北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

「ケーキの切れない非行少年たち」を読む ~ 犯罪の根にはしばしば障害が隠れている

2021-04-11 23:30:46 | 本の感想

 

「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著 新潮新書)を読みました。

 著者は児童精神科医として発達障害の子供たちの診察をしていて、「女性の体に障りたくて仕方がない」という少年に出会います。

 著者は、『認知行動療法』という治療方法で、当時北米で効果を上げていた性加害防止のためのワークブックを使って、治療を行いました。

 認知行動療法とは、思考の歪みを修正して適切な行為・思考・感情を増やし、その逆に不適切な行為などを減らしたり対人関係スキルの向上を図る治療法の一つで、心理療法分野では効果的とされているやりかたです。

 ところがこの少年はワークブックを終える度に「わかりました」と言い、反省の弁も述べているので内心(もう大丈夫だ)と思うことが度々あったにも関わらず、問題行動がなくなりませんでした。

 のちに分かったことは、この少年には認知機能に問題があって、分かるべきことが分かっていなかったのです。

 発達障害に加えて知的障害を持った子供たちは、しばしばクラスや社会で虐められ、また彼らの是とする行動が法を犯すものであったときは犯罪者として少年院や刑務所に送られてきます。

 著者は「本来障害を持った子供たちは、大雪に守り育てなくてはいけない存在なのに、加害者となって被害者を生み出してしまう。これは『教育の敗北だ』」と言います。


 本書のタイトルの「ケーキの切れない非行少年たち」というのは、著者が医療少年院で出会った凶悪犯罪に手を染めた非行少年たちのことです。

 「ここに丸いケーキがあります。これを3人で平等に食べるとしたらどう切りますか?」という問題に少年たちは正しい答えが出せません。

 本来もっと幼い時にその実態を把握して適切な対応を受けるべき彼らが、その知的な障害ゆえに挫折し虐められ、どれだけ生きにくい思いをしてきたことか。

 そしてその最後に行きついた少年院でさえも、理解されずひたすら反省だけを求められるということが問題なのだ、と著者は語ります。


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 ではどうしたらよいのでしょうか。

 著者は、「そんな重大犯罪を犯して少年院にいる彼らの中に、入院後8カ月後くらいから大きく変わり始める少年がいる」ことに気がつきました。

 その大きな要因は、「自己への気づき」と「事項評価の向上」だといいます。

 押し付けではなく少年たちが自ら内省をすることで気がつくことが大切で、「子供の心に扉があるとしたら、取っては内側にしかついていない」という言葉を紹介しています。

 そして最後に著者は「認知機能に着目した新しい治療教育」について触れています。

 それは学習の土台となる認知機能をターゲットにした「コグトレ」と呼ばれるトレーニング方法です。

 コグトレは認知機能を構成する5つの機能(記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断)に対応する「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」の5つのトレーニングで構成されています。

 ここでは詳細は述べませんが、著者である宮口幸治先生が書かれた『コグトレ~みる・きく・想像するための認知期の強化トレーニング』という教材が市販されているそうですので検索してみてください。

 
     ◆


 実際、私も長い社会人生活の中で過去に何人か「周りから変な奴と見られている」仕事仲間がいました。

 今思えば、なんらかの障害を抱えていたようにも思いますが、しばしば上司に当たる人には受けが悪く人事面でも不遇な形になっていることが多くありました。

 そうした人たちも、非行や犯罪は犯さないなかでネガティブな部分は抑制をして、その能力の部分を適切に引き出してあげることができれば組織としての和や全体のパフォーマンスは向上するはずです。

 部下を持つ人たちや教育的立場にある人には、素養の一部として一読をお勧めしたい一冊です。


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