リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

オペラの演出

2021年09月23日 12時34分34秒 | 音楽系
日本ではオペラの上演は極めて限られていますが、ヨーロッパでは歌舞伎座や御園座のように長期公演している専用の劇場が沢山あります。私の住んでいたバーゼルにもオペラハウスがありましたし、チューリヒにもありました。でもこれらの劇場にオペラを見に行き、古い時代の衣装でモーツァルトのオペラが見られると期待していくと驚くことがあります。

ロンドンでロイヤルオペラのリヒャルト・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」を見たときは大体上演当時(とおぼしき)スタイルでしたが、フランクフルトで見たヘンデルのオペラは人形劇風でした。完全に換骨奪胎して作品は200年前のものだがステージは現代のものという演出も多いそうです。ファッションデザイナーの山本耀司氏がワーグナーのオペラの演出を担当したときも斬新なものにしたと、氏の新聞コラム(日経新聞)にありました。

ヨーロッパのオペラは一定期間公演する常打ちが普通ですから、上演当時の衣装を着た演出では飽きられてしまうというか手詰まりになってしまうので、目新しいものに向かうのも仕方がないところかも知れません。でも日本の伝統芸能である歌舞伎や文楽などでは同じような上演スタイルでありががら、基本的には初演当時のスタイルを踏襲しているのが大半です。中にはナントカ歌舞伎と称して全く新しい現代風の創作もありますが、あくまでもそれはキワモノに近い位置づけのようです。

ヨーロッパのナントカ座オペラの日本公演で、例えばモーツァルトのオペラが、歌手が皆背広やドレスを着た現代劇になっていれば、日本の聴衆は絶対に驚いたり文句を言ったりすると思います。そういったオペラを日本で見たことがないので(入場料が高すぎます)実際はどんなものなのかは知りませんが。

歌舞伎の場合は衣装、音楽、台本の密着度がオペラより強いので、衣装や音楽も含めて伝統スタイルでの公演になるのかも知れませんが、演者や受け手がそれらの芸能にどう向きあうかの姿勢の違いがあるように思えます。そしてその根底には文化の違いがあるのかも知れません。