音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■バッハ「フルートソナタ」・「シチリアーノ」の作者は?、テレマンとの関係■

2009-07-02 01:11:29 | ■私のアナリーゼ講座■
■バッハ「フルートソナタ」・「シチリアーノ」の作者は?、テレマンとの関係■
                      09.7.2   中村洋子


★テレマン George Philipp Telemann(1681~1767)の、

「小品集を伴った小フーガ集」

「Leichte Fugen mit kleinen Stuecken TWV 30:21ー26

「Easy Fugues with little Pieces」(1738年出版)は、

小フーガの後に、演奏が容易な数曲の小品を伴った曲集です。


★全5曲で、第1番を例にとりますと、第1曲目が「Fuga prima」、

2曲目が「Vivace」、3曲目が「Allegro」、4曲目は「Presto」、

5曲目は「Allegretto」。

フーガは、2ページですが、他の曲は、

1ページ前後の、短くやさしい曲です。


★バッハの「組曲」と異なるのは、冒頭のフーガを除く他の曲が、

「ダンスの曲」ではない、ということです。

バッハでは、「アルマンド」、「クーラント」、「サラバンド」、

「メヌエット」、「ジーグ」などが、並びます。


★この曲集が、作曲されたころ、まだ、大バッハ

J.S.BACH(1685~1750)も、活躍していました。

テレマンは、バッハより、4歳年上ですが、

バッハより、17年、長生きしました。

しかし、この両巨匠が活躍していた1730年代における、

二人の作風は、大きく、違っていました。


★テレマンが、この曲集を「Galanterie - Fugen」と、

名付けたように、第一世代の「ギャラント様式」の曲です。

大バッハの、複雑で、対位法を極めた音楽様式に対し、

簡潔で、分かりやすく、後のガルッピ、クリスチャン・バッハ、

エマニュエル・バッハ、ぺルゴレージ などへと、

つながっていく、音楽といえます。


★「ギャラント」は、フランス語で「楽しみを求める」が原義。

「ギャラント様式」は、すべてが明澄で、簡素で明確な和音、

同じリズムを続けるバス、優雅なセンチメンタリズム、

三和音と短いフレーズに基づく旋律、これらが主な特徴です。


★このテレマンの曲集は、現代のピアノ学習者や、

音楽愛好家にとっても、馴染みやすく、

楽しいうえ、質が高いので、お薦めです。


★楽譜は、Schott社( ED9015 )、

Schott piano classicsシリーズの、一つです。


★バッハの有名な「フルートソナタ」BWV 1031

Sonate Es-Dur fuer Floete und obligetes Cembalo の、

作者は、現在では、バッハの息子のカール・フィリップ・

エマヌエル・バッハ Carl・Philipp ・Emanuel・Bach(1714~1788)

と、されています。

その理由として、この曲の様式が、上記のテレマンの様式に、

とても近いためです。


★しかし、この「フルートソナタ」は、

大バッハの指導と手助けによって出来た、

あるいは、バッハが自分で、かなり手を入れていたのでは、

という説も、あります。


★私は、この作者が、息子なのか、大バッハであるか、

興味ありませんが、もし、息子の作品であるならば、

彼は、大バッハの様式を骨の髄まで、染み込ませ、

理解したうえで、次の世代の曲として、創造したと思います。


★この第2楽章「シチリアーナ」の和声と形式は、

大バッハの平均律クラヴィーア曲集 1巻 1番の前奏曲を、

そのまま、移してきたものである、と言えるからです。

先月、カワイアナリーゼ講座「前奏曲とは何か」で、

お話しました、「前奏曲様式」が、完全に消化されて、

このシチリアーナが、作られています。


★「最初の4小節の和音」を、要約し、

「ト短調」を「ト長調」に変えて、弾いてみてください。

平均律クラヴィーア曲集 1巻1番の「前奏曲」と、

同じ音楽が、出現します。

また、属音や、主音の保続音の位置、使われ方を見ますと、

大バッハの前奏曲様式を、そのまま用いています。

そして、これが、ショパンの「エチュード」へと、

つながっていくことが、読み取れると思います。

息子の作であるならば、彼の力量がうかがわれます。


★この曲に、大バッハが手を入れている、

あるいは、大バッハ自身の作品である可能性については?


★壮年時のバッハは、テレマンの曲を、当然、知っていたはずです。

バッハの音楽様式を、「ギャラント様式以前の、複雑で、

手の込んだ対位法」と、固定してとらえなければ、

“バッハの作品”であった、ということもいえます。


★一人の作曲家が、一つの様式でしか書けなかった、

ということはない、と思います。

まして、あの大バッハなのですから、当然、

なんなく、新しい様式でも、作曲できたはずです。


★そんなことを考えながら、わずか33小節のシチリアーナを、

演奏することは、とても楽しいことです。

33小節という長さは、インヴェンション1曲の長さに

よく似ています。

私は、作曲家探しには、ほとんど興味ありません。

その曲の内容がすばらしく、その素晴らしさを理解し、

楽しめれば、十分です。


★10月21日にカワイ・名古屋で「第1回 バッハ・インヴェンション

アナリーゼ講座」を開催いたします。



                     (野生山吹の実と龍のひげの花)
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