音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律 1巻 9番 ホ長調・パストラーレは、6番 ホ長調・シンフォニアが、源流■

2010-11-14 20:01:09 | ■私のアナリーゼ講座■

 ■平均律 1巻 9番 ホ長調・パストラーレは、6番 ホ長調・シンフォニアが、源流■
             2010.11.14 中村洋子

 


★11月16日の、カワイ表参道 「 平均律アナリーゼ講座 」 と、

11月25日の、横浜カワイ 「 みなとみらい 」 での、

「 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 は、

たくさんの皆さまが、参加される予定です。

特に嬉しいのは、プロの音楽家だけではなく、

バッハを愛するアマチュアの、音楽愛好家の方々も、

増えていることです。


★バッハの、「 平均律 9番・前奏曲 」 は、

よく指摘されますように、パルトラーレの性格も、

宿していますが、さらに、

大ピアニスト 「 エドウィン・フィッシャー 」 が、

同じ ホ長調である、

≪ シンフォニア ( 3声のインヴェンション ) 6番 」 を、

 パストラーレ  -  Einfach 、fliessend 

( シンプルな、流れるような パルトラーレ )  で、

弾くように ≫  と、指示していることからも、

この二曲の、深い関連が、うかがわれます。


★この二曲だけではなく、 「 インヴェンション 6番 ホ長調  」 でも、

「 全音階進行の主題  」、「 半音階進行の対主題 」 の、

両方の要素が、上記の二曲に、深く、関わっています。

 


★この三者の関係は、講座で詳しくお話いたしますが、

実は、そのさらなる源流は、

カスパール・フィッシャー

( Johann Caspar Ferdinand Fischer ) の、

作品にまで、遡ることが、できます。


★カスパール・フィッシャーの豊かなアイデアを、

バッハが、取り入れ、それをどのように展開していったか、

それは、バッハの自筆譜により、容易に、確認することができます。


★平均律は、1ページに 6段のレイアウトで、記譜されています。

平均律 9番のフーガは、1ページ全 6段と、次のページの 2段、

計 8段で、すべてが、書き記されています。


★1段目は、アルトの主題に始まり、ソプラノの応答が続き、

バスの主題の途中までが、記譜されます。

ここが、3声フーガの 第 1提示部です。

1ページ目の最下段  ( 6段目 ) を、見ますと、

バスに、主題が提示され、それを、ソプラノの応答が追いかけ、

アルトの主題が、続きます。


★この部分は、主調の 「 ホ長調 」 ですので、

1段目の再現部分とみて、間違いありません。
    
1番目の主題は、1段目の左端にありますが、

その再現部は、左端を垂直に6段目まで、

降りてきた場所に、記されています。

同様に、 2番目応答の再現部も、

6段目まで、真下に降りた場所 ( 中央 )にあり、

 1段目の右端にある3番目主題の、再現も、

6段目の右端に、揃えられています。

心憎いまでの、レイアウトです。


★どんな初心者の方が、このフーガを弾いていも、

この 6段目 (  18小節 4拍目から 22小節 1拍目まで  ) を、

見ますと、 “ あ!! ここが、再現部だ ” と、

一目瞭然、分かります。

さらに、1段目 ( 1小節目から 4小節前半まで ) での、

主題の出現は、アルト、ソプラノ、バスの順番でしたが、

6段目では、バス、ソプラノ、アルトの順で、

全くの反復ではないことも、すぐに、分かります。

 

 

★いつもながら、バッハの思いやり深い、親切な、

愛情に満ちた 「 配慮 」 が、にじみ出ています。

バッハは、「 決して、難しいのではないんだよ、

嫌いにならないで、楽しんでください 」 と、

語りかけているかのようです。


★この短いながらも、それは見事な平均律 9番は、

実は、インヴェンションやシンフォニアと、

密接な関係にあるのみならず、

平均律 7番、8番、10番 とも、

がっちりと、手を結びあっています。

それを、理解いたしますと、 ≪ 8番の前奏曲が変ホ短調で、

フーガが 嬰ニ短調である理由 ≫  も、

自ずと、分かってきます。


★このことを、講座でご説明すると同時に、

ショパンが、この平均律 9番から、何を汲み取り、

 「 別れの曲 」 を書いたか、それについても、お話します。


★ドビュッシーが、ショパンの 「 エチュード 」を、

校訂した楽譜は、現在でも、入手可能です。

カスパール・フィッシャーを、源流の一つとした、バッハの傑作は、

ドビュッシーにまで、滔々と、流れています。


★平均律は、バッハの生前には、出版されませんでした。

そのためか、バッハの記譜は、出版楽譜以上に、

彼の作曲意図を、正確に、伝えています。

きょうは、バッハの 「 フーガの技法 」 の、

自筆ファクシミリを、眺めていました。


★最晩年のバッハの、手書きですが、

出版されることを、予期していたようです。

「 フーガの技法 」 という、燦然と輝く音楽の内容とは別に、

バッハ自身の、体力の衰えもあり、

筆致が、壮年期のインヴェンションや平均律の手書譜と比べ、

筆圧がほんの少し、弱いようにも、感じられました。


★インヴェンションと平均律クラヴィーア曲集が、

バッハの生前に出版される予定が、なかったお陰で、

バッハが、手で、克明に詳細に、

作曲の意図を、書き残してくれたことに、

感謝したい気持ちで、一杯です。

 

 

                                  (  最後の : 白粉花、朝顔、紫式部、薄  )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

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