prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「007 スカイフォール」

2012年12月18日 | 映画
初期のボンドシリーズの荒唐無稽さ、大人のマンガといった趣は薄れてずいぶんシリアスになった。昔のボンドが持っていたような秘密兵器よりもっととんでもなく発達したガジェットが現実に誰でも持っている世界になったのだからやむをえないところもあるし、ダニエル・クレイグの柄からしてもそうこの路線は変わらないだろう。
笑えるところも結構あるはずなのだが、観客はあまり笑ってませんでしたね。

タイトルバックでドラマのモチーフが端的に示される。ボンドが自分の十文字になった影や鏡に写った像に発砲したりするのは、ボンドが自分の分身と対決するというモチーフ。
もう一つは下降=水(寒色)=死と上昇=炎(暖色)=生との対立と、死を潜り抜けての再生というモチーフ。
アヴァン・タイトルのアクションでボンドは撃たれて水に落ちているわけで、ここからとりあえず生還はするが、それで即再生できるわけではない。

以後、本編のあちこちでこれらのモチーフが丹念に変奏され発展することになる。
上海での狙撃シーンは高層ビルの上層階なのにも関わらず、巨大なクラゲの電飾をバックにして水のイメージを持ち込んでいるし、マカオのカジノの外景は水の上に多量の灯篭に囲まれ上空に花火が打ち上げられてるといった調
子。
そしてクライマックスにも鏡は再登場し、燃える家が空を焦がす中、再びボンドは水に落ち、死の世界から生還することになる。
ディテールが常に全体のモチーフと結びついている構築力ではシリーズ中異色に見えるくらい強い。

タイトルバックでは龍も出てくるのだが、上海が前半に出てくるし、マカオのカジノではコモドオオトカゲが飼われているからそれに合わせたわけでもあるけれど、聖ジョージのドラゴン退治にもなぞらえているのではないかとちょっと思った。調べてみたら、聖ジョージはカッパドキアの出身とされていて、この映画の出だしはトルコだった。

今回の元情報部員である敵役が登場とともに語る大勢の中から生き残る二匹のネズミのエピソード(ハピエル・バルデムが出てくるなり、この長台詞をこなしてみせるのが強い印象を残す)が、端的に生死をかけたふたつの個体の争いでもあるとともに、半ば一体になったうちの二面の戦いでもあることを示す。
ボンドが撃たれるのが右胸、というのも左胸だったらもちろん死んでいるわけでもあるが、鏡像関係と対応するものだろう。

敵役がいつものように大組織の頂に君臨しているのではなく、ごく小規模な集団しか率いただけで個の戦いを挑んできているのだが、それがテクノロジーで増幅されるととんでもない混乱を呼んでしまうというのが現代的。
秩序を失った世界をスカイフォール=空が落ちてきた世界と読み、それを支える巨人の喪失を見据えるところから出発している。

新しいQが登場するのが美術館のターナーの「解体のため最後の停泊地へ向かう戦艦テレメール」の前というのは、時代についていけなくなったと非難されるようになったMI6になぞらえられているのだろう。

Mが朗読するテニスンの詩「ユリシーズ」のユリシーズ(オデッセウス)は長い長い旅の末に故郷に戻るが、ボンドも故郷のスコットランドの生家に戻る。
シリーズ50周年というのは単なるにぎやかしではなく、原点回帰と再出発という意味合いをはっきりこめていて、それはシリーズの原点でもあるしイギリスの歴史・文化を改めて振り返って見直している感が強い。007というと無国籍・荒唐無稽が売りだったのだが、これははっきりイギリス色に染まっている。

MはMa’amと呼びかけられていて、ジュディ・デンチがやる前の男のキャストではこういう意味は出しようがなかった。子供が母親のことを呼ぶときもそういうらしいが、軍で女性の上官を呼ぶ時の敬称でもあり、シルバは前者寄り、ボンドは後者寄りの意味で使っている気がする。

日本の軍艦島が出てくるのだがどの国かはボカしているし、落ちてきた天を支えて斃れた巨人のちょっと未来派風の彫刻は引き倒されたレーニン像やフセイン像も思わせ、国籍不明というより世界全体に通じるイメージ作りをしている。

何度も見ている人が多いみたいだが、確かに一回見ただけではこの豊富なディテール群は把握しきれないだろう。
ボンドのテーマが鳴るシーンの設定と呼吸だけでも再見したくなる。
今回はずいぶんウイスキーをよく飲んでいたけれど、どういう産地なのか見直したら確かめてみましょう。
(☆☆☆☆)

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12月17日(月)のつぶやき

2012年12月18日 | Weblog

きのうまで大臣、きょうからプーがゾロゾロ。確かに選挙は怖いわ。


テレ東の選挙速報の当選者のプロフィール、ちょっと見ただけでも「ばんそこう赤城」の後継、創価高→創価大→青年局長の経験、尊敬する人はチャップリン、公約にジブリワールド実現、スキー指導者の資格あり「選挙では滑らない」など大体面白いですね。後日ネットにまとまらないかなあ。

小暮 宏さんがリツイート | 9 RT

どうなってるの?見れば見るほど不思議な気持ちになる写真19枚 labaq.com/archives/51773… @lbqcomさんから


自民党に入れた人が勝ちすぎだと怒っていた。


次が怖い。安倍総裁も石破幹事長もテレビではまるで笑っていなかったけれど、新聞では笑顔が載っている。どうかと思うよ。


伊丹十三のエッセイで「ニコニコカメラ」というのがあった。とにかくポートレイトを撮るとなると笑顔しかシャッターを切らないカメラマンがいるもので、玄関先で端然として写真に納まるか、うっかり笑ってしまったのはあとで「使わないでください」と言いおくとか。


ポートレイトというと笑顔、選挙で勝ったから笑顔と、あらかじめ決め付けてそれ以外を受け付けない、というところがすでにダメなのです。


写真に現れるのは、撮られる対象と同じぐらい撮る側の構えということになる。今更ながら。


@yama_tt  笑顔というのは好意の表れの場合もありますが、相手に敵ではないよという警戒をとくためのサインでもありますから。やはり伊丹さんのエッセイで、アメリカ人は白い歯を出して笑っている裏でいざとなったら断固としてノーを言うというのもありましたね。


維新は参院選まで分裂しないで持ちますかね。 #dig954


原発稼動に賛成で、竹島・尖閣は断固として守りぬくべきで、TPPには参加すべきで、消費税は必要だと考えて自民党に投票した選挙民だっていっぱいいると思いますけど。それが正しいとは言わないが、間違っているともいえないでしょ。#dig954


死に票って言い方よくないよなあ。生かそうとしたら勝ちそうなところに入れたくなるもの。#dig954


サイレント・マジョリティvsノイズィ・マイノリティとでは当然前者の方が数が多い。聞こえるのは後者の声ばかりだけれど。#dig954


過去の内閣とか政治家をあとになって振り返って細かく具体的に見てみると、意外とちゃんと仕事していること多いんですけどね。現役の時はとにかく叩かれるけれど。#dig954


テーブルの上で握手して下で蹴りあうのが外交というけど、これからの日中は上で睨み合って下で絡みあうという図になるのか。 #dig954


国内的には外国に対して強行なこと言ってなだめておいて、裏でメッセージを発信しあうと。#dig954


日本に寄ってきてもらわないとアメリカだって困るでしょ。それがなんでアメリカのポチとかケツなめとかになるかな。#dig954


長い目で見たら、尖閣の方は海底資源をどうシェアするかという話に収まっていくのかな。 #dig954


中国で小泉さんって意外と評価されていると聞いたことある。#dig954


日本が徴兵制になるとか聞くと、60年安保でセンスがストップしているとしか思えないんですが。#dig954


県警、密室トリック見破る 各務原女性殺害、現場に違和感 gifu-np.co.jp/news/kennai/20… こういう密室トリックを現実にやる犯人がいるとは。