駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

原作/中てい 作画/壱崎煉『彼は彼女に変わるので』(小学館裏少年サンデーコミックス全4巻)

2019年08月20日 | 乱読記/書名か行
 顔や雰囲気が怖く、周囲から距離を置かれている男子高校生・鹿山伊織。彼は友人も恋人も作らず、毎日速やかに帰宅する。何故なら…昼は男、夜は女の体になるからだ。二重生活を送る高校生は誰に恋をする? 異色の両性トランアングル・ラブ。

 設定はおもしろい、しかし漫画としてはかなり下手だな、もったいないな…と思いつつ、紙のコミックスで読んできました。もともとアプリで連載配信されてきた作品で、紙では一応ここで完結させるものの、アプリでは引き続き完全ルート分岐の番外編がそのまま連載されているそうで、そちらは電子書籍にまとまるそうです。
 なかなか現代的ですよね。紙で売るにはペイしないのかもしれないけれど、アプリや電子書籍では採算が取れる、というケースはままあるのでしょう。ましてストーリーを変えるとなると、読者はさらに減るでしょうからね…
 ネタバレすると、紙のコミックスはオープンエンド、要するに今は誰も選ばず卒業時に決めることにしてしばらくはみんなで高校生活を楽しもう!というものでした。な、なまぬるい…!
 そもそもこのお話は主人公の伊織が中学時代からの友達(今はやや疎遠)の森と、高校で初めてクラスメイトになった綾瀬との間で揺れる、というものです。ちなみに三人とも性自認は男性で、森と綾瀬は性別も男性です。伊織は夜は女の体になるにもかかわらず、基本的には自分のことを男だと捉えていて、女への変化を嫌がっています。
 伊織の性別変化の体質(?)は家に伝わる呪いによるものだそうで、でも幼いころは昼も夜もあまり違いを感じないでこられたのが、成長するに従ってだんだんそういうわけにもいかなくなり、親友の森に秘密を持つことが心苦しくなってだんだん疎遠になり、でもやっぱり友達でいたいという感情もあり…という状態。森は学業優秀スポーツ万能、真面目でクールな優等生メガネくんタイプで、伊織になんらかの事情があるのなら、とあえて身を引いているようなところがあるタイプです。
 一方で綾瀬はクラス一のチャラ男で女生徒にモテモテ、彼女を取っ替え引っ替えしているタイプ。男友達も多くて、クラスで浮いている伊織にもちょっかいを出してきて…というパターンです。
 それとは別に、伊織には従姉妹で近所に住んでいて幼なじみの千鶴という女友達がいて、彼女は伊織の呪いを知っています。ピンチになると伊織は彼女に助けを求めます。ここには恋愛感情が描かれませんが、私は片手落ちな気がしました(この表現が今良くないとされていることは知っています、すみません)。
 もっとBLにするんだったら、女の体になりたくない、ちゃんとした普通の男でいたいという伊織のアイデンティティと、森とも綾瀬とも親しくなりたい、彼らからも愛されたい、しかし彼らが興味を持つのは女の体になったときの自分で…というジレンマだけで、話は作れたと思います。かつ森は男女の伊織を別人物だと思ってしまうけれど綾瀬は早くに秘密を知ってしまい…というのがなかなかのドラマだと思います。伊織の気持ちはどちらかというと森にあって綾瀬の接近はウザいだけなのに、秘密を知り理解を示してくれるのは綾瀬の方で…という。萌えますよね。
 ただ、どうせなら、あくまで幼なじみとしか思えなかった千鶴に異性を見てときめくことは本当にないのか、あるいはむしろ女の体になって意識や反応も多少女っぽくなったときの伊織が千鶴に惹かれることはないのか、という展開も見たかったかもしれません。BLもユリもやれる設定だったと思うのになー。そこがないと、単にBLをやりたいだけの設定なのね?って気が、私なんかはしちゃうのです。男性の伊織が男性の森に惹かれる過程は、もっと繊細に描くべきことだと思うんですよね。
 その上で、性自認ってなんだろうとか性指向ってなんだろうとか、そういうテーマをつっこんでみたり、かつそういう小難しいこととはまったく別に、ときめいたり恥じらったり嫉妬したりのジタバタ恋愛のドラマをじっくりせつなく描けたら、ひとつのエポックメイキングな作品になり得たんじゃないのかなー、とまで思いました。でもそれにはあまりに漫画として下手すぎて、それはコマ割りが下手だとかそういうこともあるけれど、多分いい編集者がついてなくて、打ち合わせというかセッションができていないのが大きいんじゃないのかな、と私には感じられました。残念です。
 あと、これは話私が古いと言われても仕方ないけれど、オープンエンドってやっぱり賛成できません。私はもちろん森派なんだけれど、それで綾瀬がフラれて完結してもそれはそれで読者の人気はむしろ綾瀬に出る、とかありえると思うのですよ。そういう方がメジャーというか作品として大きくなって、ぞれぞれのエンドの別展開がありますよ、って細分化は読者サービスにはなるのかもしれないけれど作品としてはやはり小さくなると思うんですよね…志が低いというか。覚悟を決めてオチをつけんかい!と私は思ってしまうのでした。
 作家の最初の想定と違う方に転ぶ、とかは全然かまわないと思うんですけれどね。たとえば『花より男子』とか、有名ですよね。綾瀬の方が意外にいい男になって、狭量でプライドが高くて脳内以外とマッチョな森ではダメだった、だってありえたと思うのです。
 イヤそれとも、生涯を誓う相手はひとりしか選べない、というのはやはり古い発想なのでしょうか…何人かいることはありえると思いますよ、てかひとりだけとかヤダよ、でも少なくとも一度にひとりではあってほしいんだけどな私は…
 うーむむむ…読んだ方がいらしたら、このあたり、語り合ってみたいです。




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« この世界終わる日まで輝く愛... | トップ | 宝塚歌劇雪組『壬生義士伝/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

乱読記/書名か行」カテゴリの最新記事