駒子の備忘録

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『ビロクシー・ブルース』

2023年11月17日 | 観劇記/タイトルは行
 シアタークリエ、2023年11月14日18時。

 1943年、アメリカ。5人の若者が列車に揺られている。彼らはニュージャージー州フォート・ディックスからミシシッピ州ビロクシーにある新兵訓練所へと向かっていた。作家志望のユージン(濱田龍臣)は、繊細な読書家のエプスタイン(宮崎秋人)、歌手を夢見るカーニー(松田凌)、お調子者のセルリッジ(鳥越裕貴)、横暴なワイコフスキ(大山真志)という個性的な仲間たちの様子を観察し、将来のために日記にしたためている。兵舎に到着した5人は、早速トゥーミー軍曹(新納慎也)の厳しい指導を受けるが…
 作/ニール・サイモン、翻訳/鳴海四郎、上演台本・演出/小山ゆうな。ニール・サイモンの自伝的戯曲BB三部作の第二部で、1985年初演、トニー賞ベストプレイ賞受賞作。全二幕。

 私にしては珍しく、OGが出ない演目でしたが、そのOGが出演する舞台に出ていて好感を持った若手俳優が何人も出ている舞台だったので、出かけてきました。クリエでストプレ、というのも久しぶりな気もします。しかも我が親友が映画版のトゥーミー軍曹役者のファンということで、珍しく観たいと言ってきてくれたものだから、いそいそとチケットを取って並んで観てきました。
 客の入りが悪いとも聞いていましたが、平日夜公演はまあまあ後列までしっかりお客が入っていました。そして客層が、いつも私が行く舞台より若い! そんなんで舞台がヘンにマッチョでノスタルジックで感傷的な、男の男による男のための物語だったりしたら、役者目当てで来たのであろうこんなお若いお嬢さんがたは大丈夫かしらん、私だって「ケッ」とかなりかねないけど…などと案じつつ、何故か取れた二列目ほぼセンターというお席に着きました。近すぎて観づらい、ということがなく、声もよく通ってとても快適に観られました。
 で、とてもいい舞台で、ちょっと身構えていたのが損だった、と思うくらいでした。端正で、適正。緊密で、誠実で、バランスがいい。過剰だったり、ホモソーシャル・マンセーみたいなところもまったくありませんでした。なんでも性別で語るなよ、と言われそうですが、女性演出家の手腕かもしれません。感心しました。
 女性キャラふたり(小島聖、岡本夏美)も、言うなれば娼婦と聖女という典型的な役なんだけれど、当時の主人公から見ればこう見えた、ということだろうので納得できましたし、それを抜きにしてもこういう女性いるな、と思えました。リアリティがちゃんとあり、過剰に悪く描かれていたり崇め奉られて描かれていないのがいい、と思いました。
 私の好みはやっぱりエプスタインなんだけれど、彼のSOGIについても、じゃあ本当はなんだったのか、みたいな言及がないのもよかったです。また、同僚とオーラルセックスしていたことが判明したヘネシー(木戸邑弥)の実際のセクシュアリティだってどうだったのかはわからないし、そこがウダウダ語られないのもいいなと思いました。でも当時同性愛は犯罪で、軍紀違反だったということは明示される。その理不尽さは他のいろいろなことに通じるわけで、そういうことも考えさせる流れにきちんとなっている。秀逸だなと思いました。
 軍曹にしても、本当にややアレな人だったのか、新兵を戦地で死なない軍人に鍛え上げるための愛の鞭だったのか、は特に描かれません。そして彼もまた不本意な命令に従って転属していく…軍隊って、戦争ってなんだろう、と思わせられます。その、わりと放り出しっぱなしの乾いた筆致がとてもいいなと思いました。

 役者はみんな上手くて、台詞と演技が明晰で、安心して観ていられました。そこが最低限のスタートだろう、とも言いたいのですが、そうじゃない舞台も山ほどありますからね…
 作家が書く作家ものとしても、変な自意識も見られず、いいなと感じました。ニール・サイモン作品自体は当たり外れがあるというか、現代日本で上演されて現代日本社会に生きる女性観客が観たときどうなんだと思う作品もある、というのが私の感想ですが、この作品は、演出によるのかもしれませんが、時に耐えられそうだな、と思いました。
 簡素ながら効果的なセット(美術/二村周作)も印象的でした。良きものを観ました。







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