駒子の備忘録

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藤本ひとみ『維新銃姫伝』(中央公論新社)

2013年01月04日 | 乱読記/書名あ行
 幕末動乱の中、幕府と朝廷の間で翻弄される会津藩にあって、砲術を学び銃を手にして、敢然と鶴ケ城の戦いに挑んだ若き女性・八重がいた…戊辰戦争に新しい光を当てた書き下ろし歴史小説。

 びっくりするくらいつまらなかった…八重ものは鬼門なのか? 久々に読みましたがどうしたんだ藤本ひとみ!?
 何しろこの時代はいろいろな事件があって山あり谷ありでドラマチックなんだけれど、だからってそういう事件をただ羅列しても歴史の教科書じゃないんだからおもしろいわけないでしょう?
 読者が読みたいのはキャラクターのドラマなんですよ。どんな人間が何をどう考えどう行動したか、それによって何がどう起きてどう感じたか、そういうことを読みたいわけですよ。共感したり心配したり同情したり応援したりしながら、ね。
 ヒロインの八重がどんなに型破りで行動的な女性だったのだとしても、この時代に、この情勢下で、政治的に直接的に動けたわけではない。そんなことはわかっています。でもそこを小説的にうまく嘘をつくなり、少なくとも彼女の情熱や行動が周りの男たちを動かしたのだ、としないと、おもしろくもなんともないじゃないですか。歴史小説を書く醍醐味のひとつって、そういう嘘なんじゃないの?
 まあそのあたりは考え方の違いもあるかもしれないけれど、八重の描き方に問題があるのは誰の目にも明らかだと思います。
 というか、全然描かれていない。どんな性格でどんな育ち方をしてどんな扱いを受けてどんな人間なのか、全然描かれていない。
 生まれたところから書けということではないですよ、落城直前から話を始めようが、主人公の人となりを表現することはいくらだってできるはずですよ。
 なのにしていない。なんなの? 八重のことが嫌いなの? 嫌いなら嫌いで問題のある人間だと描写することも可能だと思うけれど、それもしていないんだよね。ホントに意味不明なんだけど。キャラクターのことが好きでないのになんでこんな長いものを書き下ろせるんだろう? 何がしたかったの?
 女らしい振る舞いがうまい義姉にくらべて自分はそういうことが下手だと自覚しているくだりはあります。そこから、そんな自分をどう思っているのか書けばいいじゃない。情けないと思っているのか、それでいいと思っているのか、変わりたいと思っているのか。どう考えているかによってその後取る行動が変わるはずでしょう? それがその人のその後の暮らしを、人生を築いていくわけで、一貫性も出るし読者も主人公の人生をともに追っていこうと思えて読んでいくんじゃないですか。
 でもこの本はそういうことができるようになっていない。だからつまらないんです。

 かわいそうだなあ、八重。なんとでも書きようがある、いいキャラクターなはずなのになあ。NHK大河ドラマは役者自身の魅力も利用してもっとうまく作るだろうと期待していますが…
 歴史的な事実はだいたい予習できたから、もう関連本を読むのはいいかな…コミカライズ版だけでも読むか…
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