駒子の備忘録

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綿矢りさ『生のみ生のままで』(集英社文庫上下巻)

2023年01月09日 | 乱読記/書名か行
 25歳の夏、逢衣は恋人の颯と出かけたリゾートで、彼の幼馴染みとその彼女・彩夏に出会う。芸能活動をしているという彩夏は、美しい顔に不遜な態度で不躾な視線を寄越すばかり。けれど4人でいるうちに打ち解けて、東京へ帰ったあとも逢衣は彼女と親しく付き合うようになる。そんな中、颯との結婚話が出始めたところに、ある日突然彩夏に唇を奪われて…女性同士の情熱的な恋を描く、第26回島清恋愛文学賞受賞作。

 デビュー時に話題になった作家さんですが、おそらく初めて読むかと思います。さすがにもういい歳なはずなので、この小説の文体が一人称スタイルだからとはいえあまりにもラノベチックなのは、あえて、わざと、ヒロインがそういうキャラだから、ということなんでしょうね。そうだと思いたい、でないとあまりにも、なんか、こう…ねえ?
 それはともかく、帯には「男も女も関係ない。逢衣だから好き。」という作中の彩夏の台詞や、「女性同士の性愛関係を描きながら、他ならないその特別な愛を追求する小説」だのという解説の一節が惹句に使われていて、今どきいかがなものかという感じなのですが、読み終えた私の感想は「フツーの恋愛小説だったな」ということでした。
 主役カップルがどちらも、これまでは異性と付き合ってきた女性だということもあるのかもしれませんが、相手が異性だろうが同性だろうが、惹かれ、近づき、でもとまどい、一度は離れたり、また惹かれ合い引き寄せ合ったりして理解を深め親しくなっていく…というのは同じだし、どんなに好きな相手だろうと初めて他人の身体と触れ合うときにとまどいがあるのもあたりまえで性別関係なく同じだと思うし、たとえいわゆる結婚適齢期の男女のつきあいであろうと周りの他人が余計な口出ししてくることも同じだな、と感じたのです。その異性愛と同じ「フツーさ」の描写がいいなと思ったし、けれど同性同士の恋愛の「フツーさ」をそう描いた創作物ってまだまだ少ないんだと思うので、存在を確認できたことが嬉しかったです。「別にそう特別なことではない、数は少ないかもしれないが特殊だったり異常なことではまったくない」というコンセンサスがそれこそ普通に取れる世の中になっていってほしいな、と改めて思いました。私はこの小説のキャラクターの誰も好きじゃないしリアリティーもない気がしますが、それでも、そのフツーさを支持します。




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