鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

本年度ベストワンミステリー「名もなき毒」

2006-12-21 | Weblog
宮部みゆき著の「名もなき毒」を読んだ。8月に売り出されても何故か買わずにいたが、年末になって恒例の今年のミステリーランキングで、「名もなき毒」がベストワンにランキングされているのを見て、どんなものか読んでみたくなった。読んで、なるほど、と思った。ストーリーの展開もさることながら、テンポのよさが絶妙で、登場人物の心理描写がすごくうまい。一気可成に500ページを読んでしまった。この「名もなき毒」はローカルの新聞に連載されたもので、掲載当時はそれほど話題にも上らなかった作品である。新聞連載は細切れになるので、ニュアンスなどは伝わり難いのだろう。
「名もなき毒」は冒頭、コンビニでお茶のパックを買った老人がそれを飲んで死んでしまうシーンから始まる。青酸カリによる無差別殺人事件である。次いで某コンツェルンの広報誌の編集に携わる主人公が取材を終えて、会社に戻るととんでもない事件が待ち構えている。アルバイトの女の子がトラブルを起こしたまま退社してしまったのだ。その対応を任された主人公はアルバイトの女の子の前歴を追い掛けるうちに冒頭の無差別殺人の被害者家族と知り合いになり、2つの事件が微妙に関わりあってくる。
主人公は実は某コンツェルンの会長の娘婿であり、そのことが事件に大きく影を落とし、展開を複雑にもしている。会長の娘婿だからといって将来を約束されているわけではないが、事情を知らない人はそうは見てくれない。 主人公の心の動きを克明に追いながら、それを周りの人はどう感じているか、がピタリ、ピタリと伝わってくる。その間の取り方、心の襞の描写、展開は天下一品である。新宿鮫シリーズで有名な大沢在昌といい勝負だろう。それができるのは登場人物の設定はじめ構成がしっかりしているからだろう。
 宮部みゆきが松本清張のように歴史に残る作家であるかどうかは今後にかかっているが、現存作家のうちでは当代1、2の書き手と言っていいだろう。他の小説家と違って、テレビに出てコメントしたりして、余分なことを一切せずに文筆活動一本に集中しているのがいいのだろう。



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