駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ピピン』

2019年06月16日 | 観劇記/タイトルは行
 シアターオーブ、2019年6月15日12時半。

 カリスマ的なリーディングプレイヤー(クリスタル・ケイ)率いる旅芸人一座のショーが始まる。人生という壮大な旅物語、ミステリアスな陰謀、心温まる笑いとロマンス、そして奇想天外なイリュージョン。一座が披露するのは若き王子ピピン(城田優)の物語…
 脚本/ロジャー・O・ハーソン、作詞・作曲/スティーブン・シュワルツ、演出/ダイアン・パウルス、振付/チェット・ウォーカー、サーカス・クリエーション/ジプシー・スナイダー。翻訳/小田島恒志、音楽監督/前嶋康明、訳詞/福田響志。1972年にボブ・フォッシー演出でブロードウェイで初演された舞台が2013年にサーカス・アクトを大胆に取り入れてリバイバル、その日本初演。全2幕。

 一緒に観た友達が『キャンディード』に似ている、と言っていましたが、確かに若者の自分探しの旅で、身近でささやかな愛とつましい暮らしを選んで終わる青い鳥めいたオチ、という点で同じ話かもしれません。あれもヴォルテールが語る劇中劇みたいな構造を取っていましたしね。
 旅に出て戦争に参加したり祖母を訪ねたり革命を起こしたりしてみたあげくでないとそんな簡単なことにも気づけないのかね男って馬鹿ね、としか言いようがない気持ちにもなりますが、まあ男性創作世界では普遍的なテーマのひとつなのでしょう。そんなわけでストーリーはごく単純ですが、それを今回はサーカス・アクロバットやパフォーマンスで見せるミュージカル、に仕立てているので、それが見どころであり、それは確かに素晴らしくて堪能しました。『オーシャンズ11』のマジックなんかより断然ちゃんとしてましたしね!(^^;)
 ザ・プレイヤーズたちだけでなくメインキャストもガンガン身体を張っていて、特にピピンの祖母バーサ(この日は前田美波里、中尾ミエとのダブルキャスト)のパフォーマンスは素晴らしすぎました。もちろん組んでいる男性がすごいのだろうけれど、当人もすごいよぶっちゃけ役者の仕事を越えてるよ、でもやっちゃうんだよねできちゃうんだよねすごい…!
 お目当てのきりやんはピピンの義母ファストラーダ(霧矢大夢)。ちょっと背中が硬いようにも見えましたが、大きなソロナンバーをそれはそれは鮮やかに歌い踊り、ミュージカル・スターっぷりを見せつけてくれました。すごい!
 宮澤エマちゃんも上手いので、でもキャサリンはあまり出番がなくて残念でした。父チャールズの今井清隆もほぼ1幕だけの出番でしたしね。でも、贅沢ではありました。上手い人しかいなかったので。
 リーディングプレイヤーは初演は男性でイメージはチャールズ・マンソンだったりするそうですが、狂言回しのような道化のような神のような悪魔のような、なキャラクターでしたね。ピピンを励ましたり導いたり、脅したり誘惑したり。ミュージカル初舞台のクリスタル・ケイの起用が効いていると思いましたが、それは日本人の平均的な容姿に慣れてしまった者からの差別的な視線になるのかなあ…ただそれで言うと城田くんがピピンなのも良くて、彼は他の舞台では背が高すぎて悪目立ちしてしまうところがあると私は思っているのですが、この舞台では中身はともかく(王子らしからぬフツーの若者、というキャラクターなので)王子っぽさとか主人公感が表現できていて、いいなと感じたのでした。
 ピピンがキャサリンとの暮らしを選ぶことはリーディングプレイヤーにはある意味で意外というか期待外れだったらしく、彼女は次にキャサリンの幼い息子テオに手を差し伸べて、物語は終わります。これも1998年に加えられた結末で初演にはなかったそうな。パフォーマンスには圧倒されたもののストーリーとしてはよくあるものだしちょっと退屈かな…と思って観ていた私でしたが、これにはぞぞっとさせられて、暗転に盛大な拍手を送っていました。人間は神から、あるいは悪魔から逃れられない。歴史は繰り返す。ピピンは父カール大帝(いわゆるシャルルマーニュ)と違う生き方を選んだ、けれどその息子は…という恐ろしさ、愚かさ、それでも…という一縷の希望。そんなものを感じました。
 リピーターが盛り上げたりもしているのでしょうが、私は基本的にはノリの悪い客で、おもしろいかどうかもわからないのに冒頭から騒げないし、客席参加もご唱和くださいも苦手だしなんなら手拍子もほとんどしませんでしたが、それでも楽しく観ました。こういう舞台もウケるといいな、とは思っています。私はもう少し芝居寄りのものが好きだ、というだけの話です。
 お衣裳(及川千春)、よかったなあ。あと楽曲が本当に良かったです。日本のオリジナル・ミュージカルには作曲家がまだまだ足りないな、と感じました。サントラが欲しいです。
 休日のヒカリエの混みっぷりには辟易しましたが、楽しかったです。



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