■明日は、「インヴェンション第 12番・アナリーゼ講座 」 ■
~Fischer は Fingering で、すべてを解明~
2011.12.22 中村洋子
★明日 12月 22日は、「 KAWAI みなとみらい横浜 」 での
「 第 12回 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 です。
★昨日、 KAWAI 表参道での 「 アナリーゼ教室 」 で、 Bach の
「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」 を、
生存中の初版譜 ( 1735年 ) で、勉強した直後ですので、
「 Inventio und Sinfonia インヴェンションとシンフォニア 」 Nr.12 と、
「 Concerto nach Italienischen Gusto 」 との記譜の違いが、否が応でも、
クローズアップされ、 Bach の意図がくっきりと、見えてきました。
★「 Concerto nach Italienischen Gusto 」 には、
「 forte 」、「 piano 」、 「 slur スラー 」、
「 staccato スタッカート 」 などの指示が、
細かく、書き込まれています。
例えば、第 1楽章 43、 44、 45 小節や、
第 3楽章 59、 60、 61、 62、 63 小節に 「 slur スラー 」 を書き込み、
≪ 旋律をレガートで弾くように ≫ と、 Bach は指示しています。
しかし、 「 Inventionen & Sinfonien 」 では、
そのような 「 slur スラー 」 は、ほんのわずか、見られるだけです。
★何故、両者はこのように違うのでしょうか・・・?
それを、考えていた時、ハタと気付きました。
★ Ries & Erler 社から出版されました、
私の 「 Suite Nr.1 für Violoncello 」 と 「 10 Duette für Violoncelli 」
との違いと、そっくりなのです。
★ 「 Suite Nr.1 für Violoncello 」 は、
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生が、
渾身の力を込め、Fingering、 Articulation、 Bowing など
「 Spieltechn. Einrichtung 演奏テクニックの手引き 」 を、
書き込んで下さいました。
誰が弾いても、悩むことなく、容易に演奏に入っていくことができます。
★ 「 10 Duette für Violoncelli 」 につきましても、
Boettcher先生は当初、 「 Spieltechn. Einrichtung 」 を、
書き込む予定でしたが、途中で、
「 I changed my mind 」 と、おっしゃり、
「 演奏者やその先生が、各々で考えて弾くべきである 」 、
ということになりました。
★ Bach の 「 Concerto nach Italienischen Gusto 」 は、
「 対位法の粋 」 を極めた曲で、 Bachが自信をもって、
世に問うた曲です。
第 2楽章では、装飾音について、
通常のように 「 装飾記号 」 を多用せず、
音符でわざわざ、細かく書き込んでいる、と言っていいほどです。
≪ これ以外の装飾法は、認めません ≫ ということです。
★一方、 「 Inventionen & Sinfonien 」 は、
「 作曲の手引き 」 としての性格を、色濃くもっていますので、
各人が、思考し、十人十色の解決法を見出すべきだと、
Bach は、考えたのでしょう。
★このような考え方を解く、重要なカギが、
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) の、
「 Inventionen & Sinfonien 」 に対する ≪ Fingering ≫ に、
隠されているのです。
★ Fischer の ≪ Fingering ≫ の凄さの 1例を挙げます。
「 Sinfonia Nr.12 」 の 2小節目 上声 1拍目 は、
「 h1 e1 cis2 e1 」 、 2拍目は 「 d2 e1 e2 」 ですが、
1拍目の 「 cis2 」 に 「 3指 」、 2拍目の 「 d2 」 に 「 4指 」、
「 e2 」 に 「 5指 」 を、指定しています。
ここは、おそらく、誰が弾いても 3、 4、 5 の指で弾くであろう、
ごく当たり前の運指で、通常ならば、
書き込む必要が、全くないものです。
★さらに、 2小節目の上声 4拍目の 「 cis2 dis2 e2 fis2 」 では、
「 e2 」 にのみ 「 1指 」 を、指定しています。
この音も、ほぼ 100% 「 1指 」 で、弾きます。
★つまり、≪ Fischer の Fingering ≫ は、
わざわざ、必要ないと思われる運指を、
意図的に、書き込んでいるのです。
通常の楽譜の運指は “ 曲を弾き易くする、難しいパッセージを、
楽にクリアするためのヒント ” として、記入されていますが、
Fischer は、対極的です。
≪ Fischer の Fingering は、 『 指使い 』 ではないのです ≫
★ Fischer は、この 4つの音に対する運指により、
≪ Sinfonia Nr. 12 を解くカギが、ここにある ≫ と、
丁寧に、教えているのです。
★ Bach の自筆譜を見ますと、
2段目は 5小節目から 9小節目の 2拍目まで、終わっています。
9小節目が、真っ二つに切断され、
3段目は、 9小節目の 3拍目から、
13小節目までが、レイアウトされています。
★なぜ、 Bach はこのように、変則的な記譜をしたのでしょうか?
それに対する、見事な見事な解答が、
≪ Fischer の Fingering ≫ なのです。
この点につきましては、
アナリーゼ講座で、詳しくお話いたします。
■講座のご案内:
http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20111123
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