prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「アマデウス」 ディレクターズ・カット版

2010年06月25日 | 映画

ディレクターズ・カット版というので復活したシーンで目立つのは、モーツアルトの妻コンスタンツェがサリエリを誘惑してスルーされる場面で、あ、サリエリって童貞なのねと改めてわからせる。
このシーンがあると、モーツアルトが死ぬ前にコンスタンツェがサリエリに対してひどく冷たい態度をとるところがすんなり腑に落ちる。

あと、女を前にして何もしない、できないという点で同じピーター・シェイファー作の「エクウス」で主人公の少年が「馬」の目を意識した途端に不能になるところにもつながってくる。
「エクウス」での馬、というのはキリスト教によって性的に抑圧される以前の世界の官能性の象徴とでもいったニーチェ的な意味があったわけだが、そう考えると「アマデウス」でモーツアルトが乱痴気騒ぎをするところで馬の仮面をつけているのに気付く。

モーツアルトのパトロンのヨーゼフ二世はマリー・アントワネットの実兄で、フランス革命が遠くで進行していることが宮廷でのやりとりで語られるのにも気付く。オペラがモーツアルトによって型にはまってお高くとまった神々や英雄から俗で平凡で猥雑な人間を扱うようになっていくのと、王侯貴族の支配から市民社会へと変遷していくのと軌を一にしているというわけだろう。