駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇雪組『壬生義士伝/Music Revolusion』

2019年08月22日 | 観劇記/タイトルま行
 宝塚大劇場、2019年6月1日11時。
 東京宝塚劇場、8月8日18時半(新公)、20日18時半。

 幕末の動乱期。奥州盛岡、南部藩の足軽の子として生まれた下級武士、吉村貫一郎(望海風斗)は北辰一刀流の免許皆伝にして学問優秀、文武両道のもののふであった。美しい自然に囲まれた村で育ち、南部小町と謳われる娘・しづ(真彩希帆)を嫁にもらい、貧困にあえぎながらも藩に忠義をつくし、家族のために日々を懸命に生きる貫一郎。だが足軽の身では家族を守れないと悟った貫一郎は脱藩を決意する。目指した先は京、家柄や身分に関係なく腕に応じて俸給のある「新選組」だった…
 原作/浅田次郎、脚本・演出/石田昌也、作曲・編曲/手島恭子。

 原作小説は未読、映画も未見で観ました。それでも、大野次郞右衛門(彩風咲奈)との三角関係の在り方もいいなと思ったし、幼なじみで親友同士でも長じて立場が違っていってしまうことからくる相克のドラマもよかったし、史実だそうですが新選組の中でこうした生き方をした人を主人公にして物語に仕立てた原作者の手腕に感心しました。宝塚歌劇にするにも向いた題材だったと思います。
 ただ、鳥羽伏見の戦いから淀川、あたりでしょうか? 錦の御旗に対して急に吉村さんが抽象的でワケわからんことをわあわあ言い出して特攻感満載で負け戦につっこむ展開になるところで、おいてけぼりになりました。
 え? なんで? 吉村さんは愛する家族を食べさせるために、故郷に送金するために、せっかくの剣の腕を人斬りに使ってまで、同僚たちに軽蔑されようと嫌われようとかまわず、必死で稼いできたんでしょう? 家族を生きながらえさせ、自分も石にかじりついてでも生き延びて、いつかまた再会する、みたいなことを歌ってもいるじゃないですか。「♪俺を待つ故郷よ/俺は必ず帰る」「♪俺は死なない/お前のために俺は生きる」って、そういう意味でしょう? 彼のそういう生き様が、天子さまだとか幕府だとかのよくわからないものへ忠義立てしてるようで実はただ権力争いに明け暮れているような狂犬みたいな男たちから一線を画させているのであり、現代に生きる、主に女性の宝塚歌劇の観客にも理解でき共感でき好感が持てる男性像になりえたんじゃないですか。
 なのに何故彼はここでつっこんでいくの? 他の隊士たちみんなが一度撤退しようと言っているのに? 彼なら仲間を置いてでもこっそり戦場を逃げ出すとかだってしそうなものじゃないですか。傷ついている仲間に自分の飯を差し出すくらいはするとしても、仲間につきあって、というかむしろ先陣を切って、というかひとりで、負ける、死ぬとわかっている戦いに身を投じるとか、ありえません。彼は家族に送金するためにのみ生きていて、だからこそ死なないためにならなんだってする人じゃなかったのでしょうか?
 この豹変についていけなくて、以後咲ちゃんやきぃちゃんがどんなにいい芝居をしてくれても、泣けなかったのです…それが悔しいです。
 聞けば、原作小説にはもうちょっと説明らしきものがあるらしく、読めば補完できるし、今回の脚本・演出の改変だか省略だかが下手だよねってことで納得できるらしいんですけれど、ストーリーの起承転結の大事な転で話がねじれるから、その後のクライマックスの大阪・南部藩屋敷でのくだりにも全然泣けなかったんですよね。ここで何故今さら藩に泣きつくのかも私は全然わかりませんでした。どうせ死ぬしかないのなら親友のもとで死にたかった、とか、自分の死でなるべくたくさんのお金が家族の手に渡るようにしたかった、とかなのかもしれませんが、この類推で正しいのか私には自信がないのです。
 それくらい、吉村さんは途中でキャラ変しちゃっていて、人格崩壊というかキャラクターとして統一感が取れなくなっていて、物語をダメにしてしまっています。もちろんすべて劇作家の責任です。
 客席からはすすり泣きが聞こえてきたし、私だって泣ければ楽になれる、気持ちよくなれると思いましたよ。実際こういうふうにして死んでいく吉村さんが哀れでもかわいそうでもありましたし、無念だろうとも思いましたよ。でも、そこにたどり着く経緯に納得できないから、これで仕方なかったんだ、これしかなかったんだと思えないのです。無駄死にじゃん、言ってたことと違うことやってるじゃん、としか思えない。
 もはや組織のていをなしていない新選組なんかからとっとと脱走して、さっさと国に帰ればよかったじゃん、それか別の稼ぎ口を探すとか。なんとでもできたでしょう吉村さんなら、なんとでもしてきた人だったじゃないですか吉村さんは。それを覆すほどの力が錦の御旗にあったとしているつもりなら、それこそちゃんちゃらおかしいです。それはさすがに現代の日本人にわかるようには描けないことかもしれませんしね。なんにせよ劇作家の意図がさっぱりわかりません。だから萎えて、冷めて、泣けませんでした。
 そこ以外は、目をつぶれるのになあ…
 役者はみんな大好演大健闘しているのになあ。物語の額縁としての鹿鳴館部分とかも、生徒に役を与えるため、また暗転の間のつなぎとしてまあまあ役立っていましたし、長いとか芸がないとか台詞に品がないとかも黙殺していいと思える程度ではあった気がするのです。でも、とにかく肝心の起承転結の転がコレでは、ダメですよ。もう少しだけ丁寧に作っておけば、もっとずっと感動的ないい作品になりえただけに、もったいないです。ダーイシの罪は大きいと思いました。残念です。

 地味すぎる話になりそうなところを、ちゃんと吉村さんのキャラになって、でもちゃんとキラキラもできるだいもんはさすがでした。最初の銀橋ソロがことにいい。これだけでちゃんとキャラがわかるのがすごい。
 きぃちゃんは役不足だった気もするけれど、二役の演じ分けもさすがで、よかったです。この二役は舞台の醍醐味を感じて、とてもいいアイディアだと私は思っています。ここだけは演出家を褒めたい。
 咲ちゃんは途中出番があまりになくてハラハラしましたが、いい役だよね、いいお芝居でした。ひさ(梨花ますみ)や佐助(透真かずき)との場面もとてもよかったです。
 カチャを呼んでまで松本先生(凪七瑠海)をやらせた意味はなかったかな…にわにわがさすがで、ナギショーもホントいい仕事をするようになったよね(エラそうですみません)、ひらめはもったいなかったかな、あやなももうちょっと仕事させたかったかな、やたらおいしかったのはやはりあーさかな、そしてひとこイイね…!ってところでしたでしょうか。
 娘役ちゃんに役がないのはやはり残念ではありました。
 もっと回数を観ていたら、より不満が挙げ連ねられたでしょうが…

 新公も拝見しましたが、みんなすごくうまくて、そしてだからこそわりと地味だったかもな…とは感じました。
 でもあみちゃん、いいね上手いね! ただ『ファントム』ではナギショーよりあーさよりあみシャンドンがイイ!と思えただけに、今回はキラキラが弱めでちょっと残念に感じてしまったのです。
 ヒロイン経験が豊富なみちるがしっかり支えて、二役も上手い。すわっちの大野は渋すぎた気もしましたが、それまた上手い。てか次がラストだよね主演させてあげてね?
 はおりんのひさがよかったなー。壮海くんは歌がよかったですね。鍋島夫人のひまりんがあたりを払う艶やかさでした。あがちんの土方は…うーん…意外にフツーだったかな…? そしてゆめくんが殊勲賞ものでした。かりあん斎藤、健闘していましたかね。そして眞ノ宮くん総司もとてもよかったです。かのちゃんはあれじゃもったいなかったですね。どうしても娘役が不憫な演目でしたね。


 ダイナミック・ショーは作・演出/中村一徳。
 安定のBショーでしたが、目新しいアレンジや振り付けなどがあってちゃんと新鮮でしたし、路線スター以外でもバンバン銀橋を渡らせる太っ腹ぶりはやはり楽しいです。まあでも群舞はもうちょょっと少人数ずつにしてくれると、ひとりひとりの識別にまで手が回って楽しいんですけれどね…とにかく目が足りなくて、心の中でずっと嬉しい悲鳴をあげているような観劇でした。
 黒と銀かな?のお衣装でキャッチーな主題歌をガツガツ繰り出すプロローグはど定番すぎて私はそんなには来ませんでしたし、続くカチャがメインの付け足し場面みたいなのももう少しカップル数を減らしてくれると各組じっくり見られていいのに!と歯噛みしました。てか娘役さん同士でイチャイチャしていたとこもあったね? 天国かな?
 そのあとの「革命と独立」も私にはやや中途半端に感じられはしましたが、なんせエクウスひまりんが艶やかで素晴らしすぎて、スペイン兵がみんな顔が良くてヤバすぎました。ガウチョも最高。盆ガンガン回してセリごんごん上げ下げするのもいい。
 そうしたらおなじみブライアント先生の咲ちゃんセンターでジャズ場面! 本当にダンサーしかいなくて見ていて気持ちがいいし、踊っている方はもちろん大変なんだろうけれどそう見せない清々しさが素晴らしい! ここのあがちん、よかったなあ。あやな派の私がたびたび目を奪われてしまいました…
 そこからは「新世界」「革命」「ラ・カンパネラ」「威風堂々」とクラシックの名曲をアレンジして歌い継ぐ中詰め。ここがまたこれでもかこれでもかとスターをピックアップしてバンバン起用していて気持ちがいいです。とんちきカラーリングお衣装はショーの醍醐味です、無問題。
 さらに今度はひとこセンターで「カノン」、こちらもジャズ場面同様に団体賞ものの名場面だったのでは!? やはりバウ主演を経て一皮剥けましたよね、さらに花組へのステップアップ組替えは楽しみしかないですね!! そしてここのあがちんもよかった…でもあみちゃんもよかった…ダンサーって素晴らしい…もちろんあゆみ姐さん最高です…!
 その次は、あれ?誰が辞めるんだったっけ?となる、ややあるあるの、気持ち凡庸にすら思える場面ですが、まあたまにはそういうのもないとね…
 そして次がもうフィナーレなんだけれど、尺からすると普通はもう一場面作ってからフィナーレ、なんですが、最近の中村Bショーはわりとフィナーレを長めにやりますよね。もう一回スターの銀橋渡りをさせたりして、また中詰めかな?みたいな、まとめにかからない感じがおもしろいです。
 あやなの銀橋ソロ、ここまで大きくなって…!と感慨深かったです。まちくん、すわっち、はいちゃん、かりあん、あみちゃんと続く未来しかない流れもたまりません。そしてかのちゃんロケットガールのロケット! かーわーいーいーーーー!! ただし大劇場の方がよかったかなあ、東京では痩せて顔が尖って見えた気がしました。明るいオーラが特異な娘役さんです、大事にしてほしい。
 からの、きぃちゃんが歌ってカチャと絡んでの娘役群舞、ここも目が足りない! みんな鬘も髪飾りも素敵でもっとじっくり見たい! 人数半分に減らしてくれ!! でも上級生組も下級生組も見たいぞ!!!
 そして黒燕尾、やはりいいですよね。からの銀橋渡りリターンズ大盤振る舞い、たまりません。それからしたらデュエダンはやや凡庸に思えるかな第二弾、だったかも。カゲソロもそろそろ違う下級生でも聴きたいかも。でもエトワールがはおりんというのは大正解、こういうちゃんとした起用はあたりまえのようですがやはり大事です。ダブルトリオはあみちゃんばっか見てましたすみません。
 
 もしかしたら全ツ版の方が人数も減ってすっきり仕上がるのかもしれません。そちらも楽しみです!







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2 コメント

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Unknown (ひろりん)
2019-08-22 13:34:37
コメント失礼します。
なんで突っ込んでいくんや?これはここまで吉村がひとを斬ってお金を得てきた以上、ここは責任として「義」を貫かざるを得ない。貫いた先、死地の先にしか生は許されない。と考えたから…。とのことですが、原作を読んだときも、それでもなお「生き残るべく振る舞うべきでは?」と考えたものです。
雪組トップとして、和物芝居も見事にクリアしでしまっただいきほコンビ。先が見えた感じがして、少しも切なくなりました。
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コメントありがとうございました (ひろりんさんへ)
2019-08-24 22:24:32
観劇していて、「ところでこの作品の中で言われている『義』って要するに何?」とか考えていたのですが、
原作小説でもそんなあいまいな説明(?)だったのですね…
わかりづらい…というか納得しがたい…

だいきほコンビは円熟期に入りつつあると思えるだけに、いい作品に当たってほしいなと
願わないではいられません…!

●駒子●
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