音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■シンフォニア 9番での Edwin Fischer の 難しい Fingeringのもつ意味■

2011-09-21 23:55:17 | ■私のアナリーゼ講座■

 

■シンフォニア 9番での Edwin Fischer  の 難しい Fingeringのもつ意味■
     
              2011.9.21    中村洋子

 

 

★本日は、記録的な強い台風が日本を縦断し、大荒れの一日でした。

外出もできず、明後日23日 ( 祝日・金曜日) PM 2:00 から、

「横浜みなとみらい・カワイ」で、開講いたします

「 バッハ インヴェンション・アナリーゼ講座 」 の勉強で、過ごしました。


★ Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 )

「 シンフォニア 9番 」 について、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー の校訂版は、 

「 感動的な Klagelied  ( 悲嘆の歌 )  」 と評し、

左手 ( 下声 ) 1小節目 2拍  ( F ) から始まり、

2小節目 3拍の 「 C 」 まで続く半音階進行を 「 Passionsmotiv 」 

 (  キリスト受難のモティーフ ) と、しています。    


★上記の半音階は、 F → E → Es → D → Des → C 

 (  へ → ホ → 変ホ → ニ → 変ニ → ハ  ) 音ですが、

この 6つの音を、2つづつ分割しますと、

 F → E 、 Es → D 、 Des → C という 

≪ 2度音程モティーフの、畳みかけ ≫ と、なります。


9番シンフォニアは、この 「 2度音程 」 の motiv が、曲を支配しています

  「 2度音程 」 は、  Fischer フィッシャー に倣って名付けますと、

 「 Klagemotiv 」  ( 嘆きのモティーフ ) と、呼んでいいと、思います。

 

 


★この 「 Klagemotiv 」  を、どう演奏すべきか?

その答えを解く 「 鍵 」 が、  Fischer  フィッシャー 校訂版の、

「 Fingering 」  に、あるのです


★例えば、 13小節目上声 ( ソプラノ )  4拍目の 

As → G  ( 変イ → ト ) 音 の 8分音符を、

 Fischer  は、 「 5 5 」 と、 二音とも、

小指で演奏するよう、指定しています


常識的にみますと、ここは 「 5 4 」 と、

 「 小指 薬指 」 で弾くのが、最も 「 弾き易い 」 

 「 指遣い 」 です。

 「 5 5 」 は、とても弾き難い指遣いです

 それゆえ、Fischerの楽譜を、「 読み込めない 」 人たちは、     

このような 「 指遣い 」 を、ひいては、

「 Fischer  の楽譜 」 までを、非難の対象とするのです。


★しかし、この箇所を、 Fischer  の指遣いで、

 ≪ vollem Legato zu “ singen ”≫ ≪ “ sung in full legato ” ≫

 ( フルレガートで、歌う ) で、 Largo のテンポで、

弾いてみてください


★重い十字架を、痩身に背負いながら、刑場へと、

一歩一歩よろけながら歩む、キリストの足取りもかくや・・・

という音型が、眼前に、現れてきます。

 

 


★まず 「 5 5」 指の Fingering  で、その音型を体験し、

次に、各人の指の特性に合った、 「 指遣い 」 を、

探せばいいのです。


★これは、私が以前に、講座でお話ししました 「 暗譜の方法 」 とも、

深い関係が、あります。


★ Edwin Fischer  エドウィン・フィッシャー は、上声 ( ソプラノ ) の

上記 13小節に続く、 14小節の最後の音  「 As 変イ 」 から、

15小節の最初の音  「 G  ト 」  にかけての 

「 Klagemotiv 」  ( 嘆きのモティーフ )  の 2度音程も、

 「 2 2 」  指 を、指示しています。


人差指を、2回続けて使いますが、同じく     

≪ vollem Legato zu “ singen ” ≫ で、弾くことにより、

 「 思い足取り 」 が、 「 5 5 」 のときより、さらに、

「 深く 」 、表現できるのです。


★上記の  Fingering は、ほんの一例です。

各小節にびっしり書き込まれた  Fingering  は、

一つ一つに、深い意味があります

音で 「 思考する 」 とは、何なのか?

という問いに対する、明確な 「 答え 」 が、ここにあります。

そして、同時に 「 どう演奏したらよいか 」 にも、

直結しているのです。

 

 

                                       ※copyright ©Yoko Nakamura

▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■ 「 Fur Elise エリーゼの... | トップ | ■ 第 10回 横浜・インヴェ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

■私のアナリーゼ講座■」カテゴリの最新記事