■ブラームスは「ピアノ・ワルツ集Op.39」で、バッハの何を取り込んだか■
2011.2.17 中村洋子
★ Johannes Brahms ブラームス( 1833~1897)は1865年、
16曲からなる 「 Walzer für Klavier zu vier Händen
四手連弾ピアノのためのワルツ集 」 Op.39
を、作曲しました。
★2年後の 1867年、ブラームス自身により、
2種類の、ピアノ独奏集に、編曲されました。
ひとつは、「 Walzer für Klavier zu zwei Händen 」
さらに、子供でも弾けるよう、平易に編曲された
「 Walzer für Klavier zu zwei Händen
( Die vom Komponisten erleichterte Fassung )
「ピアノのためのワルツ 作曲者による、平易な楽譜」。
★その結果、現在では、ブラームスによる、
3種類の 「ワルツ集」 が、存在します。
この 3種で、調性の異なっている曲は、
6、13、14、15、16番です。
6番は、四手と二手では、嬰ハ長調、
平易楽譜では、ハ長調です。
これは、嬰ハ長調が、調号にシャープが七つも付くため、
子供でも、弾きやすいよう、
ブラームスが、「 ハ長調 」 にしたのでしょう。
★13から 16番の 4曲は、四手と平易楽譜が、
「 ハ長調、イ短調、イ長調、ニ短調 」 で、
二手が 「 ロ長調、嬰ト短調、変イ長調、嬰ハ短調 」
と、なっています。
★どうして、ブラームスは、二手だけ調性を変えたか?
ここに、ブラームスが、バッハから汲み取った
“ ブラームス・トーン ” の、秘密があるのです。
これについては、講座で詳しくお話いたしますが、
有名な 15番のワルツを見ますと、二手版では 「 変イ長調 」、
平易楽譜では 「 イ長調 」 と、異なっています。
★調号が、フラット4つの 「 変イ長調 」 と、
シャープ3つの 「 イ長調 」 とは、
主音が、「 半音 」 ちがうだけです。
しかし、フラット系か、シャープ系かにより、
曲の性格が、がらりと変わってしまうことに、
つくづく、驚かされます
★二手版と平易楽譜の、自筆譜を見ますと、
現在、出版されている実用譜とは、
かなり、異なっています。
★ 3小節目の 2拍目と 3拍目の 4分音符に、
付けられたメゾスタッカート
(スタッカートとスラーが同時に、付されているもの)を、
ブラームスは、ソプラノの 「 ド シ 」 に、付していますが、
実用譜では、その位置を内声の 「 ミ レ 」に、付けています。
★ブラームスは、ソプラノの 「 ド シ 」 を、メゾスタッカートで
弾くように、という意志で付していますが、
実用譜は意図に反し、スタッカートやスラーを、
符尾と反対の位置に、付けるという、
常識的記譜法に、勝手に、変えてしまっています。
★これでは、大切なソプラノの 「 ド シ 」 が、
隅に追いやられ、この実用譜だけを見ますと、
ブラームスが、内声に特別な意味をもたせて、
メゾスタッカートを、付けたのではないか、
という疑問が、当然のこととして、湧き上がります。
実際、当惑されている方は、多いでしょう。
★さらに、自筆譜では、5小節目の 1拍目ソプラノに、
「 アクセント 」 を、付していますが、
ほとんどの実用譜では、これも 「 内声 」 に付けています。
自筆譜では、二手版も平易版も、
はっきりと、ソプラノに付けています。
★このような例は、ベートーヴェンの、
「 ピアノソナタ 31番 」 の ヘンレ版にも見られ、
以前、ブログで指摘しました。
★演奏者にとっては、大変に重要なことですので、
編集者は、せめて、脚注で自筆譜との違いについて、
触れてほしいものです。
★また、この Op.39の 15番は、
バッハ平均律クラヴィーア曲集
「 1巻 11番 へ長調 」を、凝縮して作曲されたような、
曲ですが、その ブラーム・ストーンが、
バッハの 11番 の何から、導き出されているか?
勉強中に、私自身 「 アッ 」 と、
声を上げてしまうような、発見がありました。
★シューマンが、若きブラームスの天才を見抜いたのは、
おそらく、“ ブラームスのどこに、バッハが宿っているか ”、
それを、シューマンの天才が、瞬時に解読し、
“ 天才だ ” と、叫ばせたのでしょう。
曲の、表面的な面白さではなく、
バッハを基にして、
「 どんなオリジナリティーを、作り出しているか 」 、
ということが、クラシック音楽の質の、
根本的な、判断基準となります。
★18日のカワイ表参道での
「 平均律アナリーゼ講座 第11番 」 では、
上記の点を、じっくりと、解説いたします。
この発見は、これまで、全く指摘されていなかったこと、
であると、思います。
★念のため、 「 ウィキペディア 」 で、
このワルツ集の解説を、見ましたが、
「 ショパンのような高雅な洗練には欠けるものの、
総じて小ぶりで親しみ易い 」 と、記されています。
私は 、 ≪ 高度に洗練された曲 ≫ で、
短い曲のなかに、バッハをはじめ、
西洋音楽のエッセンスが、凝縮した、
真の名曲であると、思います。
★楽譜を読み込む力が、ありませんと、
上記のような、本当の価値を理解できない
惑わすような、解説となります。
★現在は、いろいろなことを、インターネットで検索し、
そこに書かれている、無署名で無責任な、
浅薄な内容を、無批判に受け入れる風潮に、
なり勝ちです。
★さらに悪いことには、それが、孫引きされ、流布され、
大手を振って、市民権を、得かねないことです。
この 「 ブラームス ワルツ集 」 に、対する、
誤った評価のように、真の音楽理解から、
逆に、遠ざける、という、
悪い結果を、招きかねません。
自分自身の判断力を養うことが、本当に、
必要な時代と、なりました。
つくづく、そう思います。
(チョコ、欅の幹、白梅、雪と瓦)
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