で、開催いたします、
「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」で、扱う曲です。
既に、たくさんの皆さまから、ご予約いただいていますが、
なかには、「平均律は難しいのでは?」と不安を訴えられる、
お問い合わせも、かなりあるようです。
★「平均律」に関する、出版物や解説本を眺めますと、
私でさえ、逃げ出したくなるような、難解な怖い曲であるかのように、
書かれている、という印象もあります。
★バッハの「マタイ受難曲」の、ドイツ語歌詞は、
多少、古いドイツ語であるようですが、現代でも、
一般のドイツ人なら、誰が聴いていも、本当によく分かり、
力強い言葉で、書かれているそうです。
★ところが、それを、CDなどの解説に付いている、
日本語訳で読みますと、どの時代の日本語なのか不明な、
文語体になっている場合が多く、その結果、
難解で、もったいぶった、不思議な日本語となっています。
★ドイツ語に親しんでいない方でしたら、
バッハの「マタイ受難曲」は、さぞかし難しく書かれていると、
想像されてしまうことでしょう。
★「平均律クラヴィーア曲集」も、これと同じことが言えるようです。
バッハの音楽に素直に、飛び込んでみれば、何も難しいことはありません。
もし、難しいところがあったとしますと、難しいところは、分かりやすく、
分かりやすい部分は、さらに深く理解することを目指したいと、思います。
★弾き初めの2曲目は、シューベルトの「即興曲」
D.935 ( Op.post.142 )Nr.2 でした。
昨年、たまたま聴いていましたラジオの音楽番組で、
この「即興曲集」を「心のおもむくまま、即興的に作曲した曲集」と、
解説していました。
また、日本で出版されている楽譜にも、
そのように書かれている本も、あります。
★シューベルトが残した、この即興曲の「手書き譜」を見ますと、
最初の16小節を、斜線で抹消しています。
その後、あたかも“即興”で、書いたかのように見える
現在の決定稿に、書き直しています。
これにより、さらさらと自然に流れ、“即興”と思わせるような、
旋律の運びを、獲得しています。
★晩年のシューベルトの作曲技法の妙味が、この16小節から、
大変によく、味わえます。
★さらに、重要なことは、7小節目の「 crescendo 」の扱い方です。
現在の実用譜では、1拍目から2拍目にかけて 「 crescendo 」、
3拍目から7小節目の終わりまで「 diminuendo 」に、なっています。
★ところが、シューベルトの「手書き譜」では、
「 crescendo 」が、1拍目から3拍目まで、大きく伸びており、
驚くべきことに、その「 crescendo 」の記号のなかに、
2拍目から3拍目にかけて、「 diminuendo 」記号を、
小さく、押し込むように、書き加えています。
★そして、3拍目から、7小節と8小節を区切る小節線を突き抜け、
8小節目の最初の音まで、新たに「 diminuendo 」を、書いています。
これは、シューベルトを弾くうえで、とても、重要なヒントとなります。
★シューベルトの書いた「 crescendo 」は、聴いている人にとって、
≪「 crescendo 」と聴こえるように≫という、指示なのです。
しかし、3拍子のこの曲の1拍目よりも、2拍目の音を、
強く弾いた場合、「 crescendo 」に聴こえないばかりか、
3拍子そのものを、損なってしまいます。
★このため、弾く場合、≪1拍目より、2拍目を弱くする≫という指示が、
この「押し込められた diminuendo 」の意味です。
そして、3拍目に頂点をもっていき、8小節目の1拍目まで、
「 diminuendo 」します。
★「 crescendo 」の表示は、聴いている人にとって、
「 crescendo 」に聴こえるように、弾くことです。
しかし、演奏する際には、「 crescendo 」記号が付された
部分の音を、≪段々と強くしていくことでは、ないんだよ≫という、
気持ちを込めて、このような変則的な表記を、
シューベルトが、書き残したのでしょう。
★バッハの「平均律アナリーゼ講座」では、
このシューベルトの「crescendo」 のような「効果」を、
出そうとする場合、どのように弾けばよいか、
具体的に、お話していきたいと、思います。
(龍の髭の実)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲