駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇月組『愛するには短すぎる/Heat on Beat』

2012年11月11日 | 観劇記/タイトルあ行
 宇都宮市文化会館、2012年11月7日マチネ。全国ツアー公演。

 辛口…というより、とても個人的に見方になりましたが、ここはあくまで自分のための備忘録であることを第一義としているので、書いておきます。
 初演は生では観劇していません。再演は名古屋まで観に行きました。そのときの感想はこちら。その後、スカステで初演の映像を観ました。
 私は作品としてはとても好きです。好みです。でも今回も、脚本が書こうとしているユーモアとペーソスあふれるちょっとせつなくてでもハートウォーミングなウェルメイド舞台、というのを現出できていなかったように感じました。
 というかこれは永遠の課題かなあ。日本人にそんな洒脱なこと、もう百年とか経っても無理なんじゃないの?としか思えないし。
 私は東京人なので関西人に比べて笑いに対しのりが悪いというかクールなので、滑る笑いに対して心がどんどん冷えていくのが止められません。船長(星条海斗)が生み出すべきくすくす笑いがきちんと出ていたとも思えなかったし、秘書(だっけ?)との不倫を妻に悟られまいとするスノードン卿(越乃リュウ)のあたふたのおかしさとかも、真面目な日本人のそして女性の一般的メンタリティ的にいかにも難しいんですよね…
 マクニール(光月るう)なんかもっと色ボケおやじに見えないと、ドリー(愛風ゆめ)の色仕掛けのおかしさとかその陰で耐えている彼女の恋人デイブ(煌月爽矢)の悲しさとかが効いてこないと思うのだけれど、いい人に見えちゃってたしねえ…
 そうなると、こういう悲喜こもごもの巻き込まれるお人よしのお坊ちゃんフレッド(龍真咲)、という構図もなかなか立ってこないんですよねえ、むむむ…

 そしてそういう脇筋の話が同時進行で進む一方で、もちろんこれはフレッドとバーバラ(愛希れいか)、そしてアンソニー(美弥るりか)の物語であるわけですが…
 それでいうとまずフランク(紫門ゆりや)がなんかあまり悪い男に見えなかったなー。ゆりやんは黒い役も上手い人だと思っていたので、期待していたんだけれどなー。私はこのお話が好きなのでフランクというキャラクターのことも当然好きで、ただの悪役だなんて思っていないし、バーバラのことがちゃんと好きでなんらかの既成事実もあったんだろうし、でも今離れていこうとしている彼女に対してこういう出方しかできない男…という悲哀や苦しさがある役だと思うんですよね。そして借金を回収するというのは正当なことでもある。彼は別に間違ったことをしているわけでもないし極悪非道な男でもないのです。
 でも…なんか…単に冴えなかった? 印象が薄い感じだったんだよなあ…これはやはり映像で見ただけだけどチエのフランクが一番ちゃんとしていたんじゃないかなあ…
 で、本当はフランクがちゃんと立たないと、そこから続くバーバラとフレッドの話も立ってこなくなっちゃうんだけれどね…

 私は毎度バーバラの登場シーンに驚きます。主役格のキャラクターは宝塚歌劇ではたいてい音楽とともにピンスポットもらって登場して、下手したら一曲歌ってから芝居に入ったりするじゃないですか。
 でも彼女の登場シーンは、船のウェルカム・ショーのダンサーとして、仲間のダンサーと一緒になって同じお衣装で踊りながら登場するわけです。
 もちろんセンターだけれど、取り立ててピンスポットは当たりません。だから私は、「ああ、これは船上でのショーってことなのね…」とか思いながらダンサーたちの群舞をボーっと眺めていて、それにしちゃえらく可愛い子がいるなと思って、あっ、ちゃぴか、じゃあこれがバーバラか、ヒロインか!とはっとなる、という、ね…
 イヤでもこんなボーっと観てる私みたいな人間にもわからせるヒロイン力があるということで、それは素晴らしいことです。
 そして今回のちゃぴはとても良かった。ジュリエットもよかったけれど今回も良かった。正塚ナチュラル芝居にびたっとハマっていた。普通に働いて生きる等身大の女の子がそこに息づいていました。
 本当は、親の看病はいいけどそんな田舎に引っ込んだって仕事なんかないだろうし、都会でバリバリ踊って稼いで送金した方がいいんじゃないかとか、最後は仕事なんかせず付き添って見取りたいというくらい切迫しているということなら逆に言えばすぐ手が空くわけですぐフレッドのところにいけるってことなんじゃないの、とかいろいろつっこみがあるのですが、それは脚本というか作劇の穴なのでキャラクターやまして演じ手の問題ではない。ちゃぴのバーバラはとても素敵でした。

 だからこそ、ね…?
 まず、私にはまさおの台詞回しが大芝居で大袈裟に聞こえるのがとても気になりました。
 ロミオのときは良かったんだよね、キラキラした少年役を作っている、という感じがマッチしていました。『ベルばら』でも問題ないと思う。でも正塚リアル芝居の口調じゃないのです。
 だからなんか、養父母に感謝していてその望みを汲んで結婚しようとしている、ものわかりがよく人あたりのいい振りをしている青年が、イヤ振りをしていると言うと言い過ぎで本当に生来真面目で優しくて周りの期待に応えようとするタイプの人間なんだけれど、でも本当はもうちょっとくらいやんちゃだっりわがままだったりする部分もあるんだけれどそういう部分は封印して生きて来ていて、そんな青年が幼なじみの女の子に再会して、楽しくて、好きで、ああこれが欲しいと思っちゃって…という、素の、真実の欲望の発露…という流れに見えなかったんですよね。だっていつもなんか作ってるんだもん。そう聞こえる台詞回しなんだもん。
 
 さらにアンソニーが私には全然アンソニーに見えなかった…
 アンソニーって、フレッドの悪友というか、フレッドが真面目な好青年ででも一本気で融通が利かない人間であるのと好対照で、もうちょっと世間知があって必要悪とかも知っていて世慣れていてフレッドより上目に立っていて、後先考えずに行動できる無謀さとそれをあとでなんとかできるチャラさがある人間、なのだと思うのですよ。でもそういうふうに見えなかった。
 彼がそういう人間だから、真面目一方で硬直しがちなフレッドと、いい子で常識がちゃんとあってだから遠慮というものも知っているバーバラとの間を引っ掻き回せるし、その仲を進められる。
 そして最初はただのおせっかいとか単なるおもしろがりだったのが、意外や意外、彼もまたバーバラにぐらりときちゃって、ガラでもないのに「しょうがないから、俺も待つよ」なんて言うようになる…のに観客はニヤリとさせられる、という構造であるべきなのに、そんなふうに芝居が立ち上がってきていない…という気が、観ていて私はずっとしました。
 これはそもそも初演当て書き脚本だったはずなのだけれど、サヨナラ仕様の部分はともかくキャラクターのニンはワタルもトウコもとなみですら合ってなかったんじゃないの?と私には思えるのですが、それは私が彼女たちのさしたるファンではなかったからなのかしらん?
 それからしたら私はチエちゃんのフレッドはとても好きだったけれど、そもそもニンだけで言ったらまさおが一番ハマるかなと思っていたんだけれどなあ…
 そしてみやちゃんはもう少し芝居ができるイメージだったんだけれど名あ、私の中では…ううーん、なんなんだこの違和感は…私がこの作品を好きなことが悪い方に出ているのでしょうか、こうまで目の前の舞台に「違うだろう」と言いながら観ることになるとは…

 というような観劇でした。しょぼん。


 ショーは…アサコのときからそんなに傑作ショーだと思っていませんでしたが…まあ安定のミキティショーですね、という感じ。
 私は初演時からスーパーロッカーの場面がこっぱずかしいし長く感じられて苦手だったのですが、みやちゃんに変わっても同じだったね…
 みやちゃんといえばフラガンシアのダルマは脚が細すぎたね…やはり出すからにはある程度のボリュームが欲しいよなあ。
 でもプロローグでゆりやんと並んで踊ったときのキラキラヤング感はハンパなかった。さすがに越リュウの色気もかすんだもん。映りのいいふたりだなあと思いました。
 そんな越リュウも椅子の場面のマスターはさすがでした。ここのイリュジオンのちゃぴはお衣装が替わって綺麗な紫のドレス、素敵でした! ちゃぴはベル・ラティーノのお衣装もよく似合っていました。
 まさおはやはり歌がいいかなー。そして黒燕尾はさすがカッコよかったです。


 東武の特急に乗ってお弁当など食べながらぽかぽか陽気の中遠征するのは遠足気分で、楽しかったです。大きな立派なホールでしたしね。その分音響が弱いかな、とも思いましたが…
 もちもちした餃子定食も食べてきました、満足。

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