音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ Bach  Sinfonia Nr.12 は、限りなく優しい抱擁の歌 ■

2011-12-28 12:37:41 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Bach  Sinfonia Nr.12 は、限りなく優しい抱擁の歌 ■
                                            2011.12.28     中村洋子

 

 

★クリスマスも過ぎ、もうすぐお正月です。

クリスマス前の23日に、 「 横浜みなとみらい 」 で開催しました、

Bach バッハ  「 Invention Nr.12 インヴェンション 12番 」 の、

内容について、少し、ご報告いたします。


★「 Sinfonia Nr.12 シンフォニア 12番 」 の、

和声の骨組みを、私が要約し、

それを実際に、ピアノで演奏いたしました。

なんと、そこに現れたのは、Johann Pachelbel 

ヨハン・パッヘルベル(1653年~1706=没年は諸説あり)でした

Pachelbel の音楽が、出現したのです


★Pachelbel は、 Bach 一家と親しく、 

J. S. Bach の姉の、Juditha (1680~1686) や、

兄の John Christoph(1671~1721) の、

Taufpate  ( 洗礼時の代父 ) を、務めるほどの間柄でした。


★Juditha の没年で、お分かりになるように、
 
当時は、幼児が無事に成長することは、困難な時代でした。

Pachelbel 自身も、1681年10月に結婚しましたが、

2年後、妻と幼い息子を、ペストで失います。

そして、1684年にJ. S. Bach と同じように、再婚します。


★ Bach の時代は、常に、死と隣り合わせだったのです。

Pachelbel の、優しい音楽、

暖かく、限りなく包み込むような音楽は、

そのような背景と、無縁ではないでしょう。

 

 


★Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) は、

あらゆる感情を、その音楽に、内包していますが、

“ 無限抱擁 ” のような一面を、Pachelbel から、

受け継いでいるのは、間違いありません。
 

★ Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) は、

この 「 Sinfonia Nr.12 シンフォニア 12番 」 の校訂楽譜で、

脚注に 「 この曲は、zwei Auffassung 二つの解釈が可能である 」

と、書いています。


一つは、≪ mehr wiegende , zarte 

直訳=さらに揺らすように、柔らかく ≫

つまり、≪ 揺り籠をそっとゆらすように、柔らかく ≫、

もう一つは、≪energische tumultuarische 

直訳=エネルギッシュに騒々しいまでに ≫

つまり、≪ エネルギッシュに、楽しくはしゃぎまわるように ≫ です。


★この 「 wiegende  」 という言葉ですが、 「 Wiegenlied 」 となりますと、

 「 子守歌 」 になります。

お母さんが、やさしく赤ちゃんをあやしながら、うたう歌ですが、

私は、この 「 Wiegenlied 」  の 「 母子 」 は、

「 マリア と 幼子キリスト 」 のイメージを、色濃く宿していると思います。 


ブラームス Johannes Brahms (1833~1897) 晩年の傑作、

「 Drei Intermezzi  三つの間奏曲 」  (1892年 作曲 ) も、

Bach や Pachelbel を源流とする 「 Wiegenlied 子守歌 」 

といえます。


★この  「 Drei Intermezzi  三つの間奏曲 」 は、 Brahms が、

詩人 Herder  ( 1744~1803 ) の、「Stimmen der Völker 諸民族の声」

から、インスピレーションを得て、作曲したようですが、

「Drei  Wiegenlieder meiner Schmerzen 、 

Three lulabies for my suffering = 苦悩への三つの子守歌 」 が、

Brahms の心境に、最も近かったことでしょう。


★日本の少女が、子守りに出され、

主人の赤ちゃんを背中におぶって、

つらい労働を嘆きながら歌う 「 子守唄 」 とは、異質の世界です。

 


クリスマスを前に、 Edwin Fischer の卓越した解釈により、

 「 Sinfonia Nr.12 」 の、限りなく優しい

抱擁の歌を、ご一緒に経験できましたことは、

本当の、喜びでした。

このようなところに、 Bach の真髄が、現れるのです。

 
★また、当ブログをお読みになり、遠方からはるばる、

講座に、おいで頂いた方が、お二人も、いらっしゃったり、

さらには、表参道での12番講座に出席された方もたくさん、

再度、お聴きに来て頂きました。

この講座は、絶えず、変化しますので、

前回より、さらに充実した内容となり、

決して期待を裏切らないと、自負いたします。

 


                                       ※copyright © Yoko Nakamura
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