駒子の備忘録

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『フリュー景色』初日雑感

2023年08月18日 | 日記
 宝塚歌劇月組『フリューゲル/万華鏡百景色』大劇場公演初日を日帰りで観てきました。以下、完全ネタバレの、ごく個人的な、簡単な感想です。自分の備忘録代わりに…

『フリューゲル』は…どこから着想したんですかねえ、ヨシマサ先生。プログラムには漫画家の池田邦彦氏が寄稿していて、彼の『国境のエミーリャ』(小学館ゲッサン少年サンデーコミックス)にインスパイアされ云々みたいな話も出ていますが…ほんまかいな?
 冷戦下、東西に分断されたベルリンで、東ドイツの軍人であるれいこちゃんが、西ドイツ出身で世界的ポップスターであるくらげちゃんのコンサートのお世話をすることになり…みたいな設定なのですが、なんかあんまヨシマサが興味持ちそうな題材じゃないじゃん(^^;)。しかもベタに展開するんですよ、これが。いかにもありそうなストーリーで、逆に言うと新鮮みとか萌えとかこだわりが全然感じられなかったので、なおさら「なんでコレをやろうと思ったのヨシマサ…?」と聞きたいと思った、というのが本当のところです。
 ちなっちゃんも東ドイツの軍人で、こちらはちょっと強面で。おださんはくらげちゃんナディアのマネージャー。ぱるはれいこちゃんの部下だけどやや軟派なところもあり…みたいな。
 れいこちゃんとくらげちゃんが、最初は反りが合わないもののだんだんいい感じになっていくのね、みたいなのもまあそのとおりに進むし、おださんが実はNATOの敏腕(…かどうかは描写がなかったかも。これだけでは判断できないかも)スパイでコンサートと東西関係が上手くいくよう手を回していて…というのもまあ特にひねりを感じないし、一方でちなっちゃんは東西雪解けムードに対応できないガチの思想家で、東西の分断を続けさせるためにはテロも辞さない過激派で…みたいなのも、なんかまあ、はあそうですか、という感じじゃないですか。
 れいこちゃんヨナスは母親がナチスの協力者だったことに反発してきたんだけれど、実は彼女はユダヤ人を逃がしてあげていたのであり…みたいなのの、再会、和解、みたいな展開も、はあ、まあ、そうですか、という感じで…要するに、誰でも考えつきそうな話で、なんか「どうしてもこれを描きたかったんだ!」感が感じられないかったのが、何より私は嫌でした。だからまあまあ退屈しました。
 あと、単純に作劇が下手なんだよね…登場人物の生い立ちと性格と今の役職や立場、そして生き様やものの考え方なんかを描写するのに、全然工夫がなくて、正面からただ説明していく、みたいな展開で…しかもれいこちゃんが演じていることを別にしたら、ヨナスってあまり魅力的なキャラじゃない気がしたんですけど、それじゃダメじゃない? 仮にも物語の主人公なんだからさ。
 そしてヒロインも、よくわからないキャラでした…私がポップスとかアイドルスターとかはたまたビッグアーティスト界隈のことを全然知らないせいもあるかもしれませんが、ナディアって本当に世界的なスターなんですか? こんなナリで、こんな歌で? たとえば誰イメージなの? それと、大スターでもわがままじゃない人ってフツーにいると思うんですけど、なんでナディアはこんななの? わがままというか、偉そうというか、人を人とも思っていないというか…単に人として嫌な人間になっちゃってません?
 そして、東側は無味乾燥な軍服を着た軍人か、色味のない服を着た市民ばかりで…というのの対比として、自由と民主・資本主義社会を謳歌している西側の市民はカラフルなものを着ていて…ということなのかもしれないけれど、ナディアの服を始め、カラフルとか自由とか多彩とか素敵とかいうより、単なるトンチキじゃないですか…? 宝塚歌劇ではもっと派手なお衣装なんかいくらでも目にするから、特に派手とも感じなくて、なんか中途半端なんですよ。むしろ東側の軍服の方がスタイリッシュでお洒落に見えるし(ちなつの脚の長さの映えることよ…!)、これじゃ誰も西側に憧れないと思うんですよね。でもそれじゃダメなんじゃないの? てかヨシマサの西側文化を見る目はちょっとおかしいんじゃなかろうか…?
 ベルリンの壁が崩壊して…いつマリコとタキさんが出てきて抱き合うのかしらん、とかちょっと思っちゃいましたよね。『国境のない地図』も別に名作でも全然ないけど、なんかもっとおもしろみがあった気がしますよねアヤカの二役とかさあ…
 どうしても、「翼」云々と何度も何度も語るほどには、それを求める東側の今の窮屈さとか逼迫感、みたいなものがそもそも描けていないと思うんですよね。まあだいぶ西寄りになってきたころの東側の話、とはいえ…ヨシマサも観客の大半も戦後生まれで、自由社会で生きて育ってきているんだろうし、正直ちょっとうまく想像がつかないのではないでしょうか。というか、想像したくないんだけれど今の日本こそが自民党の独裁政治に傾きつつあり、貧しく窮屈になりつつあるワケでさ…だからこんな、所詮過去の決着した他国のことを心配している場合なのかね、のんきだね、もっと他に描くべきことあるんじゃないの?とかも私は思っちゃいました。
 そういう意味ではやはり政治ドラマは宝塚歌劇には向かないのではあるまいか…イヤ何事も政治に直結していない題材なんてないんだけれど、ことに思想的なことは、よほど上手くやらないとやはり相性が悪いというか…な気がしました。
 なのでヘルムートが絶望して最後に拳銃自殺していますが、私はあれは要らないのではないかと思いましした。単にがっくり膝ついて打ちひしがれているところに幕が下りるだけだっていいじゃないですか。人気スターがやっている役にわざわざ自殺させるとか、気分悪いですよ。彼の思想は生き様に直結したものだったので、この先の世界に彼の生きる場所はなかったので…というほど、このキャラのことが描けているわけじゃないし、わざわざ死なせてここだけシリアスにドラマチックにしようとしても、無理があると思いますよ…?
 ヨナスとヘルムートにBとかLとかの愛憎とか執着とかこじれた感情のドラマもなかったようだし、ヨナスとナディアもラブ以前の、せいぜい友情が成立して終わり、なので、正直言ってなんかあまり感情的に萌えず盛り上がらず、あまりおもしろくありませんでした…ヨナスが最もこだわっていたのってむしろあまし氏のサーシャの存在だったと思うんだけど、そもそものアフガンのくだりとかもわかりづらかったし。あとあみちゃんゲッツェは、当局に何か弱みを握られていたということなの? それともだんだん思想が染まっていっちゃって…みたいなこと? よくわかりませんでした。るねっこ神父も、れんこん弁護士も…れんこんなんか冒頭のKGB役がカッコ良かったから、そっちが本役なのかと私はしばらく思いこんでいて、後半混乱しましたよ…? てかココかのん、あみちゃん以下イケメン揃いで震えましたよね…!
 けっこう下級生にまでちょいちょい台詞が振られていて、退団者にも手厚いし、そういうのはヨシマサの愛だとは思います。今後、月組が誇る芝居力で緩急がついて深まっていきまとまっていくんでしょうし、なのでこちらも再度おちついて観たら、ハートフルで笑えるところも多い良き一作…に感じられるのかもしれないけれど、しかしそれはあまりに生徒の力に頼りすぎなのでは…と私は思いました。ホンだけでちゃんとおもしろいものを書いてほしいです。
 せっかくのオリジナルなのに、なんだかなあ…大きな歴史のうねりの中の転換点に咲いた、小さなホームコメディ…みたいなものをウェルメイドに仕立てる筆力はアンタにはないよヨシマサ、というのが、現時点での私の正直な感想です。
 おもしろかった! 感動した! 大傑作! と感涙している向きには申し訳ありません…私が意地悪に見すぎている自覚はあります。おもしろいわけなかろう、と思って席につきましたもんね…でももっとちゃんとおもしろいものが観たいんだよ私は!!!(><)

 ショルダータイトルが「東京詞華集」と書いて「トウキョウアンソロジー」というルビの『万華鏡百景色』は、『夢千鳥』『カルト・ワイン』がそれぞれスマッシュ・ヒットだった栗田優香先生の大劇場デビュー作。ショーも最近はAとBとダイスケとヨシマサとイシダオカダとかしかいないのかよ!状態なので、お若い先生にはまずショーから大劇場デビューさせよう、芝居と両方やらせていこう…というのはホントいいと思います。てか景子先生ショーやろうよ絶対素敵だよ…!
 それはともかく、れいこちゃんの花火師とくらげちゃん花魁が、東京を舞台に輪廻転生を繰り返していくようなストーリー・ショーだと聞いていて、楽しみにしていました。てかもうプログラムのビジュアルが優勝です。
 とっぱしはなんと俺たちのまのんから! 赤いカーディガン、ツインテール、かーわー!! まのん少女がみとさん骨董屋から万華鏡を受け取って、ちなつはその付喪神役で、るねっこれんこんうーちゃんおだぱるあみと、みちるあましりりみかこおはねのりんちゃんという美男美女の付喪神たちが美形の凄みを見せてずらり銀橋に並び、そしてデーハーなネオ・ジャパネスク着物姿のれいこが登場して、もう勝ったも同然でした。
 ここがいわゆるプロローグなんだろうけれど、さまざまな装束の「江戸の男女」が上手下手からわーっと移動したの、めっさカッコよかったです。そして花魁のくらげちゃん登場、手を引くのはおださん、よかったなあぁ…! れいこくらげは手に手を取って逃げるも引き離され、時の輪を巡り始めるのでした…
「点灯夫の歌」のおださん、マジでジェンヌ人生何週目なんだろうね…ちなみに芝居のソロで手拍子をあおったのは、そのあと続かなかったのでナシにした方がいいのではと思いました。「美しく青きドナウ」で鹿鳴館、よく見るドレスが出てきましたが、セットも華やかでベタに素敵でよかったです。でもここのれいこちゃんとくらげちゃんの邂逅は一夜の夢で、老年のくらげちゃんをさちかが演じ、時代は大正へ…ぱるあみ、みちるりりのモボモガ。カフェーにはみかこおはねのりんちゃんの女学生、泉里雪凛というお姉様方の女給。そして「芥川龍之介」のちなつ…! この色気はヤバい!
 そして「地獄変」へ。るねっこ筆頭の男役の女装ダンサーズの名前は「業」、ひいぃ…ここのあまし氏、綺麗だったなー。れんこん、蘭くんにも見せ場あり。
 そして昭和、戦後の闇市へ。れいこくらげは「ドン」と「娼婦」へ。ふたりの在りし日のイメージを白いお衣装のかのんとみうみんが踊ります。美しい…!
 そして平成へ…EPOの「DOWN TOWN」、ちょっとツボりました(笑)。あとは知らない曲でしたが、すべて既成曲でヒットしたものなんでしょうね。聞けばアラサーにはたまらないラインナップだとか。ここから中詰め、客席降りも。そして娘役ロケットへ。羽根なしのロケットは銀橋で、凜々しくてヨイ!
 さて、令和になって、ぱるあみるおりあ以下8人組の「Z-BOYS」でネオ・シティ・ポップなるものを歌い踊るのですが、ココがホントこそばゆい…こういうのホント似合わないんだよねタカラヅカ…現代とかポピュラーといったものとの相性の悪さ、ホントぱないと思います。
 再び現れたまのん少女のもとに、おださんカラスが現れる。渋谷のスクランブル交差点、モノトーンのお衣装で忙しく行き来する男女、大階段をざかざか降りてくるスタイリッシュなカラスたち…ここ、『BADDY』のデュエダンの雰囲気ありましたよね、今にもトシちゃんのあのカゲソロが聞こえてきそうでした…!
 れいこちゃんカラスと、くらげちゃん女の一瞬の邂逅。残される少女と万華鏡…
 あとは再会のデュエダンとパレード。ぱるのひとり降り、おださんとちなっちゃんの間に歌なしですがれんこんのセンターひとり降り、万雷の拍手でした。ラインナップではまのんがちなっちゃんの真後ろになってしまい、羽根でなんにも見えませんでしたよしょぼん…しかしここのお衣装はこの場面がお初で全員新調で、白黒に赤を効かせたシックでエレガントなもので、最後までホントーにカッコよかったです! 着物のような、ベルトも帯のような…といった意匠も素敵でした。
 目先は違うもののオーソドックスなような、イヤ斬新なような、まさしくめくるめく万華鏡のような…で、やはりおニュー感があって楽しかったです。愛されるショーになるんじゃないかなあ、どうかなあ。
 私は次の観劇はもう新公なので、ショーはもう東京公演までお預けです。みなさんの感想ツイートを読んでつないでいきます…


 まずは月組さんの初日の幕が無事上がり、無事に幕が下りて、よかったです。そうそう、セリのトラブルがあったのか、黒衣のスタッフさんが生徒が奈落に落ちないようがっつりガードしているのが見える一幕もありましたね。初日あるあるですが、ここからどうぞご安全に、無事の完走を祈っています。
 そして星組さんは代役で明日から再開です。みんな大変でしょうよ、観る方も気が気でないでしょうよ…! もちろんお休みするこっちゃんが一番つらいでしょう、でも今は休んで、お大事にして。スターが元気で幸せでいてくれないとファンも悲しいのです…
 私も最後のお取次、無事に通るといいなあ…祈って、待ちます。



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