駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『ハリウッド・ゴシップ』

2019年10月19日 | 観劇記/タイトルは行
 KAAT神奈川芸術劇場、2019年10月17日11時。

 1920年代、サイレント映画最盛期のハリウッド。映画スターを志しながらもチャンスに恵まれないエキストラ、コンラッド・ウォーカー(彩風咲奈)は、これを最後にと新人発掘を謳うトーキー映画の主演オーディションに挑む。しかしこの企画は、大物プロデューサーのハワード・アスター(夏美よう)が仕掛けた話題作りにすぎず、実際は若手スターのジェリー・クロフォード(彩凪翔)主演が決まっていた。そのジェリーはロケ先のダイナーで見つけたウェイトレスをヒロインにしなければ主演しないと要求するなど、わがまま放題で…
 作・演出/田渕大輔、作曲・編曲/青木朝子、編曲/植田浩徳、録音音楽指揮/橋本和則。雪組二番手スター彩風咲奈の主演三作目となるミュージカル・スクリーン、全2幕。

 12日11時のチケットを持っていたのですが台風で中止になり、フォロワーさんからご縁あってお譲りいただいたチケットで観ることができました。ありがたや。
 『パルム』『ネモ』と観てきたのでやっとまあまあの作品に当たれてよかったねと祝いたいような、でも悪い言い方をすればめっちゃベタいやむしろ通俗的で凡庸でアイディアも新鮮みもない作品でコレもっとおもしろくできたやろと歯噛みするような、そんな観劇になりました。
 ハリウッド・バビロンだから劇中劇が『サロメ』ってのもベタベタなんだけれど、かのちゃんサロメのダンスがよかったのと、サロメとヘロデ王との関係性の翻案がよかったのは褒めてもいいです(毎度偉そうでホントすみません)。てかむしろ二次創作っぽくてアマンダ(梨花ますみ)の発想ってこっち側なんだなと微笑ましくなりましたが(笑。もちろん考えているのは田渕先生なんだけれど)、でもコレ別に義父のままでもなんら問題ないし、ジェリーというかナギショーがやるなら若く見えるに決まっているので、むしろいらない翻案だったかもしれません…コンラッドが頭角を現してきたら撮ったフィルムを編集してヨハネ主人公の作品に仕立て直しちゃおうとする、ハワードのしたたかさには笑いましたし感心しましたけれどね。田渕先生にはむしろこのしたたかさやバイタリティが必要なのではないでしょうか…?
 人物の描き混みが浅いのはもちろん、なんといってもコンラッドが嫌な男に見えかねないのがなにより気になりました。でもこれ、二幕でコンラッドがエステラ(潤花)に語る来し方のくだりをもっと前に、開幕してすぐ観客に提示するだけで全然ちがうと思うんですよ。この作品で私が唯一オリジナリティ、新鮮みを感じたのはコンラッドのこの陰キャ設定だったんですけれど、この位置に置いといたんじゃ不発で、もったいなかったです。だって今、冒頭のオーディション場面のコンラッドのあまりのふがいなさには「才能がないからスターになれないんだね…」としか思えないし、アマンダの特訓で制作発表記者会見の場をさらってしまうくだりもヒロインの晴れの場を奪ったように見えちゃうと思うんですよ。それじゃダメじゃないですか、観客に主人公を好きにならせて、心を沿わせて、物語を追うつもりにさせなきゃダメでしょ? だから早いうちに主人公の人となりを描き魅力を見せなきゃダメなんです。ただ咲ちゃんがやってるだけで魅力的に見てもらおうってのはいくら座付きでも作家としての仕事を放棄していますよ田渕先生。過去話が先にあれば、オーディションに上手く対応できずに失敗ししちゃうくだりも愛しく見えるし、スター誕生してやったり!ってところもちょっと調子に乗っちゃったんだね愛しいね、ってなるのに…
 そもそも我々観客は一般人なので、主人公の映画スターになりたい、という想いに寄り添えないのが普通なので、そこから説明してほしい、と私は思います。で、恥ずかしがり屋で引っ込み思案で本当の自分に自信がなくて、だけど映画に魅せられて、お芝居でならなんにでもなれる、演技でならどんなことでもできる、ということに目覚めて役者を目指したんだ、とくれればとてもわかりやすいし共感しやすいと思うんです。自分が嫌い、自分に自信がない、というメンタリティはけっこう多くの人に刺さると思うので。
 でもそれとスターになってチヤホヤされたいとか贅沢三昧の暮らしがしたいというのとは違うと思うし、そこを混同させないでほしいんですよね。そのあたりは微妙だったかな…エキストラ仲間たちをもっと上手く使って、俳優志望にもいろいろある、みたいなのをもっと上手く見せられるとよかったんでしょうけれどね。
 ジェリーは大根(かどうかは言及されていませんが、少なくとも踊れないスターだということになっています)だけど美貌で人気があってだからわがままで、スタントをしてくれるコンラッドを自分専用にしておきたいからコンラッドの邪魔をする、演技もコンラッドの方ができるのに無名だからと起用されなくて悔しくて…とかもあればなおわかりやすいけれど、そういうのもないんですよねえ。コンラッドが何故今まで成功できなかったのか、の説飯は必要だと思うのだけれど…
 とにかく全体にキャラ設定やエピソードに深みがなくて、パッと思いつきそうなことをひとつやっておしまい、なのもちょっとしんどかったです。だってジェリーの「わがまま」描写ってほぼ遅刻押しばかり、それもひとつふたつだけなんですよ。もっと考えましょうよ…
 コンラッドが何故このオーディションで最後にしようと決心したのかも語られませんが、なんだったんでしょうね? そこにはドラマはなかったの…?
 いいところもたくさんある作品なんですよ? ことにダイナーの場面は一幕も二幕も出色で、だからこそ本当に惜しかったです。きゃびぃがいいのはもちろん、ここはものすごく芝居になっていました。もったいないなあ…
 エステラに関しても描写は中途半端なんだけれど、移民で孤児で働き者で人間観察が好きでそこにドラマを見立てて幸せになれる人種で、たまたま美貌でスカウトされてちょっと演技をやってみたいと思ったけれどそもそもそんな大きな野望はなくて…というのは十分だし、あまりガツガツしていないこの設定はちょっと新しいので、よかったんですよね。コンラッドが惹かれるのもよくわかりましたし、世界恐慌で映画がポシャってからの再会のくだりもとてもよかったです。ベタだけど、お行儀悪いけどあのカウンターの使い方もよかったし、怒ってあきれていた女主人(早花まこ)がエステラがカウンターに上がるのに最後に手を貸すのにもニヤリとさせられました。
 でも、それだけなんですよね、ストーリー展開もとてもイージーでしたしね…あまりにも「いかにも」な話すぎました。フィナーレがたっぷりだったのは単に話がなくて尺が余ったからにすぎないんですよ…残念だなあ…
 あとラインナップはとてもお洒落でしたが拍手が入れづらかったので、このあたりも工夫がもう少し必要だと思いました。
 すわっち、あがちん、はいちゃん、ゆめくんなどみんな役不足でもったいない。ひまりんも妃華ゆきのちゃんもいつでもどこでも可愛かったけどもったいない。まなはるもカリも愛すみれもこういう仕事ができるのはもう知ってるんですよ。ファンにもしんどい公演ではなかろうか…イヤ余計なお世話でしたらすみません。
 失礼ながら意外にもよかったのはナギショーでしたが、宝塚歌劇で薬物なんて、というのを別にして宝塚歌劇でこういう役をこういうスターに当てるのって、けっこう酷ではないんでしょうかね…そこも含めて、でもしっかりジェリーを演じてみせているナギショーに感動しました。でも私は宝塚歌劇のファンとして、ここを消費したくないんですよ…
 ジェリーのゴシップに群がる記者たちの醜悪さはでも、その記事に群がり喜び消費する新聞の読者やラジオの視聴者、ひいては私たち観客の醜悪さに通じるものなので、これにもざらりとさせられ、私は微妙な気持ちになりました。タイトルにしているくらいなんだからここに田渕先生の主張があるのかもしれませんが、ちょっとやりっ放しの描写でもありましたし、そのあたりも消化不良かなと感じました。あとポスターとイメージが合っていないし、そもそもあのポスター自体があまり集客力ある感じじゃなかったのが残念でした…

 毎度のことですが文句ばかりで申し訳ないです。
 でもハシボーじゃないからこそもったいなく思ってしまったんですよー。
 なんにも考えずただ楽しむ、とかができない質ですみません。本人はこれで楽しいんです。ここはいいなここはダメだなもっとああならいいのにこうならそうなのに、と考えながら楽しんでいるんです。
 そして、どこに出しても恥ずかしくない、みんながおもしろいと思い楽しめ何度でも観たい再演してほしいと言われるような名作が常に制作されてほしい、と願っているのです。なので今日も懲りずに劇場に行くのです…

 咲ちゃんがなんでもできる立派なスターさんなのは知っているので、あとはさらに人気爆発するような当たり役に恵まれることを祈っています。
 かのちゃんは、あーちゃんの後任でヒガシマル醤油のモデルを務めることになったようですね。なので順当にいけばここが次代の雪組トップコンビなのかな? 私は声が好きだし芝居がいいと思うしダンスは絶品、歌も今回は危なげがなかったので、あとはよりいっそうの娘役力の習得と鍛錬を、と願っています。さらに、りさちゃんみちるひまりんも大事にしてねと念じています。
 次の本公演はお正月公演ですね。原作映画は未見ですが、楽しみにしています!


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