■平均律・アナリーゼ講座で、なぜ、他の作曲家を取り上げるのか?■
~ ChopinがBachから吸収したものを分析することで、逆にBach理解が深まる~
2011.12.2 中村洋子
( 万両の実 )
≪ The Ghost writer ゴーストライター ≫ という映画を、見ました。 冒頭のシーンは、氷雨が降りしきる暗い冬の夜、 大型フェリーの甲板に、置き去りにされた無人の車を、 寒々しく、描写するところから始まります。 同一のモティーフを、次々と畳みかける手法に、 金管などの特有の響きを、うまくミックスさせ、商業音楽として、成功していました。 陰鬱な風景に、よく合っていました。 しかし、どこかで聴いたことがあるような音楽でもありました。 Sergiu Celibidache セルジウ・チェリビダッケ(1912~1996)指揮の Anton Bruckner アントン・ブルックナー(1824~1896)、 Symphony No.3 交響曲 3番(1889) を、聴きました。 この映画の音楽は、何のことはない、Bruckner Symphony No.3、 第1楽章冒頭の、 “ 巧みな remake ” でした。
★先日、Roman Polanski ロマン・ポランスキー監督の
★この場面の音楽は、Steve Reich スティーブ・ライヒ (1936~)風の、
★11月29日の Bach 平均律アナリーゼ講座の後、自宅で、
★やはり、そうでした。
★この映画音楽の作者は、この音楽で賞を得ているようですが、
Celibidache チェリビダッケは、
この Bruckner Symphony No.3 の指揮で、
この交響曲の源泉 は、どこから来ているか?、
さらに、その後の派生作品 (= 映画音楽 ) の、出自までを、
自然に、完璧に炙り出しています。
★Bruckner Symphony No.3 の源泉は、実は、
Bach の 「 Johannes-Passion ヨハネ受難曲 」 です。
Johannes-Passion そのものです。
聴くだけで、それが分かる Celibidache の、
この見事な CDは、特にお薦めです。
★11月29日の 、Bach 平均律アナリーゼ講座の後、
次のような 「 感想 」 を、頂きました。
「 Chopin ショパンの作品はあまり、興味がないのでピンとこないし、
分からない。他の作曲に与えた影響を論ずるよりは、
Bach の作品に絞って、アナリーゼして欲しい 」 という内容です。
★講座では、平均律 18番が、 Chopin の「 Polonaise - Fantasie
幻想ポロネーズ 」 に与えた影響、
その影響を Chopin がどのように取り込み、展開 し、
Polonaise - Fantasie として、結実させたか、
具体的に詳しく、ご説明しました。
★Chopin を理解するためには、 Bach を理解する必要があることは、
何度も、書いております。
しかし、その逆に、 ≪ Bach を理解するためには、
Chopin の勉強も、必要であり、絶対に欠かせない ≫ のです。
★ Bach バッハ の音楽は、例えてみますと、どの断面を切り取っても、
密度の濃い、宝石のようなさまざまな要素で、満ち満ちています。
後世のBeethoven ベートーヴェン(1770~ 1827) や、
Frédéric Chopin ショパン (1810~1849) は、
そのうちの 「 一つの要素 」 を切り取り、大きく大きく育て、
大輪の花として、薔薇や芙蓉の花のように、美しく咲かせる、
という営為に、成功した作曲家です。
★ Bach バッハ を何気なく見るだけでは、
見過ごしてしまうような 「 要素 」 に、スポットライトを当て、
拡大し、誰にでも、分かりやすくしたのが Beethoven であり、
Chopin ショパン である、という言い方も、可能です。
それゆえ、幅広く愛され、これからも永遠に愛され続けることでしょう。
★ Bach バッハ の ≪ 豊かな複雑さ ≫ を、一瞬にして理解し、
味わうことができるのは、現代でも至難なことかもしれません。
その為にも、 Bach 以降の作曲家の作品から、
Bach の 「 要素 」 を、一つ一つ逆照射し、解剖する必要があるのです。
それにより、≪ Bachのより深い理解 ≫ へと、
一歩一歩、近づくことができるのです。
★同様に、 Chopin 以降の 「 Prélude 前奏曲 」 も、
Chopin の影響を、強く受けていますので、それらを分析することで、
逆に、 Chopin の独自性など、理解が一層深まるのです。
★ Claude Debussy クロード・ドビュッシー (1862~1918)、
Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937)、
Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845~1924) など、
フランスの大作曲家を、理解するうえでも、
Chopin 研究は、不可欠です。
なぜなら、 Chopin の大きな影響なくしては、
生まれ出なかった作曲家、といえるからです。
★ Chopin が、地中海のマジョルカ島で、
「 Préludes Op.28 24の前奏曲集 」 を、
完成させた際、大事に持参してきたのは、 Bach の
「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 です。
また、 Chopinは、演奏会が近づくと、2週間ほど閉じこもり、
Bach ばかり弾いていた、という逸話も残っています。
★私は、“ 世紀のChopin弾き ” と称された、大ピアニスト
Arthur Rubinstein アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982) も、
自宅では、 Bach を弾いていたと思います。
Bach を弾けば、 Chopin のすべてが、そこにあるからです。
「 ピアノが上手くなりたいのならば、 Bach を毎日弾くことである 」 という、
彼の言葉も、残されています。
同じことは、 Chopin も言っています。
★ Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) は、
11歳で、チェロを手にする前、
教会オルガニストだった父親から、ピアノを習いましたが、
その父親は、Bach の平均律クラヴィーア曲集よりも、
Beethoven のピアノソナタや Chopin のピアノ曲を、
尊敬していたと、 「 Conversations avec Pable Casals
カザルスとの対話 」 に、書かれています。
面白いですね。
★ Bach バッハ の存命中、Telemann テーレマン(1681~1767) は、
世俗的な表現を用いれば、「 Bachより格が上 」 で、
遥かに高い評価を受けていたことは、有名な話です。
それは Chopin 同様、覚えやすい要素を、
Bachに比べると、平易に、展開したからです。
一般の人にも、分かりやすい音楽だったからです。
★ Bach が亡くなった 1750年で、時間を止め、
その後の作曲家には興味がない、知りたくないというのは、
Bach を本当に学ぶことには、ならないでしょう。
そのような、演奏家も見受けられます。
★Mozart や Beethoven 、 Chopin 、 Schumann 、
Brahms、Bartók の作品を学ぶことは、
Bach の高みへと到達するための、ステップ、階段なのです。
一段一段と、じっくり踏みしめ、登っていくことで、
やっと Bach が、見えてきます 。
ご自分の分析で、ご自分の手で、
Bach をつかむことができるようになる、それが、
私の講座の、目標でもあります。
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