電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

Natureダイジェストで「新型コロナウィルスが細胞に侵入する仕組み」を読む

2022年01月23日 06時01分23秒 | 健康
山形県内の新型コロナウィルス感染者数は、22日は85名と過去最多を記録、オミクロン株への置き換わりも進んでいることと予想されます。雑誌『Nature』のダイジェストを日本語で読めるサイト「Natureダイジェスト」で「新型コロナウィルスが細胞に侵入する仕組み」(*1)という総説をプリントアウトし、じっくり興味深く読みました。原文は 2021年7月29日付で、author はユタ大学のジャネット・イワサ氏、翻訳は三枝小夜子氏です。以下、私が興味深く読んだところを箇条書きにしてみました。まずは、新型コロナウィルスのライフサイクルです。


  • 新型コロナウィルスは、表面に突き出るスパイクタンパク質がびっしりと糖鎖に巻き付かれているのが特徴で、このために免疫系の監視の目を逃れている。

  • スパイクのてっぺんにある、糖鎖に覆われていない部分が受容体結合ドメイン(RBD:receptor binding domain)で、ここが咽喉や肺のほとんどの細胞表面にあるACE2受容体に取り付く。すると、宿主細胞にあるTMPRSS2(テンプレス・ツー)という酵素がスパイクタンパク質を切断し、一部が露出したところからウィルス膜と宿主の細胞膜との融合が始まる。
  • 細胞内にウィルスRNAが入り込み、リボソームと結合してNSP(非結合タンパク質)が作られる。NSPは宿主由来のmRNAの翻訳を抑制し、ウィルスのRNAの翻訳を優先する。

  • ウィルスは宿主細胞の小胞体を二重膜小胞(DMV)に変えてしまうため、小胞体は破壊される。また、新たに作られたスパイクタンパク質が宿主の細胞膜の外に突き出ることで、感染細胞がACE2を発現する近隣の細胞と融合し、最大で20個ほどの核を持つ巨大な多核細胞(シンシチウム)を出現させる。これらはウィルスの隠れ家となっている可能性がある。

  • 宿主の持つタンパク質分解酵素フリンがスパイクタンパク質の特定の部位を切断、別の細胞を攻撃する準備が整う。

うーむ、なるほど。感染すると細胞の正常な小胞体を破壊し、感染細胞が周辺細胞を巻き込んで融合し巨大な多核細胞を作ってしまうなど、細胞や組織の破壊の程度がひどいです。これは回復後にも様々な後遺症が残るというのは理解できます。これは「ただの風邪」「インフルエンザと同じ」ではない。風邪やインフルエンザに後遺症の話は聞きません。風邪やインフルエンザでは感染細胞や組織の破壊は起こらないかごく軽いために、自然治癒・回復が可能だからでしょう。やはり新型コロナは悪質です。ワクチン接種とともに、感染しないこと、予防が最重要課題でしょう。

もう一つ、そうは言っても感染したらどうなるか。ウィルスが感染する際に、TMPRSS2 などのプロテアーゼを使って宿主細胞に侵入するために、プロテアーゼ阻害剤が有望、との記述がありました。そういえば、ファイザー社の新型コロナ治療薬「パクスロビド」はプロテアーゼ阻害剤だと聞きます。細菌やウィルスが侵入して数時間で食細胞など自然免疫が働きますが、適応(獲得)免疫が働き出すまで1週間近くかかるはず。この間の、発症までに2日とすると発症後5日以内にプロテアーゼ阻害剤でウィルスの増殖を抑制できれば、免疫系がフル活動するまでの時間を確保することができます。とくに、基礎疾患を持っている人には重要な要素でしょう。

(*1): 新型コロナウィルスが細胞に侵入する仕組み〜「natureダイジェスト」 アニメーションでスパイクタンパク質の動きが見られるなど、興味深い内容です。


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