『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』11

2022-09-08 06:35:13 | 創作

 

* 11  *

 

 すでにやってしまった以上は、

 その結果がよいほうに向かうように、

 あとの人生を動かすしかない。

                 養老 孟司


 

 師匠は、高3の十八歳で、タイトル二冠になり、九段に昇段した。

 無論、どちらも棋界では最年少記録である。

 そして、十九歳で四冠(棋聖・王位・叡王・竜王)となり、翌年には念願の「名人」位獲得と「王座」「王将」も手中にし、尚且つ、全タイトル防衛に成功して、若干二十歳(はたち)にして「八冠」を達成するという途轍もない記録を樹立した。

 さらに、驚くべきは、その後、連続五年もの「八冠」を防衛し「永世八冠」となった。

 中2のデヴュー当時の29連勝は、「マンガを超えてる」と漫画家たちを呆れさせたという神話的エピソードがある。

 だが、この「永世八冠」達成も、マンガにならないリアリティがなさすぎる偉業であった。

 

 カナリは、プロデヴューこそ、師匠を抜いて棋界の新記録を更新したが、いきなり初戦で負けてしまい、その後も、勝ったり負けたりの鳴かず飛ばずで、十連敗するという不名誉な記録も作ってしまった。

 ルックスの良さと、初の女性棋士というので、デヴュー時には大いに注目もされ期待もされた。

 しかし、実力・棋力がすべての棋界である。

 ネットでも、ぽちぽちと悪口がささやかれ始めていた。

「カナリ、かなり弱し‼」

「桂馬も成らずば、金になれず‼」

「もう、女流に転向しちまえ‼」

 負けが込んでいた時は、奨励会仲間たちも気を使って、腫れ物に触れないようにと遠巻きに見ていた。

 もう、来る日も来る日も、やってもやっても、勝てない日々が続いた時には、盤に向かうことも、駒を手にすることも、恐ろしくなった。

 いわゆる、スランプである。

 そんな時だった・・・。

 

 将棋会館の廊下で、ひとり泣いていると、

「大山さん。

 将棋は好きですか?」

 と、声をかけられ、訊ねられた。

「えっ⁉ ・・・」

 雲の上の「永世八冠」。

「棋神」「生き神様」「ソータ大明神」・・・だった。

 アタマん中が混乱して、何をどう返答していいのか分からなかった。

 今日もきょうとて、負けたばっかりである。

「あなたは、将棋が好きなんでしょ」

 と、背の高いカミサマは、女の子の頭上で、もう一度やさしく仰られた。

 カナリは、夢ではないかと思いながらも、コクンと首を折り

「好きですぅ・・・」

 と、一言いうと、泣きじゃくりながら、体を振るわせた。

 すると、カミサマは、信じられないようなご宣託を下された。

「じゃあ、僕の処に来ませんか?」

「へっ⁉・・・」 

 このカミサマは、いったい何を仰ってるのか・・・

 中2の女の子には、瞬時に、その神語の真意を理解しかねた。

【天才は天才を知る】

 と言うが、ソータはボロ負けJC棋士の将棋の中に、まだ未熟ながら、キラリと光る将来性と可能性を見出していたのである。 

 

 カナリはプロ棋士になったので、特例で学校の部活は免除されていた。

 なので、放課後になると、そそくさと師匠宅に帰り、家事のお手伝いをちょっとやり、おチビちゃんたちともちょいと遊んでから、自室に籠って詰将棋を解いたり、師匠の棋譜を勉強したり、最強ソフトと対戦したり、という日常を暮らしていた。 

 そして、時に、将棋会館まで赴き、棋士室で奨励会仲間とVS(ヴイエス/1対1の練習対局)をしたり、若手研究会に参加したり・・・と、自己研鑽に余念がなかった。 

 なにせ、永世八冠の唯一の弟子であり、棋界初の女性棋士である。

 弱くてはオハナシにならない世界なのである。

(いつか、師匠を超す・・・

 必ず超えてみせる・・・)

 という、トンデモナイ野望が、その小さな胸の奥には眠っていたが、未だその「女ドラゴン」は目覚めてはいなかった。

                     

 

 

 

 

 

 


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