駒子の備忘録

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池井戸潤『下町ロケット』(小学館)

2011年10月25日 | 乱読記/書名さ行
 佃航平は宇宙工学研究の道をあきらめ、東京都大田区にある実家の佃製作所を継いでいたが、突然の取引停止、さらに特許侵害の疑いで訴えられるなど、大企業に翻弄され、会社は倒産の危機に瀕していた。一方、政府から大型ロケットの製造開発を委託されていた帝国重工では、百億円を投じて新型水素エンジンを開発。しかし、世界最先端の技術だと自負していたバルブシステムは、すでに佃製作所により特許が出願されていた。宇宙開発グループ部長の財前道生は佃製作所の経営が窮地に陥っていることを知り、特許を20億円で譲ってほしいと申し出るが…
 今年の直木賞受賞作。

 エンターテインメント企業小説としても、金融小説としても、よくできているし、おもしろく読みました。
 パンチに欠けるかもしれませんが、手堅いし、受賞作としても問題ないのではないでしょうか。
 一部には「震災によるご祝儀受賞だ」みたいな声もあったそうですが…

 ただ、もうひとつ押せたな、と思うのは、夢や仕事と同じくらい人生に不可欠であるはずの家族のドラマがない部分。
 というかぶっちゃけ女性キャラクターが描けていない、というかほとんど出ていない部分について、です。

 WOWOWのドラマでは協力してくれる敏腕弁護士が女性キャラクターに変更されたようですが、それだけでは生ぬるい。
 主人公はバツイチなのに、元妻とも娘ともドラマがないなんてありえないはずです。なのにスルーですもんね。
 まず、キャリア志向の女性だからって年頃の娘を夫の元に置いてくるなんてありえないと思う。たとえば娘が父親を選んだ、というのならわかるけれど。
 それでいて難しい年頃になると父親とは口も利かなくなり、母親に恋愛相談していたりとか、万引きで捕まるとかさ、何かドラマがあってもいいはずですよね。
 そういう厚みがない。
 ただただ男たちが仕事に汲々しているだけってのは、社会はドラマとしてもやはり一面的過ぎると思います。

 女性研究者は現実にまだまだ数が少ないので、主人公の小さな会社に影も形も見えないのは不思議ではないかもしれない。
 しかし唯一ある女性社員の描写が、先代社長のころから総務にいる「オバサン社員」だというのですが、これがまったくもっていただけない。
 たとえば著者は自分が「オジサン作家」と表現されたとしたらどう思うのか、何を指しているのだと考えるのか? 本当に問い質したいよ。
 この点に関してはやかましいと言われようがなんだろうが、もの申しておきたいと思います。
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