■ 「 Für Elise エリーゼのために 」 がなぜ名曲か&ケンプの名演 ■
2011.9.18 中村洋子
★カワイ表参道で、9月28日( 木 )開催の、
「 第 16回 平均律アナリーゼ講座 」 で、お話いたします、
Beethoven ベートーヴェン (1770~ 1827)
「 Für Elise エリーゼのために 」 ( 1810年ころ成立 ) を、
詳しく、見ています。
★もし、 Wilhelm Kempff ヴィルヘルム・ケンプ ( 1895~1991) の、
名演 ( ケンプ 「 ベートーヴェン・アンコール 」 POCG 90112 ) と、
ベートーヴェン の残した 2ページのドラフト Zweiseitiger Entwurf Beethovens
( Beethoven - Archiv , Bonn ) が、無かったとしましたら、
私は、この曲を講座で扱うことは、なかったでしょう。
( ベートーヴェンの完全な Manuscript Autogragh は、失われています )
★クラシック音楽を、全く知らない方でも、
知らない方はいないほど、人口に膾炙した曲です。
日本でも、陳腐に編曲されたり改竄されたものが、満ち溢れています。
★しかし、にもかかわらず、そんなにも人の心を打つのは何故か?
それを、考えてみますと、意外にもといいますか、当然といいますか、
ヨーロッパ・クラシック音楽の ≪ 名曲の条件 ≫ を、すべて備えている、
ということが、分かります。
★ Zweiseitiger Entwurf Beethovens を、詳しく見ますと、
2、 3、 4 小節目と、 9、 10、 11 小節目の 1拍目に、
「 Pedal 記号 」 が付けられ、さらに、 その小節が終わる直前に、
「 O 」 のマークが、付けられています。
「 O 」 はおそらく、 「 Ohne 」 = 「 無しで、without 」 の略ですから、
≪ 次の小節に移る直前で、ペダルを離しなさい ≫ という意味です。
★8小節目の 「 第 2括弧 」 部分と、
22小節目の 「 第 1括弧 」 部分に、書かれている楽譜は、
同じですが、上声の 16分音符 シ - ド - レ ( H - C - D ) の、
意味するものは、全く違います。
★ Kempff ケンプはなぜ、22小節目の ( H - C - D ) を、
テヌート気味に、強調して弾いているのでしょうか?
★ベートーヴェン時代も、今日も同じですが、
ペダルは、音を曖昧にぼかすために使われているのでは、
決して、ありません。
それを、勘違いいたしますと、 「 エリーゼのために 」 が、
巷で聴こえてくる 「 ムード音楽 」 と、一緒になってしまいます。
★この 「 ペダルの意味 」 と、 「 22小節目の テヌート 」 こそが、
「 Für Elise エリーゼのために 」 が、名曲たる所以なのです。
この点につきましては、講座で詳しくご説明します。
★Kempff ケンプの名演に接した後、私も真似をして、
ピアノで弾いてみましたが、全く、歯が立ちませんでした。
それは、Beethoven ベートーヴェン の 32の ピアノソナタ を、
あれ程、深く学び読み込み、さらには、その根源の曲である、
Johann Sebastian Bach バッハ ( 1685~1750 ) の、
「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 を、
生涯、学び続けた人にしか、できない演奏だからです。
★私は、バッハや ベートーヴェン の名曲に対し、
安易に 「 編曲 」 して、勝手に音を加えたり、減らしたり、
あるいは、原曲とは全く違う調に変えてしまう、
「 移調 」 に、反対です。
そのようにしましても、当然、そこそこの感動は得られます。
それは、名曲であるがゆえに、当然のことです。
★しかし、例えば、バッハの、「 6 Suiten für Violoncello solo
無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 を、
他の楽器で、移調して演奏することは、
バッハが考えた ≪ 調の設計 ≫ を、
ズタズタにすることに、なりかねないのです。
★Kempff ケンプ演奏 「 エリーゼのために 」 の、
59小節以降の 「 A 」 の、
repeated notes の美しさは、
形容しようが、ありません。
なぜ、ケンプがこのように演奏できたか、
それを、考え続けることが、
「 Bach バッハ 」 に近づく、第一歩です。
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