駒子の備忘録

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『ジンギスカン』

2011年10月25日 | 観劇記/タイトルさ行
 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール、2011年10月5日マチネ。

 1172年、青年テムジン、のちのジンギスカン(紫吹淳)とケレイト族の姫カルカ(鈴木亜美)は出会い、恋に落ちるが、世は民族の勢力争いの真っ最中であり、ふたりは大草原を舞台に争われる戦いに巻き込まれていく…
 原作/牧逸馬、脚本/窪田篤人、演出/山田孝行、美術/中嶋正留、音楽/寺田瀧雄。総合演出/市川猿之助。1986年初演。

 リカちゃんの男役は、今にも現役に戻れそうな素敵さでとてもよかったです。低い声、押し出しの良さ、ヒロインに対する甘やかさなど絶品でした。
 男優さんたちに混じると確かにある種の違和感は感じられるのかもしれませんが、それは「男に見えない」とかいうよりもむしろ、「全然違うものに見える」ということで、歴史的ヒーローの特異なオーラを表すことにもつながっていて効果的だったのではないかと思いました。
 そういう意味でこの起用は正しかったと思うし、「この作品を宝塚版でやってみたらどうなるのか」という発想があったそうですが、多少手を加えればかなりおもしろい大劇場公演になるなと思いました。

 ただし今回の公演に関して言えば、いただけない部分がはなはだ多く感じられたのも事実です。

 まずセットと美術に芸がない。低予算なのかもしれませんが程があるだろうと言いたい。
 それから歌の入れ方に芸がない。特にボルテ(玉置成美)が芝居のあとカーテン前に出てきて歌って、というのか二回繰り返されたときには本当に仰天しました。何故続ける!
 いったいに歌はすべてカーテン前で歌われたのではなかろうか…そんなミュージカルあるかい。
 きっとキムシンならもっと上手くやってくれるよ…(ToT)

 それからタイトルが良くないと思う。
 たとえば『星よりも風よりも』とか『草に生き愛に生き』とかさ、なんでもいいんだけれど、もっと叙情的な散文的なタイトルにしたほうがいい思う。ジンギスカンの名前はサブタイトルにあれば十分です。
 というのも、この作品の主眼は主人公の英雄的な一生とかモンゴル族による草原の平定とかいうことにはなく、あくまでテムジンとカルカとジャムカ(佐藤アツヒロ)の三角関係にあるからです。
 それこそ宝塚歌劇にふさわしいメロドラマですが、それで十分におもしろいしドラマチックなので、そっちにもっともっと特化した構成にすべきだと思うんですよね。
 そして三角関係とともに大事なのは、三人がそれぞれ違う部族の出身であるということ、それが協力し合ったり反目しあったりして覇を競い合っているということ。それが恋愛だけでない緊張感を生み出すはずなのですが、そのあたりが実に説明不足でワケわからなくてもったいなかったです。
 誰がどこの部族でそれはどこと対立していて、という基本情報をもっとわかりやすく提示することは全然できたはずなのになあ、もったいない。

 というワケでドラマ的にはかなり脳内補完して観ることになりました。
 それに特にヒロインの演技にまったく情感というものがなかったので、せっかくリカちゃんが色っぽい芝居しているのにもったいなかったなあ…
 そしてテムジンと信頼しあう親友であり盟友であり義兄弟の契りを交わした仲でありながら、妻カルカとテムジンとの不義を疑ってしまう悲しい役どころのチャムガも熱演だったのに…
 とうあすちえとかでやるとよかったと思うよ!

 劇場は初めてでしたが天井が高い綺麗な舞台で、バレエの公演なんかに良さそうでした。

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