音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■聴衆に媚びる演奏家と、演奏家に媚びを要求する聴衆■

2013-07-04 23:54:10 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■聴衆に媚びる演奏家と、演奏家に媚びを要求する聴衆■
             ~ Afanassiev  現代の音楽批判 続 ~
                                 2013.7.4    中村洋子

 

 


★7月 9日(火)の KAWAI 表参道での、

第 3回  「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 アナリーゼ講座 」 

の準備で、忙しくしております。


Bach 「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 

平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」  を学ぶためには、

「 Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲 」、

「 Die Kunst der Fuge フーガの技法 」 、

「 Musikalisches Opfer 音楽の捧げもの 」 など、

Bach 晩年の傑作群も同時並行的に、眼を通し、

探求しなくてはなりません。

そういうわけで、

勉強は、遅々として進みませんが、

Bach という巨樹に、向かい合うためには、

当然のことなのでしょうね。


★若干 20代で、Bach 「  Wohltemperirte Clavier Ⅰ、Ⅱ 

平均律クラヴィーア曲集 1、2巻  」  を、

新たな視点で、校訂し、

曲順すら、創造的に組み換えた、

Bartók Béla バルトーク (1881~1945) の天才に、

つくづく、脱帽しています。

 

★勉強の合間に、Valery Afanassiev 

ヴァレリー・アファナシエフ (1947~) の著作

「 ピアニストのノート 」 講談社選書メチエ を、読み進み、

その指摘の一つ一つに、納得、

共感しております。

 

★私がいつも痛感し、嘆いているその通りのことを、

Afanassiev も、書いています。

 


★今回は、皆さまもきっと、ご興味があると思われます

≪ 音楽コンクール ≫、 ≪ リサイタル ≫ についての、

さまざまな記述の一部を、ご紹介いたします。

 

 


★[ 2年前、リヒテル国際ピアノコンクールに、審査員として参加した。

あごあしつきで、二週間、

生まれ故郷の町に滞在する機会を、得たわけだ。

コンクールのレヴェルが、かなり低いものになるだろうということは

分かっていたー(略)

一次予選での、ブルガリアからの参加者の演奏は、

私の気に入り、

まだ音楽の世界にも、大いなる可能性が残っているか、

と思ったものだ。

 

★しかし、二次予選の演奏には、大いに失望させられた。

本選では、彼の演奏に嫌悪さも、感じ始めていた。

彼ら若い演奏家たちは、最後まで保たない(もたない)。

ちょうど、だめなワインのように。

一、二時間なら上手に弾く。

だが、そこからショーが始まってしまう。

これ見よがしに、腕を振り上げる。

しかめっ面をする。

演奏は、ごてごてした飾りだらけで、

音楽は、跡形もなく消えてしまう。

このブルガリア人の参加者は、

ここのところ何度も、コンクールに参加している。

テキサスでは第四位、ブリュッセルでは第二位、

ワルシャワでは、第四位を獲得していた。

聴衆はいつも、拍手喝采だった。

聴衆が歓呼の声を上げ、あがめ奉り、

スターに祭り上げたのは、彼だった。

「彼を優勝させなければ、聴衆に殺されてしまいますよ」。

審査員団は、そのように言われたが、

それでも、押し切られることはなかった。]

 

 

★以下は要約。


もう一人の候補者。

モスクワ音楽院の空気が漂うような、

スカルラッティの演奏には、衝撃を受けた

しかし、数日後 (二次予選のことか)、このロシア人候補者は、

まったくのやっつけ仕事で、片づけてしまった。

彼が弾いたラフマニノフの

「 コレルリの主題による変奏曲 」 は、最悪だった。

二分に一度は、記憶が欠落、

いくつかの変奏を、すっ飛ばし、

順番を、ごちゃごちゃにしてしまった。

本選に進む可能性は、断たれた。

 

★それでも、

コンクールの優勝者は、彼であるべきだったのだ。

音楽政治局 ( 比喩的に、コンクールを裏で牛耳っている人たちのことを

Afanassiev は、こう表現しているのでしょう ) は、

彼の年齢が 29歳と聴いて、 「 あっ、そうですか 」 としかいわない。

音楽界の指導的人物にとって、

今日、音楽界でのキャリアを始めることができるのは、

15歳か 75歳なのだからだ。

( “ 天才少年、天才少女 ” やら、

いつお亡くなりになるか、分からないような、

飛び切りの老年など、

マスコミが飛びつくような話題性、意外性がないと、

スターには決してしない、という意味でしょう )。


 
彼が、二次予選の演奏で失敗したことは明らかだ。

しかし、彼の演奏のほとんど一つ一つのフレーズが、

私の耳に、残っている。

彼は、自分自身に対して、

あれほど、たくさんの音符を書きつけた作曲者に対して、

戦いを、挑んでいた。

彼の戦いぶりは、悲壮であり、

また、ぞっとするほど怖ろしかった。

 

★リヒテルコンクールのあいだ、私は彼の失敗と、

凡庸なる者たちの成功とを、比べる機会を得た。

凡庸なる者たちの成功には、興味がない。

( この後に、前回のブログでの内容、

つまり、音楽の構造がなく、

ビーフストロガノフの肉片のように、細切れの、

エクスタシーの連続のような  “ 音楽もどき ” が、

跋扈している、という話が続きます )。

 

★「 決して、聴衆のために弾いてはならない。

そんなことをすれば、途中で音楽を見失い、

自分すらも、見失ってしまう 」 、

これが彼への、私のアドヴァイス。

もちろん、彼は聴衆のために演奏していたのではなかったが。

 

 

★10年ほど前、スペイン・バルセロナで演奏会をした。

成功だった 」 と、

主催マネージャーから、言われた。

「 評論家の評判も、とてもよかった。

しかし、一つだけ問題があった 」。

「 あなたは、愛想がよろしくないでしょう。

アンコールも、なさらない。

聴衆は、そういうのは好きじゃないんです。

皆さんから、苦情が出てました

 

私は普通、アンコールはしない。

しかし、私の目指すレヴェルに、

コンサートが達しなかったと、感じたときは、

聴衆への申し訳と、埋め合わせの意味で、

何曲か、アンコールをするようにしている。

自分に対する不満を、

恥ずかしくない演奏によって、補うのだ。

リヒテルは、しばしば、その日のプログラムの中で

うまくいかなかった曲を、アンコールとして、

演奏した。

 

成功のための不可欠な原料。

しかめっ面、スマイル、アンコール。

6回でも、ときには 20回でもアンコールをする。

洪水のごとき、聴衆サービス。

聴衆の歓心を買おうとする、この激しい衝動を、

止めることができるのは、

消防署だけだ。

 


★アンコールは、プログラムの中身とは何の関係もない。

アンコールに選ばれるのは、

その演奏家の十八番 ( おはこ ) で、

とりわけ、名人芸を要求される曲目だ。

 

 

聴衆に、 “  自分たちが聞いているのは大音楽家なのだ ”、

と思い込ませるために、

ピアニシモで演奏される曲も、何曲かある。

私は最近、この新しい流行に気付いた。

普段は、

ピアノとステージを破壊するのが、唯一の目的であるかのように、

鍵盤を思いっきり、叩きつけているピアニストが、

突然、ピアニシモで弾き始める。

だが、彼らの人生に明日はない。

 

★もし、私がリストの練習曲をミスタッチなく、

速く、弾けば、

あるいは、私の肉体や顔の表情で、

私の内なる感情を、露わにすれば、

人々は立ち上がり、少なくとも、

5分間は、

私に、拍手喝采を送る。

 

★もし、 Brahms の間奏曲を、

身じろぎもせずに、弾いたとすると?、

ホールに、

携帯電話の着信音が、

鳴り響く


 
★音楽は、

外側からも内側からも、破壊されている。

アーティストが、内側から、

聴衆が、外側から音楽を破壊している。

破壊 ーー それが本書の主題である。 

今日、音楽は破壊されるとともに、

解体されている。

 

 

 

Afanassiev が批判している、

現代のスター奏者の演奏と対極的な、

偉大な演奏を成したのが、 Wilhelm Kempff 

ヴィルヘルム・ケンプ (1895~1991) であると、

彼が、書いていますが、

それは別の機会に、ご紹介します。

 

7月 9日( 火 )の、 KAWAI 表参道 での

「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 3番 Cis-Dur  」

アナリーゼ講座では、

「 3番 Cis-Dur 」 と、

「 Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲 」、

Chopin  「 prelude  Op.24  」  との関係についても、

少し、お話しする予定です。

 

 


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