駒子の備忘録

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須賀しのぶ『永遠の曠野』(角川文庫)

2013年10月13日 | 乱読記/書名あ行
 第一次世界大戦の余波が続く激動の時代。舞姫の地位を捨てて馬賊になったフミは一味の頭領である楊建明のモンゴル独立にかける思いを知り、どこまでもついていく覚悟をするが…
 『芙蓉千里』四部作の完結作。

 政治向きの話は若干斜め読みしつつも(^^;)楽しく読みました。
 あとがきに、自分が子供の頃に読んで好きだった大河少女漫画みたいな話を書きたくて書いた、みたいなことをかいていましたが、なるほどな、と思いました。そして確かにこれでは少女小説レーベルには収まるまい、とも思いました。
 私は生涯の愛読書のうちのひとつであるK・M・ペイトンの『フランバーズ屋敷の人々』を思い起こしました。これまた岩波少年文庫なんぞに入っていますが決して児童小説の枠に収まるものでもなく、むしろハーレクインと言っていいくらいの大河少女小説なのです。
 そして私がこの作品で評価している点は多々あるのですが、特に声を大にして言いたいのが、ヒロイン・クリスチナの相手役が替わっていくこと。まずは引き取られた先のお屋敷の次男坊のウィル、その次に使用人のディック、そして最後にウィルの兄のマーク。まあ実際にはこれが最後かどうかはわからないし、マークを選んだともつかないところで物語は終わるのですが。
 「スパンの長い大河系の話で、どんどん新しい世界に入っていくヒロインがなぜ初恋を貫いたり、幼なじみとくっつくパターンが多いのだろう」「環境が激変すれば新しい出会いもたくさんあって、主人公の物の見方もまるで変わるのに、なぜ恋の相手だけは昔のままなのか」という作者の疑問は確かに正しい。そりゃ運命の相手と早くに出会ってそれがまとまったら楽です。これはロマンティックだとかなんだとか言うより、この「楽である」という部分が実はけっこう大きいと思う。女は現実主義で無駄なことが嫌いで、字はけっこう怠惰で1/1ですめばそれが一番いいと考える生き物なのだと思います。
 でも現実はそうそう甘くない。毎回次々がんばるしかない。それをやってのけるヒロインをきちんと描くことこそ正解だと思うのです。『フランバーズ』もそうした作品でした。
 作者が例としてあげていたのは『ベルサイユのばら』と『はいからさんが通る』でしたが、同時代の傑作『キャンディ・キャンディ』の方がむしろふさわしいかもしれません。確かに最終的には初恋の相手である「丘の上の王子さま」アルバートさんと結ばれて終わるので、いわゆる初恋ものなのかもしれませんが、そこに至るまでのアンソニーとの恋、テリーとの恋はどちらもそれぞれ本物でした。ヒロインは何度でも真剣に恋できるのです。そしてそれは別にビッチなことではない。
 一巻目を読んだときに私は黒谷さん派なんだけど、と書きましたが、この作品でヒロインの相手は黒谷、建明、炎林と変わっていきました。それぞれのつきあい方の違いもいい。意外に炎林がツボだったこともあって、本当に楽しく読めました。
 そして物語としてはこのあたりでまとめどきだったと思います。全生涯を書ききることなんかできないし、それでヒロインの人生を読者が追体験できるかというとそうではないからです。読者は読者の人生を生きているのだから、ヒロインの人生のごく一部を物語の形として切り取って読ませてくれれば十分なのです。
 ああ『フランバーズ』再読したくなっちゃった。まずは『キャンディ~』かな。
 いい作家、いい小説に出会えました。
 
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