電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

第185回山形交響楽団定期演奏会を聴く~ショスタコーヴィチ第9他

2007年12月16日 06時55分32秒 | -オーケストラ
昨晩7時から、山形県民会館にて、山形交響楽団第185回定期演奏会を聴きました。指揮は、関西フィル首席指揮者である藤岡幸夫(ふじおか・さちお)さん。曲目は、
(1)エルガー セレナード ホ短調、Op.20
(2)黛敏郎 シロフォンのためのコンチェルティーノ
(3)ショスタコーヴィチ バレエ組曲第1番
(4)ショスタコーヴィチ 交響曲第9番、ホ長調、Op.70
というプログラムです。

恒例の指揮者プレトークによれば、21世紀は地方オーケストラの活躍が鍵になり、在京オーケストラが刺激を受ける時代だそうで、飯森さんをリーダーとする山形交響楽団の活躍と一層のレベルアップが素晴らしい、とのこと。
エルガーの曲は、愛妻に捧げた曲をまとめたセレナード。三村さんは、素晴らしいテクニックの持ち主で、今回は、もともと木琴のための協奏曲をマリンバで演奏する。ショスタコーヴィチは、シリアスな一方で、カフェで演奏されるような軽い音楽も好きだった。交響曲第9番は、軽妙で聴きやすいが、生命を賭けたすごい曲。「第9」に壮大さを期待するスターリンらが連なる前で、生命を賭けて馬鹿にした。そういう音楽を、山響は素晴らしい表現をする。

演奏が始まります。コンサートマスター(ミストレス?)は、犬伏さん。今回は黒の、何と言うのでしょうか、パンタロン・スーツのようないでたちです。
エルガーのセレナードは弦楽のみ。第1楽章、アレグロ・ピアチェーヴォレ。犬伏さんのソロに、弦楽アンサンブルが優しく応えます。第2楽章、ラルゲット。もともとは「悲歌」と題されていたという、ゆったりとした、ひたすら美しい緩徐楽章です。第3楽章、アレグレット。少しテンポが速くなります。ヴィオラが活躍しますが、肩を痛めたと言う「らびお」さん、なんとか大丈夫そう。音楽は優美に終わります。

続いて指揮台わきにマリンバが運ばれて来て、その大きさにびっくり。横幅がけっこうありますね。あまり広くないステージいっぱいに広がり、指揮者は大変そうです。マリンバの独奏者は三村奈々恵さん。やや銀色がかった白のロングドレスが、ロングヘアーによく似合う長身の女性です。赤いマレット(?)を二本持って登場。
さて、黛敏郎の曲ですが、私はもちろん初の体験です。
I、アレグロ・ヴィヴァーチェ。けっこう躍動的な音楽です。マリンバが大活躍、リズムが面白い。
II、アダージェット。叙情的な旋律をマリンバがかなでます。ちょっと民謡風な旋律です。打楽器なので、旋律は細かな連打で表します。ピアノのようなペダルを用いた効果はありません。
III、プレスト。再び速い楽章で、短く終わります。
聴衆の拍手に応え、白いマレットを四本持って再び登場した三村さんのアンコール。「今のはもともと木琴のための曲でしたので、マリンバの魅力である低音を使っていませんでしたので」と、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」から「間奏曲」をマリンバ用に編曲したものを。
素晴らしい!マスカーニの甘美な旋律がやや変質し、ミステリアスで気高い音楽になり、聴衆から大きな拍手が贈られました。ホールがもう少し響くものであれば、ピアニシモがさらに美しく聴くことができたのではないかと、やや残念。素晴らしいホールを会場とする庄内演奏会では、たぶん最高の条件となるでしょう。

休憩の後、ショスタコーヴィチのバレエ組曲第1番。おや?編成が少し小さくなり、ファゴットの高橋あけみさんの姿が見えません。内心ブーイングをしながら、しかしこれも初体験の曲を堪能しました。
第1曲、叙情的ワルツ、木琴が活躍します。チェレスタもポロンと。もともとはジャズ組曲だそうですが、モダンジャズの時代以前でしょう。あまりジャズという印象は受けません。
第2曲、ダンス。弦のピツィカートで始まります。木琴と管が主役で、弦はあくまでもピツィカートで脇役。
第3曲、ロマンス。今度は弦がちゃんと弓を使って、木管と歌い交わします。
第4曲、ポルカ。軽快なテンポのよい曲です。ピアノがホールのダンス・ミュージック風に。運動会の玉入れ競技に似合いそうな音楽です(^o^)/
第5曲、ワルツ・スケルツォ。ピッコロとチェレスタが、ヴィオラとチェロのピツィカートをバックに。あまりウィーン風ではないワルツです。
第6曲、ギャロップ。ラッパ部隊大活躍のロシア風ギャロップ。シンバルも派手にジャーンと鳴らします。要所でトライアングルが響き、軽快で楽しい曲です。
全体的に、ショスタコーヴィチはピッコロやトライアングルなど、派手な鳴り物が好きみたいですね。

さて、長いファゴットを持って、高橋あけみさんも登場、編成もフルに回復し、いよいよショスタコーヴィチの交響曲第9番が始まります。
第1楽章、アレグロ。ピッコロ、フルート大活躍。パプーンと鳴るのはトロンボーンでしょうか。ティンパニのほかにバスドラムも。
第2楽章、モデラート~アダージョ。クラリネットの旋律は、不気味な墓場に流れるようなものです。木管が奏でるうめき声と嘆き、弦楽も緊張感に満ちた音楽を表現し、ピッコロのロングトーンがこの楽章を見事に締めます。
第3楽章、プレスト。ラッパ部隊が軍隊ふうに進軍し、チューバ、トロンボーン、トランペットなど金管の威圧的な響き(独裁者?)の後に、高橋さんの、息の長い素晴らしいファゴット・ソロ!本曲の白眉でした。
第4楽章、ラルゴ、第5楽章、アレグレットと、続けて演奏されます。音楽が唐突に盛り上がって行進曲ふうになるところや、横面を張り倒すようにタンブリンをぶったたいて終わる場面など、たしかにある種の、何と言うか、挑戦的な印象を受けました。

うーむ。私の個人的な好みからはちょいとずれている音楽ですが、ショスタコーヴィチの交響曲の理解、解釈について、たいへん有意義な演奏でした。演奏会の後に、得体の知れないわだかまりを抱えて帰路につく、そういう時があっても良いのかもしれません。地方オーケストラの定期演奏会で、時折こうした苦みのきいたスパイスのような機会があるのは、たしかにありがたいことです。少なくとも、私の通勤の音楽にショスタコーヴィチが第一セレクション群に選ばれることはないとは思いますが、こういう時代があったのだということは、忘れてはならないことだろうと思います。
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