駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

海野つなみ『スプートニク』(祥伝社フィールヤングコミックス)

2022年07月09日 | 乱読記/書名さ行
 より働きやすい職場を求め、上司に辞表を出した浅利千尋。すると上司の羽鳥汐路も「私も辞めるわ」と言い出し、揃って退職することに。半年後、浅利は汐路の結婚パーティーで汐路の弟・渡に出会う。酔いつぶれた姿を見せてしまい、浅利のほのかな恋は始まる前に終わるが、三人はカフェ&バー「スプートニク」で集まってはだらだらしゃべる関係になった。そして十年後…

 三人組のお話、ってのはけっこうあると思います。同性同士じゃなくてひとり異性が加わっていて、でも同性愛者だったり血縁だったりで三人の中では恋愛が生まれない関係、みたいに設定されることも多い気がします。
 そういう意味では決して珍しくない設定のお話なのかもしれませんが、この作品が特異なのは、連載が間遠だったせいもあるのか作中で大きな時間が、かつリアルに流れている点です。具体的に言うとウィズコロナ・ライフが描かれていて、そんな状況でも人は粛々と生きていくし未来の展望も描いて進んでいくのだ、というようなことをごく淡々と描く筆致が、とてもいいなと思いました。私は実は『逃げ恥』を読んでいなくて、テレビドラマ化されたものを見たことがあるだけなのですが、おそらく原作漫画はドラマよりもっとクールでドライでシビアでリアルめだったのではないかしらん。でなきゃ最新作もこういうリアルさは持たないでしょう、そもそもこういう視点を持った著者なんだと思うのです。
 冒頭の退社理由も、好きなことや以前から興味があったことを再発見していく様子も、それを実際に起業に結びつけようとするときの動向も、そのときに関わってくる資格や法律といったことも、きちんと、丁寧に描かれていて、決して物語都合のためのイージーなものではないところが、本当にぐっときました。キャラクターのリアリティとか、共感できるとかって、こういうことだと思います。彼女たちはものすごく「今」を生きています。
 彼女たち三人が断続的にしか会わなくても関係が途切れないのは、やはり気の合う「旅の仲間」だからで、初っ端のときめきが実る前に潰れるのも、なんとなく寂しくて弱っていたときになんとなく甘えられてもだからって安易にワンナイトなんちゃらとかになだれ込まなかったりするのも、「こんな形の『結婚』」をするのも、そんな仲間だからなのでしょう。旅の終わりはわからなくても、別れるときまでは仲間。そんなドライなようだけどあたりまえで、でも大切な真実を噛みしめつつ、大事にし続けられる関係は貴重です。それがそのまま人生に結実していく…そんな素敵な作品だと思いました。
 次回作は「仲良くなくても一緒にい」られる女性ふたりの物語の模様。楽しみです!



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« こまつ座『紙屋町さくらホテル』 | トップ | 『ザ・ウェルキン』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

乱読記/書名さ行」カテゴリの最新記事