電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第224回定期で演奏会形式のワーグナー「さまよえるオランダ人」を聴く

2012年11月24日 06時09分38秒 | -オペラ・声楽
11月23日の夜、山形交響楽団創立40周年記念「ある幽霊船の物語」と題する第224回定期演奏会で、ワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」を聴きました。なんと素晴らしい勤労感謝の日、演奏会に関わった方々の努力に感謝しつつ、興奮を反芻しております。


(写真は、11月21日の山形新聞朝刊に掲載された広告です。)

演奏会形式ではあっても、地方都市でワーグナーのオペラを聴くというのは、稀有の体験です。ましてや、県庁所在地でも人口が20万余り、周辺人口を合わせても40万前後という山形市で、「さまよえるオランダ人」を通して聴くというのは、めったにないことです。山響ファンクラブが作成したステージ配置図によれば、合唱がおよそ60名、ソリストが6名、オーケストラは Fl(3), Ob(2), Cl(2), Fg(2), Hrn(6), Tp(2), Tb(3), 弦楽パートは 1st-Vn(10), 2nd-Vn(8), Vla(6), Vc(6), Cb(4), これに Hrp と Timp に Perc が加わり、ステージ裏のバンダを含めると60名を越えます。総勢130名に及び、19時に始まり21時45分に終わるという、記念演奏会にふさわしい上演でした。



配役は、次のようになっています。

オランダ人:小森輝彦(Bar)
ゼンタ:橋爪ゆか(Sop)
エリック:経種廉彦(Ten)
ダーラント船長:小鉄和広(Bs)
マリー:柿崎泉(Alt)
舵手:鏡貴之(Ten)
合唱:山響アマデウスコア
演奏:山形交響楽団
指揮:飯森範親

ここで、ワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」とは、Wikipedia によれば(*1)、

『さまよえるオランダ人』(さまよえるオランダじん、Der fliegende Holländer )はリヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ。1842年に完成し、1843年に初演された。

神罰によって、この世と煉獄の間を彷徨い続けているオランダ人の幽霊船があり、喜望峰近海で目撃されるという伝説を元にした、ドイツの詩人ハインリッヒ・ハイネの「さまよえるオランダ人」(『フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想記』)にワーグナーが着想を得て再構成したもの。

というものだそうで、なるほど、伝説とハイネの詩がルーツなのですか。

ダイナミックな序曲は、いかにもワーグナーの管弦楽曲!という印象を与えるものです。トロンボーンやチューバなど、荒々しい金管の咆哮をイメージしがちですが、ホルンといいファゴットといい、いい味を出してくれました。それに、ソロ・コンサートマスターとして高木和広さんが加わる山響自慢の弦楽セクションの素晴らしいこと。もう、のっけからワーグナー・サウンドです。

第1幕:ノルウェーの海岸
嵐を避けて、ダーラント船長の船が入江にたどり着き、投錨します。船長は、水夫たちを休憩させ、舵手に見張りを命じ、自分も船室に退きます。舵手もつい眠ってしまうと、そこに黒いマストに真紅の帆という不気味な船がやってきて、青白い顔のオランダ人が姿をあらわします。この男こそ、悪魔の呪いによって永遠に航海を続けているという「さまよえるオランダ人」であり、七年に一度だけ上陸を許され、そのときに生涯の貞節を誓う女性を見つけなければならないのです。ダーラント船長は、オランダ人が贈ってくれた財宝に目がくらみ、娘を結婚相手に差し出すことに同意し、帰港します。

第2幕:ダーラントの家
ダーラント船長の家では、女たちが賑やかに糸を紡いでいますが、娘のゼンタだけは壁に掛けられた「さまよえるオランダ人」の肖像画を見つめ、オランダ人を救うのは自分だと信じ込んでいます。父の船が戻ってきたとき、ゼンタに思いを寄せる若者エリックが現れ、自分が見た悪夢を語り、自分の悩みを救ってほしいと訴えます。でもゼンタは、父親に伴われてやって来たオランダ人に夢中で、互いに見つめあい、想いを語り合います。オランダ人は、救済の希望を持つのです。

第3幕:2艘の船が錨を下ろしている月夜の海岸
水夫と娘たちの合唱に、幽霊船の水夫たちが不気味な歌を歌い、海は荒れ、風が吹きすさびます。なんとかして思いとどまらせようとするエリックと、オランダ人の元に行こうとするゼンタの会話を陰で聞いてしまったオランダ人は、救済の希望を断念して、船を海へ出してしまいます。ゼンタは、自分の貞節を示すために、海にその身を投げます。ゼンタの一途な思いが通じ、オランダ人は救済され、ゼンタとともに天に昇って行きます。

まず、人間の声、歌の素晴らしさを感じました。水夫や娘たちの合唱、ダーラント船長の堂々たるバス、若々しい舵手のテノール、オランダ人の悲劇を感じさせる難しい音程を歌いきるバリトン、切々と訴えるエリックの誠実さを感じさせるテノール、娘を案じる乳母マリーのアルト、そしてゼンタの華のある素晴らしいソプラノ。演奏会形式とはいうものの、音楽の中にドラマがぎっしりと詰まっています。

そして、オーケストラ。例えばオランダ人や幽霊船の水夫たちが歌うとき、チェロやコントラバス、ファゴットといった低音楽器が奏でる響きと旋律は、善良なだけでは理解できない悪漢ワーグナーの音楽世界を如実に表現するものです。要所に聞かせるクラリネットの音色は、先ごろ日本音楽コンクールで第一位に輝いた川上一道さんと山形弦楽四重奏団の定期演奏会で親しみ深い郷津隆幸さんでしょう。圧倒的な盛り上がりを見せる終結部では、人間の声とオーケストラの饗宴を堪能しました。

いや~、良かった!終演後、思わず「えっ、もうこんな時間?」と驚いてしまいましたが、長い演奏時間も苦にならず、興奮のまま帰路につきました。

駐車場では、山形ナンバーに混じって、宮城ナンバーや福島、秋田ナンバーの車も目につきました。11月25日の日曜日16時から、再び同じ演奏会が開催されます。お近くの音楽好きの方々が、生のワーグナー体験ができますように(^o^)/

(*1):「さまよえるオランダ人」~Wikipedia の解説

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