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駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『花より男子』

2019年06月23日 | 観劇記/タイトルは行
 TBS赤坂ACTシアター、2019年6月19日18時半。

 超絶金持ち名門校・英徳学園はF4と呼ばれる4人の美男子生徒に支配されていた。F4とはすなわち「花の4人組」、眉目秀麗なお坊ちゃま集団である。世界的な大財閥の御曹司で俺様キャラの道明寺司(柚香光)、花沢物産の跡取り息子でクールでミステリアスな花沢類(聖乃あすか)、美作商事の後継者でマダムキラーの美作あきら(優波慧)、日本一の茶道家元の息子でプレイボーイの西門総二郎(希波らいと)。彼らは気に入らない生徒がいればロッカーに赤札と呼ばれる指令カードを貼り、学校中の攻撃の的にしていた。一般庶民でありながら両親の希望で英徳学園に通っていた牧野つくし(城妃美伶)は卒業まで目立たずにいようと努めていたが、友人をかばったためにF4に目をつけられ、赤札の対象となる…
 原作/神尾葉子、脚本・演出/野口幸作、作曲・編曲/青木朝子、長谷川雄大、作曲・編曲・音楽指揮・演奏/宮﨑誠。1992年から集英社「マーガレット」にて連載が開始された累計発行部数6100万部を誇る大ヒット少女漫画をミュージカル化。全2幕。

 外部版の感想はこちら
 原作漫画の連載当時、メイン読者層だった女子中学生たちはいわゆる一億総中流家庭というか、自分の家はどちらかというとまあまあ裕福でこれからも明るい未来がある…と信じていた世代だったのではないでしょうか。私は連載開始の年に社会人になった世代の人間ですが、その時代の空気感がわかるつもりです。なのでリアル読者の彼女たちにとって、大金持ちのお坊ちゃまの道明寺たちと今どきこんなに貧乏なおうちはさすがにないよと思えるつくし、というのはファンタジーとして立派に成立していて、そしてこの漫画はその設定からスタートしてやっていることは王道、というとても良くできた作品だったので、これだけのメガヒットとなったのだと思います。というか部数だけならおそらくこれが少女漫画最高峰ですよね。『ベルサイユのばら』とか『ポーの一族』とか、もっと古典的でかつ世に高く評価されている作品は他にもたくさんあるかと思いますが、巻数が短いこともあって、超長期連載だった『花男』のコミックス累計発行部数には全然及んでいないはずです。
「花とゆめ」はまたちょっと別にして、「マーガレット」と「Sho-Comi(かつての「少女コミック」)」、つまり女子中学生を読者対象とした月二回刊誌に掲載される漫画というものは世の識者の目に触れることがほぼなく、よって高くあるいは正当に評価されることがほぼないのですが、ヒットすればその層の8割以上が知っているようなものになったりするし、コミックスの部数もそこらのやたら高名なだけで実は売れていないサブカル漫画なんかとは桁がひとつもふたつも違ったりします。ただ、そのブームというかインパクトは一過性のもので、少女たちが成長しその時期を卒業していくと忘れ去られていくものであり、またそれでもいいとされて日々生産されているものだったりします。時代と寝た…というよりむしろ時代を抱く作品なのだ、と私としては言いたいくらいです。
 たとえば『ベルばら』『ポー』最近宝塚歌劇化されたという点では『はいからさんが通る』もですが、それらはいずれも連載当時すでに過去であった時代を舞台にして描かれた作品だったので、そこが『花男』は違うんですね。だから『花男』の宝塚歌劇化発表には私は違和感を持ちました。現代劇というものは宝塚歌劇にはなかなかそぐわないのではないかと危惧したからだし、れいちゃんの主演作が『はいからさん』から続いて2作、漫画原作ものでいいの?と思ったからです。私はまた、宝塚歌劇団はただの2.5次元ミュージカル劇団になってしまってはいけない、とも考えているのです(論法として2.5を下げて言っています、すみません。あまりたくさん観ていないので言及する資格はないのですが、玉石混淆の出来だと思っていることは認めます)。
 さらにこれが連載開始から30年近くたって微妙に古い「現代」の物語になっていること、またお稽古場レポの様子などから漏れ聞こえてくるに、F4がスマホを持っていたりクラスメイトたちがインスタにつくしのスキャンダルを投稿したりと、時代設定が「2019年」に移されているらしいと聞いて、ますます不安になったのでした。
 宝塚歌劇の観客層のボリュームゾーンは決して女子中学生ではなく、アラサーからアラ還くらいまでのマダム(未婚であれ、イメージ的に)なのではないかなと思うので、1992年だろうが2019年だろうが女子高生の恋愛は等しくファンタジーに思えて楽しめるのかもしれませんが、しかしそれでいいのでしょうか。2019年の私立高校で、一部の男子生徒グループが彼らだけ制服も着ず、指名した生徒に暴力を振るわせ、攻撃するようなことが平然と行われていることなどありえません。イヤ残念ながらあるかもしけないけれど、犯罪だと告発されたり、SNS的に炎上したりしてもっと早期に問題解決がなされるはずです。けなげなヒロインが凜々しく立ち向かって云々、なんて解決はありえないし、そこから恋が生まれるなんてこともないでしょう。そして通う生徒のほとんどがいわゆるお金持ち、という学校は確かに存在するでしょうが、学生の、というか一般家庭の平均的な裕福度が今は明らかに30年前より下がっているので、もっと棲み分けがタイトにされているだろうし、平均層からのこういうお金持ちへのドリームも純粋な憧れとか羨望だけではもうなくなっていて、もっとほの暗いものになっているのではないでしょうか。要するに、ドリームもリアリティもファンタジー度合いも、この原作漫画が持っていたものと今の世の中とでは違いすぎていて、安易な変換は無理なのではないか?という危惧です。現代のリアル女子中学生でこの作品の舞台を観る人は限られているかもしれませんが、というか彼女がこの舞台を観るということはその彼女の境遇はおそらく平均的なものとはすでにしてけっこう違うんじゃないかと思えますが、それでも、「は? 何コレ??」となっちゃうんじゃないの?と思ってしまうのです。そんなクオリティにしかならないであろうものを、おそらく次代の花組を背負って立つスターの主演作にもってきちゃうとか、劇団ってホント思慮ないよね…と暗澹たる気持ちになったのです。
 実際、私はまあまあ早くに観た方だと思うのですが、それでも初日以降、「いじめ描写がしんどい」「暴力、犯罪行為がひどい」という感想は聞こえてきていたので、フラットに観ようと心がけつつも、わりと「野口!」と暴れることになるんだろうな、と思いながら赤坂駅に降り立ったのでしした。

 …が、なんとびっくり、私は自分のこういう鈍感さを本当に嫌に思いますが、それでもこうしたお金持ちとか貧乏人設定とかは物語のための最低限の設定に私には捉えられて、リアリティがないとかファンタジーとして萌えられないとかは全然思わず、そこから立ち上がるつくしの凜々しさいじらしさすがすがしさと、それに心打たれてうっかりフォーリンラブしちゃってじたばたする道明寺のバカさ可愛さにきゅんきゅんしてしまったのでした。なんてったってしろきみちゃんが絶品でしたし、れいちゃんも本当に上手い。ちゃんとこのキャラクターになっていて、駄目なところも嫌なところもそれなりに見せて、でもやはり彼女が演じることで好感度を持たせているし、決めるときはカッコ良く決めて見せてくれて、さすがスターだな、と唸りました。フェアリーはジャニーズとはまた違うスターオーラとファンタジー力とで、観客を魔法にかけられるのでしょうね。
 チャチさギリギリのセットと駆使される映像も世界観に合っていたと思えましたし、展開がスピーディーなのも現代を舞台にした漫画原作ものっぽいし、多用される暗転に関しても漫画のコマ割り、ページ繰りを想起させて私はいいなと思いました。
 スターの配置も適材適所で、ほのちゃんの花沢類もよかったし、恋仇具合や出番のバランスなんかもちょうどよかったと思いました。ナミケーもさすが上級生で、マダムキラーの色気の表現が上手い! ただ、並ぶのが新世代スター(なんせ脚が破格に長い!)でスタイルお化けの希波くんだったので、見目は分が悪かったかも。希波くんはまだまっすぐやっているだけ、に見えますが、それでもたいしたものだし、大きく育てていただきたいです。
 カガリリの静(華雅りりか)がまた案配が良くて、そうなのよカガリリはおもろい方向ばかりじゃなくて美人枠もちゃんとできるんだからちゃんと起用してよね!と思いましたし、桜子(音くり寿)のおとくりちゃんがまた破壊的に上手いのでした。彼女もどうにかしてあげてほしい…小さすぎるのが難なのだろうか…てかそれでいうと私はしろきみちゃんは上手いんだけどさすがに機を逃した感があるし、顔が四角いのが相手を選ぶよなーとか思っていたんですけれど、華ちゃんも顔は大きいし、デュエダンとか素晴らしくて娘役力は断然しろきみちゃんの方に一日以上の長があるので、これが次期トップコンビでもよかったんじゃないの…?とはこっそり思ってしまいました。れいちゃんとのバランスもよかったけどなー…まあ華ちゃんはこれからメキメキ成長するとは思っていますけれどね、伸びしろしかないんだし。
 それはともかく、そんなわけで道明寺はサイテーのいじめっ子だろうとそこから変わるしフォローもされるんだけれど、F4の尻馬に乗っていじめに荷担するクラスメイトたちの闇はそれこそ現代的な視点で見ると救いも何もあったもんじゃないので、それをタカラジェンヌに演じさせるのにはやはり私はざらりとしました。どんなに脇の下級生だろうとファンは必ずついているんですからね。中堅陣も上手いだけに笑えなくて、けっこうフクザツになりました。これはやはり、作品選定の問題だったろうと思います。以後の課題にしていただきたいです。安易な原作ものはやはりもっと控えて、オリジナル作を書ける作家を育成すべきです。そしてもっと宝塚歌劇でしか描けない愛とドリームとファンタジーを紡いでいってほしいです。今回はやはり、原作漫画の立体化にしか思えませんでした。『はいからさん』よりだいぶショーアップしていて「ミュージカル・ロマンス」になっていたとは思いますが、やはりラブの規模が小さいというか、それこそ庶民的すぎやしませんかねかりにも宝塚歌劇がやるにはさ…と言いたくなってしまうのです。もっとゴージャスに、普遍的に、ワールドワイドに、やってもらいたいのですよ…
 生徒はみんな本当に本当にがんばっているんだから、劇団にはなおさら精進を求めます。






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