とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「曲り角の世界遺産」辻村國弘さん

2011-06-08 23:37:02 | 社会人大学
今年度2回目の社会人大学は、元TBS世界遺産プロデューサーの辻村國弘さんを講師に迎えた。辻村さんの略歴は以下のとおりだ。

1944年 東京生まれ
1968年 東京大学経済学部卒 NHK入局 福島放送局赴任
1972年 TBSに移籍 報道局ラジオニュース部配属
1980年 ドキメンタリー番組「報道特集」のディレクターを担当
1989年 「筑紫哲也ニユース23」のスタートと共にデスク担当
1996年 番組「世界遺産」のスタートと共にプロデュサーに
2006年 番組10周年を機に退職
その後も「世界遺産」について公演や原稿の執筆などを続けている。

講演は、テレビの元プロデューサーという事もあって、世界遺産の素晴らしい映像を何本も交えて話をしてくれたので飽きることなく興味深く聞くことができた。

まず世界遺産の定義だが、遺跡、景観、自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」をもつ物件のことで、移動が不可能な不動産やそれに準ずるものが対象となっているという。TBSの「THE世界遺産」という番組を制作するに当っては、この移動が不可能な物をどうやって映像化すれば人々が興味を持って見てくれるかということを考えたそうだ。その結果、カメラをたくさん動かしてあらゆる方向から撮影するという事になったという。クレーンで上下左右に移動したりヘリコプターで撮影したりと撮影の苦労は大変だったそうだ。テレビ放送では知ることのない撮影の裏話が興味深かった。

この番組は、ソニーが単独でスポンサーになっており、ソニーの50周年記念に合せて持ち上がった企画だという。こういう1社だけでスポンサーになるという事は、その会社のイメージを大事にしなければいけないので製作にあたっては、良質の作品を作り続けなければいけない。撮影チームは5人一組でチームとなり、5チームで世界遺産を撮り続けていたという。チームの構成は、ディレクター(監督)、カメラマン、ビデオエンジニア、照明(文化遺産)または音声(自然遺産)、現地コーディネーターの5人である。1回の撮影旅行で3箇所の世界遺産を撮影し、3ヶ月かけて番組を制作するそうだ。撮影チームの人たちは、死にかけたことが何度もあるという。それだけ過酷な撮影現場ばかりなのだが、誰一人やめたいというスタッフはいなかったそうだ。やはり、死にかけてもそれ以上に素晴らしい光景にめぐり合っているということだろう。撮影風景のビデオも流され、撮影スタッフの苦労がうかがい知れた。

世界遺産という考えが始まった歴史の話もあった。ユネスコの設立後、1954年にハーグ条約が採択され、武力紛争の際にも文化財などに対する破壊行為を行うべきでないことが打ち出された。その後1960年、エジプト政府がナイル川流域にアスワン・ハイ・ダムを建設し始めた。このダムが完成した場合、ヌビア遺跡のアブ・シンベル神殿が水没することが懸念された。これを受けて、ユネスコはヌビア水没遺跡救済キャンペーンを開始する。そして世界各国の援助をもとにヌビア遺跡内のアブ・シンベル神殿の移築が実現した。これがきっかけとなり、世界遺産創設の機運がうまれたという。このアブ・シンベル神殿の移設の話は、以前テレビで見たことがあった。巨大な石像の遺跡を寸分違わずに別の高所に移設して、見事水没の危機から救ったという話に感動した覚えがある。しかし、これが世界遺産創設のきっかけだったとは、知らなかった。

現在世界遺産に登録されている数は911あるそうだが、日本では14の世界遺産がある。因みにどこなのか調べてみた。

文化遺産 (顕著な普遍的価値をもつ建築物や遺跡など)
1.法隆寺地域の仏教建造物 - (1993年12月)
2.姫路城 - (1993年12月)
3.古都京都の文化財 - (1994年12月)
4.白川郷・五箇山の合掌造り集落 - (1995年12月)
5.原爆ドーム - (1996年12月)
6.厳島神社 - (1996年12月)
7.古都奈良の文化財 - (1998年12月)
8.日光の社寺 - (1999年12月)
9.琉球王国のグスク及び関連遺産群 - (2000年12月)
10.紀伊山地の霊場と参詣道 - (2004年7月)
11.石見銀山遺跡とその文化的景観 - (2007年6月)

自然遺産 (顕著な普遍的価値をもつ地形や生物、景観などをもつ地域)
1.屋久島 - (1993年12月)
2.白神山地 - (1993年12月)
3.知床 - (2005年7月)

複合遺産 (文化と自然の両方について、顕著な普遍的価値を兼ね備えるもの)
なし  

14もあるが、行ったことあるのは半分弱くらいだ。今年は、平泉や小笠原諸島が登録されそうな話もあるが、どうなることであろうか。ただ、富士山の世界遺産登録への道は、かなり険しいみたいだ。日本人の中では、富士山が入ってないのはおかしいという気持ちが強いのだろうが、世界の常識でいくと富士山のようにきれいな円錐型の山はいくらでもあり、自然遺産としての価値はあまり認められていないという。そこで、現在は富士山に関係した一連の文化遺産として運動中であるのだが、曲り角に来ている世界遺産の状況からいくと長い時間がかかるのではないかと言うことだった。

そして、後半は今回の主題である「曲り角の世界遺産」という話になった。登録された世界遺産の中には、武力紛争や自然災害・都市開発に加え観光客の増大や外来生物によって重大な危機にさらされているものがかなりあるという。最初に登録されたガラパゴス諸島は、一時期世界遺産登録剥奪の危機になっていたという。これも、観光客の増大によるゴミの増加や外来生物増加による固有種の絶滅の危機という問題である。また、世界遺産に登録されることは、周辺地域の観光産業に多大な影響がある。特に 日本では世界遺産に登録されることで観光客を呼び込もうとする動きのあることが指摘されており、こういった動きから世界遺産登録数をやたらに増やすべきではないという考えがユネスコでは広がりつつあるそうだ。

世界遺産条約の第12条では、このように記されている。

文化遺産又は自然遺産を構成する物件が前条の2及び4に規定する一覧表のいずれにも記載されなかったという事実は、いかなる場合においても、これらの一覧表に記載されることによって生ずる効果については別として、それ以外の点について顕著な普遍的価値を有しないという意味に解してはならない。

つまり、世界遺産にならなくてもいいものはいい。リストに載ることを目的にしてはならないと釘を刺しているわけである。観光化されていない場所でも、すばらしいところは一杯あり、そういったところにも目を向けていくことも大切だという事を教えられた気がする。

講演の最後は、フランス西海岸の小島に築かれた修道院モン・サン=ミシェルの映像が流された。辻村さんお勧めの映像である。朝焼けの中に浮かぶモン・サン=ミシェルの映像は、息を呑むほど美しい。天気の良くない季節で何日も粘ってやっと撮影した貴重な映像だという。こんな景色が見られるなら一生のうちに一度は行って見たくなった。他にも、目を見張る映像をいろいろ見ることができた。たしかに世界遺産というだけあってかけがいのない自然と文化ばかりである。人類のたからものと言うべき世界遺産を未来へ引き継ぐためには、保護・保存・整備が重要だということを再認識した。



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2 コメント

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ブログ紹介 (ヒロボー)
2011-06-10 12:38:02
昨日浜松夜教室に行きました。
とてもよかった。
終了後・・・浜松に泊まるということで、いっしょに飲みました。
名刺交換をしてメールアドレスを聞いたので、とっちーさんのブログを紹介しますのでご了解をお願いします。
返信する
ヒロボーさんへ (とっちー)
2011-06-10 21:29:03
了解しました。ありがとうございます。
素晴らしい映像と興味深いお話でしたね。
返信する

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