服薬を開始するや、初めて飲む睡眠導入剤のおかげで、圭子はいくらか眠れるようにはなった。
しかし、入眠は楽にはなったものの、早朝に覚醒し、しかも熟睡感は得られていなかった。
そして、まだ誰にも言えていない、恐ろしいイメージのフラッシュバックは、依然として彼女を苦しめていた。
そればかりは、いくら安定剤の力をもっても、消し去ることは不可能であった。
彼女は、あの日以来、食欲は失せ、あらゆることに対する興味関心が失せていた。
職場も津波で全壊したので、現在は、辛うじて津波の被害を免れた実家で自宅待機となっていた。
眠れない、食べれない、という日が続けば、どうしたって生き物である以上、憔悴は免れなかった。
両親、妹も心配して、好物を作ったり買ってきたりしては、勧めてみたが、どれも彼女の喉を通るものではなかった。
母親は、津波に呑まれた衝撃・恐怖による心の不調と見ていた。
それで、
「ゆっくり休んでいれば、大丈夫よ」
と、安心感の提供を怠らなかった。
圭子はみるみる痩せていった。
元々、スリムな体型だけに、まるで一挙に数歳も老けたかのように頬がこけ、骨ばった表情になった。
まだ高3の妹は、
「お姉ちゃん。生理もないみたい。大丈夫かなぁ…」
と両親と不安を分け合っていた。
「明日は、私が一緒に病院に行ってみます…」
と、母親が言った。
「うん。そうした方がいいだろう」
と、父親もそれに賛同した。
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