駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『LUPIN』

2023年11月18日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 帝国劇場、2023年11月15日18時。

 テンプル騎士団のカテドラルを再建し、施療院を作る計画の会見が開かれている。テンプル騎士団研究会会長ボーマニャン(この日は黒羽麻璃央)や新聞記者など多くの人々が集まっているところへ、デティーグ男爵令嬢クラリス(真彩希帆)が慈善事業への強い思いと、施療院の院長に就く決心を語る。そこへ考古学者マシバン博士がやってきて、カテドラル発掘時に発見された生命の樹メノラーの枝を鑑定するが…
 脚本・歌詞・演出/小池修一郎、音楽/ドーヴ・アチア、共同作曲/ロッド・ジャノワ、音楽監督・編曲/太田健、振付/桜木涼介。モーリス・ルブランの怪盗紳士アルセーヌ・ルパンもののうち『カリオストロ伯爵夫人』と『奇厳城』を原作に、「二次創作」した「派生作品」、というミュージカル・ピカレスク。全二幕。

 初日から「トンチキ」「笑ってはいけない古川雄大」「イケコがかんがえるさいきょうの古川雄大」「イケコの夢をかなえたろか公演」などの評判が聞こえてきていたため、私はわりと暴れる気満々で出かけたのですが…別に、フツーでした(^^;)。トンチキ、というほどの破壊力はなく、いつものイケコ・クオリティだな、と思っただけです。
 これは、しーちゃんにお取り次ぎいただいた、A席だけど一階後方下手ブロックで十分観やすく音も良くてなんの問題もない、というコスパの良さに、おおらかな気分になれたせいもあったかもしれません。ともあれ、ホント楽しく観ました。
 一幕はキャラものとして楽しく観ましたし、二幕はストーリー展開が確かにまんま『カジロワ』なんだけれど(なのであれはやはりボンドだけではキャラものとして弱かったし、なのでより評価が低くなるのですね…)まあイケコの脳ではコレしかないやろ、と思えたので、いいのです。もちろん『アルカンシェル』が心配になりましたし、イケコの脚本家としての力は過去はともかく今やまったくないのがあきらかので(とはいえ私はわりと『眠らない男』は高評価しているんですよね…あんま人気ないし言及されることも今やほぼないですけどね…)、もう海外ミュージカルの輸入翻案演出だけに専念した方がいい、とは考えていますけれどね。お話、物語ることには興味や関心があまりなくて、どう見せるかを工夫する方が得意なんでしょ? だからそれをやればいい、というだけのことだと思うのです。
 エンタメとしてのクオリティは基準点に達していると思いますし、なんせキャストの歌唱力は担保されているわけで、みんなファンも多くチケットは完売ペースなんでしょうから、いいんじゃないでしょうか。ただ、ダブルキャストをひととおり観終えたリピーターが後半のチケットを手放すとかはあるだろうし、昨今のチケット代の高騰ぶりにそもそも買い控えたお客も多いだろうので、無問題とふんぞり返っていていいわけではない、とは考えています。
 ただ、ハシボーの駄作だとか客を馬鹿にしているとか帝劇を軽んじている、とかはないな、と私は思いました。こんな大味なエンタメ、むしろ帝劇にこそ似合いだとと思いますし、帝劇は今までも蓋を開けたらなんだこりゃ?みたいな出来の演目だってたくさんかけてきたわけで、高尚な芸術作品ばかり上演してきたわけでなし、そんな敷居の高いハコじゃねーだろ、と思うので。ただ、この手の企画、座組でどこまでもいけると思うなよ東宝…とは案じています。

 というわけでゆんゆん、堂々たる主演、座長、タイトルロール、おめでとうございました、立派でした。
 私はこの人は雰囲気イケメンなだけであって別にハンサムではないのでは、とかヒドいことを思っているのですが、歌も芝居もダンスも上手いし顔がちっちゃくてタッパがあってスタイルがいいので、それは本当に美点、利点だと思っています。変な変装しちゃうのも女装しちゃうのも、似合うしハマるんだからどんどんやればいいですよね。エレクトリカル・ゴンドラも誰にでも許されるものではないと思いますしね(笑)。でも2幕ラストはホントにフライングでもよかったのにな、と『マハーバーラタ戦記』にすら「今回は宙乗りないんだ…」と新作歌舞伎にやや毒されつつある私なんかは思ったのでした。
 実際のルパンものもこんなだし、それは人気が出たからって泥縄で連作していったからで整合性も何もないのは仕方がないし(だからこそ『ルパン三世 カリオストロの城』という傑作「派生作品」も生まれたわけですしね)、その雰囲気に合った主役っぷりで、とてもよかったと思いました。もちろんもっと渋いシリアスな芝居もできることは知っているけれど、それはそれでまた別にやればいいことなので…楽しそうにマントを翻しドレス着て台車乗ってルンルンしているの、ホントいいと思ったのでした。
 きぃちゃんもとてもよかったです。さすがの天使の歌声だし、私はクラリスはしょーもない役だとは感じませんでした。親の借金のカタにいけすかない男と結婚するのなんかイヤだ、私は社会に役立つ仕事がしたい、と言っていた小娘が、パーティーで出会った雰囲気イケメンにコロリと恋をし、それが本気になるなんて、別に自然なことだしよくあることだと思うのです。悪いことでは全然ないとも思いますしね。きぃちゃんはそんなクラリスを、的確なヒロイン力を持って演じ、舞台に出現させていたと思いました。
 私は彼女は芝居は上手いがヒロイン力はそんなにない女優なのでは、と思っていたのですが(星組時代とか、娘役力の足りなさにヒヤヒヤしたものでしたよ…)、今回はホントちょうどいい、さすがだなあと思えたなあ。ドレスもどれも似合っていたし、可愛かったです。
 婦人参政権運動云々が持ち込まれているわりに「純潔」連呼台詞があるのには閉口し、イケコのフェミニズム理解なんて所詮こんなもんなんだからやめときーな、とは思いましたが、まあ役者のせいではありませんしね。てか東宝が止めろ、宝塚歌劇団よりは機能しているプロデューサーがいるんだろうが…そういえばこれだけコード進行がタカラヅカなんだから、キスも宝塚式のエアチューでよかったと思うんですけれど…インティマシー・コーディネイターもちゃんと入れましょうね東宝。業界トップが率先してやってこそ、ですよ…
 イケコの筆力がないので悪役/ライバル役として書き込みが甘いボーマニャンですが(メシアがルシファーに変わっただけかい、とかつっこみたくなりましたよね)、それこそ力尽くでやってみせていて好感しかありませんでした。もうひとりの立石俊樹も観てみたかったです。ハンサムだけどおもろい、って俳優の枠、ありますよね…(^^;)
 主役、ヒロイン、悪役と構造としてしっかり並んだ中で、トリックスターであり裏ヒロインにして裏主役のカリオストロ伯爵夫人(今回のサブタイトルは「カリオストロ伯爵夫人の秘密」)は、ちえちゃんとゆりかちゃんのダブルキャストで、今回は退団後初のゆりかちゃんで観ました。これがまたよかったんですよねえぇ! 要するにイケコの萌えはここにあるんだよな、ということが実によくわかりました(笑)。
 ゆりかちゃんは堂々としたもので、歌もキーが合っていたのかとてもよかったし、男優とも臆せず絡んでいたし、ドレスも華麗に着こなしていたし(背中が開いた赤いドレスは、素敵だったけど95点くらいかな…男役は背中なんて見せることがほぼないと思うので、やはり娘役の背中の美しさに比べたらそこはやや甘かったかもね、という贅沢な見方ですすみません)、舞台映えするし、台詞が女言葉だからか癖の「~だぁ」口調がなく、演技も的確でとてもよかったと思いました。女優デビューとして完璧なのでは!?
 大柄な下男(章平)にかしずかれている婦人、という絵柄もよかったし、正体についてもとても良くて、彼女がアメリカで活躍しているところにルパンとホームズが押しかける続編を考えてるんでしょイケコ?という気がしました(笑)。
 ブログラムでイケコが「両性具有の魔力」云々と語っていましたが、確かにリアル男優がいるところでは黒燕尾で現れても男装に見えるし、といってドレス姿になっても女装に見えるので、その自在さがカリオストロっぽくていいな、と思いました。ちえちゃんだとまたちょっとニュアンスが違ったのかな? それもまたおもしろそうですね。ともあれここにも満足しました。
 ホームズ(小西遼生)さんの贅沢無駄遣いとかガニマール警部(勝矢)のいかにもさとかイジドール(加藤清史郎)のけなげさ、やんちゃっぷりも塩梅がよかったと思いますし、アンサンブルではしーちゃん大活躍で、ホント満足度が高かったのでした。シルクハットにモノクルに蝶ネクタイにマント、というセット(美術/松井るみ)もお洒落でよかったです。
 指揮は御崎恵先生でしたね。楽曲ももちろん素晴らしく、太田先生のアレンジが的確なのはもちろん、結局日本語ミュージカルとして「♪か、いと、うし、しんるぱん!」ってな合いの手コーラスになってしまうところまで愛しく、楽しかったです。いやホント歌えるって素晴らしい、これで歌が下手では目も当てられませんでしたからね…
 というわけで私は楽しめてしまったのでした。怒って暴れてダメ出し八千字とかを書くより断然健全で、よかったです。2月までの長丁場、どうぞご安全に…


※※※

 それでいうと、私は今の宝塚歌劇団での事態を鑑みて、ゆりかちゃんの舞台なんか観ていていいのだろうか、とかちらりと考えなかったわけではないのですが、すみません私は全然平気なのでした。なんか脳の違うところで楽しんでしまう、と言いましょうか…
 役、キャラだけ見ているわけではなくて、役者のことももちろん見ているんだけれど、そして舞台姿には人柄が全部出る、とかよく言われますけれど、共演者にはわかっても観客にはそこまで伝わらないのかもしれないし、ホントは意地が悪い人、みたいな性格とか人となりまで感じられるものでもないと思うんですよね…というか私にはホントいつものちょっとのほほんとしたゆりかちゃんが楽しんで演技しているだけのように見えて、それは過去の宙組公演もそう観て楽しんできたわけで、実はすごい悪人かもしれなくて内部ではものすごいいじめやパワハラが…とか言われても、ぶっちゃけピンとこないのでした。
 いや、夜昼なくお稽古している感じとかは漏れ伝わってきていて、労働条件として良くないよね、とかは思っていて、今の公演形態は詰め込みすぎだし乱発で作品のクオリティも低いので(生徒の力量の問題ではなく演出家の能力の限界の問題で)、もっと稽古期間も長く取り上演期間も長く取り休演日を増やし週の公演回数を減らし、もっとゆったりやるようにしようよ、とかはここでもさんざん書いてきました。また、生徒の自主性を尊重するのはいいし、上級生から下級生に教える芸というものも確かにあるだろうけれど、指導が厳しすぎたりいきすぎたものにならないよう監督することは大事だよ、そのために管理者、劇団側のおじさんたちはいるんでしょ? ちゃんとしてね? とは常々思っていました。
 それが最も悪い形で出て今回の事態になってしまい、やっぱり無理があったんじゃん、今、無理やりにでも改革を断行して軌道修正しないとまた続くよ、と私なりに心配していて、外野だけどファンだし会見を見守ったり報告書に目を通したりもしているわけですが、やはりどうにも劇団の対応はあまり上手くないように思えて、それでやきもきもしてはいるのでした。
 ヘアアイロンが当たったのは、単なる事故かもしれないしよくあることなのかもしれません。でもわざとではなくても過失でしょ? 怪我(火傷)させちゃったんでしょ? 「ごめーん!」程度でも当時ちゃんと謝ったんですよね? それと同じことで、今回のことも、別に自分たちのせいではない、と思っていてもいいから、でも人がひとり亡くなったことはショックで残念で悲しくて、かわいそうだな、とは思ったでしょ? だからそれを表明する弔問は、その程度の謝罪は、さっさとやるにこしたことはなかったのではないのかしらん…? その訪問は、まったく公表する必要がなく、ご遺族だけが承知していればいいことで、彼女と関わりのあった新旧トップコンビと新旧組長副組長、新旧組プロデューサー、新旧生徒監、新旧理事長が劇団と組を代表して揃って頭を下げに行っていれば、だいぶ違ったのではないかしらん…?
 当人がただ弱くて勝手に自死した、なんてことはないわけで、なのでやはりそれは全体の罪であって、だから代表して上の者が引き受けるべきものでもあって、その意味ではゆりかちゃんは宙組前トップスターなんだから取るべき責任はあるのでしょう。でも彼女個人にすごく悪意があったのだとか、なんかそういうことはやはり上手く想像できないし、そもそも知り得ようがないし…とか私は思ってしまうのでした。今のお仕事はお仕事として引き受けた以上きっちりやるべきだし、変に動揺して降板するみたいなことになる方が私は嫌だな、そういうことではないのでは、とも考えたのでした。
 というわけで、ホントこの舞台を見ている間は、私は全然この問題のことを考えなかったのでした…
 もちろん、今は観たくない、しばらく新しくチケットを取りたくない、そういう形で加担したくない、みたいに考える人の意見も否定しません。ファンと言っても一枚岩ではないし、それぞれのスタンスがあるし、ファンと言っても所詮外野で、劇団員が楽しく健康的に仕事ができることと、ご遺族の意向が一番大切です。ご遺族の望みは、真実が明かされ、謝罪と補償がされること、そして改善策が講じられること…なので、それを丁寧に進めていってほしいです。一方で興行はノンストップなので(いや宝塚歌劇の公演には止めているものもあるわけですが)、それはそれでやるしかないし、チケットを持っていれば私は行くよね、という…
 亡くなった生徒を悼み、残念に、無念に思う忸怩たる想いと、そうした行為は両立すると私は思うのでした。
 お気に障った方がいらしたら、それは申し訳ございません。
















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