駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『カジノ・ロワイヤル』

2023年06月08日 | 観劇記/タイトルか行
 宝塚大劇場、2023年3月11日13時(初日)、28日18時(新公)。
 東京宝塚劇場、6月6日18時。

 第二次世界大戦後、1968年。世界はアメリカを中心とする資本主義社会である西側と、ソヴィエト連邦を中心とする共産主義社会である東側とに分かれ、直接戦火を交えることなく対立していた。人々はそれを「冷戦」と呼び、その前線で各国の諜報部員=スパイたちが密かに戦いを続けている。イギリスが誇る秘密情報機関「MI6」に属する男、コードネーム「007」を持つジェームズ・ボンド(真風涼帆)は、殺しのライセンスを与えられ、危険を顧みず激戦をくぐり抜けてきた優秀な秘密情報部員である。ある日ボンドは、ソ連のKGBに属する諜報部員であり、フランスにおける司令塔と言われていたル・シッフル(芹香斗亜)とギャンブルで勝負するよう指令を受ける。ル・シッフルの経営するパリのナイトクラブはフランスにおけるKGBの資金源であり、隠れたオフィスだったが、売り上げを使い込んで窮地に陥ったル・シッフルはカジノで一攫千金を狙っているというのだ…
 原作/イアン・フレミング、脚本・演出/小池修一郎、作曲・編曲/太田健、高橋恵、甲斐正人。映画化も何度もされている世界的に有名なスパイ・スリラー小説を原作に、ミュージカル化された「アクション・ロマネスク」。宙組トップコンビの退団公演。

 初日雑感はこちら
 というわけで私個人としては、いいんだけど、いいんだけどでもなー、うーん、まあ私はもういいかな…という感じの感想だったので、こんな観劇回数になってしまいました。
 でも、東京公演マイ初日にしてマイ楽は、大劇場初日以来の観劇だったこともあるし、東京公演も残り一週間と煮詰まった時期の回でもあったため、舞台は非常に良く仕上がっていて感心しました。ま、一幕だけでしたけど(笑)。二幕はやっぱりドンパチでどーにかさせるという、イケコのザル脚本のどーにもなってなさが目立ってしまって、いかに生徒たちががんばって仕上げても限界があるだろう、とい私には感じられたので。ただ、そのドンパチのアクションその他も大劇場初日からしたら当然ですが流れるように練り上げられていて、初日のあのわたわたどたばたしていた危なっかしさはまったくなく、安心して観ていられたのがよかったです。タカラジェンヌってホントーにすごい…
 でも、タカラヅカだから、サヨナラ公演だから、こんなレベルの脚本でもいいじゃん、こーいうノリのお笑いでいいじゃん、という意見に私は与したくないのですよ…だって『神土地』だって『桜嵐記』だって『fff』だってもっとずっと全然ちゃんとしていたわけでさー…(くーみんよ、おまえはもういないのか…)ま、もちろん好みの問題もありますけれどね。ファンが楽しく通えているなら、チケットは欲しい人のところに回るべきだし、私は今回はこの観劇回数で満足です。
 フィナーレも定番パターンですが手堅く、白いお衣装で踊るラスト・デュエダンというベタさも最高でした。ここで引っ込んでもよかったよねホント、ゆりかちゃんって別にダンサーじゃないからその後のソロパートはやっぱり苦しいと私は感じました。でも、膝着いて床に手を当てる、だの片腕高く伸ばして後ろ姿で決める、だのなかなかできないことなので、それは堪能しました。
 ジェームズ・ボンドはゆりかちゃんの集大成のお役として、とてもよかったと思います。大人の洒脱さ、スーツやタキシードの着こなし、包容力、素晴らしかったです。マイ楽が2階前方席だったのですが、幕開き、2階から見ると寸詰まりに見えそうなものなのになお脚が長く見えるってどういうこと…!?と脳がバグりましたもんね。このスタイルの良さを見抜き、ぼーっとしてようが泣き虫だろうがバンバン起用してここまで育てた劇団の辣腕にはホント感心します。トウコさん時代のピヨピヨからチエちゃん、ベニーの三男坊へ、宙組二番手への組替えもよかったし、トップ就任時には下級生時代に一緒だった一期下のキキを二番手に迎える、というのもホントよかったと思います。生え抜きのまどかがしっかりしているていだったので、そのままいってもなんの問題もなかったと思いますが、まあいろいろあってかのちゃんとも組んで、また新たな面も打ち出せてさらに磨かれて、トップ・オブトップスター、究極の男役として卒業していけるのではないかと思います。
 ゆりかちゃん、お疲れ様でした。LDHで女優さんになるの? ご卒業後の人生も幸多かれと祈っています。
 そしてデルフィーヌ、やっぱりいいお役だな、奇跡的によく描かれているヒロインだと思うな、と感動しました。
 メイドにチップを渡して融通を利かせてもらっている振りがあり、所詮庶民や貧困層のことなど何もわかっていないお金持ちのお嬢さんなんじゃないか、みたいな意見も見ましたけど、チップの振りはボンドもやってるんだけどそもそも日本にない習慣だし、確かにルール好きの品行方正な日本人からするとちょっと受け入れがたい、というのはありますよね。だいたい、わざわざ入れる必要はなかったとは思います。ラストシーンも、ボンドとデルフィーヌがふたりでルーレットの前で語ればいいのであって、あえてそこに掃除しているホテル従業員を置く必要はなく、ここの演出意図が私にはよくわかりません。
 ですが、彼ら彼女ら従業員は庶民かもしれないけれど立派な労働者であって、でもデルフィーヌが救いたいと考えているのは職にも就けない、字も読めない学校にも通わせてもらえないような貧困層の子供たちなのであって、だから目の前の彼らのことはスルーで当然なんですよ。彼らはもう自活できているのですから。世界を救いたい、変えたいと考えたって、全部の面倒は見きれないわけで、そんなのあたりまえなんです。
 ただ、私なんかは、こうした改革や運動は、お金や権力を持つ者が上からトップダウンでやっちゃう方がドラスティックに進むことがあるよ、誰にでもできることじゃないんだから、ミシェル(桜木みなと)ができないならデルフィーヌ自身がやればいいんだよ、などと考えるタイプの人間ですが、彼女の選択はそうではありませんでした。まずは自分が額に汗して、自分の身体を使って動いてみる、一教師として働いてみることを選んだのです。それは誰にでもできることだし大海の水を手ですくうようなもので無駄だよ、という考え方ももちろんあるんだけれど、デルフィーヌはまず自分でやってみることを選ぶわけです。それは正しいと思います。現実を知らない裸の王様、お山の大将になるよりずっといい。その体験は絶対に無にならないし、それで得た見識で、財産のより正しい遣い方を習得するかもしれない。そういうたくましさと賢さがある、強く美しいデルフィーヌというキャラクターが、私は本当に好きでした。ピカピカに輝くかのちゃんとの相乗効果も素晴らしかったと思います。
 ミシェルにフラれてまあまあしょんぼりだろうに、過剰な泣き言も繰り言も言わないのもいい。ボンドにヘンにすがったり頼ったりしていないのもいい。まっすぐ自分の足を地に着けて立つ、凜々しく清々しい女の子が、女学生から大人の女性へ、羽根が生え替わるように美しく成長する姿を、まざまざと見せてもらいました。これまたかのちゃんの集大成だったと思います。
 ボンドがまた、「ミシェルはやめておけ」と言うだけなのがいいんですよね。もちろんそれはやきもちなんかでは全然なくて、ロマノフの遺産がKGBに流れ込むようなら世界平和の夢も危ない、と読むスパイのアドバイスなんですが、いいのはそれ以上の口出しをしないことなんですよ。世の凡百の男どもは、この状況になったらまず絶対に女の金の遣い方に口を出します。絶対にですよ、カシオミニを賭けてもいい。自分のお金でもないのに、相手の方に自分より金融の知識があるかもしれないのに、絶対に「おれがかんがえるさいきょうの金の遣い方」を女に指南しようとします。でもボンドはそんなことは一言も言わないのです。そこがとてもいいと思いました。ボンドはクールなキャラだから、というんで脚本がそうなっているというよりは、イケコが単に無頓着なだけでは…とは疑っていますけれどね。
 ボンドはデルフィーヌ自身のことも小娘扱いするようなことがなく、まずひとりの人間としてきちんと尊重しているようなのが、とてもいいです。これはたとえばなーこたんとかが少女漫画脳の手癖で書いちゃうと、クールでオトナな有能スパイと元気でキュートな女学生、みたいなベタなヤツになって、キスを寸止めされたヒロインが「もうオトナなのに、ちゃんとしてくれない!」とプンスカするとか、そーいうノリのものを絶対に書きがちな危険があると思うんですよ。そういうんじゃないボンドとデルフィーヌの関係を(たまたま)描けているだけで、イケコすぎょい、と思います。
 ああ、まあだからかのちゃんも、不安でいっぱいの組替えのときからゆりかちゃんに温かく大事にしてもらって、そこでもう添い遂げようって決めちゃったんだろうけれど、でもやはりもったいないですよ…とホント思います。もう一年やるだけで全然違ったと思う。もっと大輪の花を咲かせたと思うし、歴史的にも名を残すトップ娘役になったと思うのです。でもこの任期の短さでは…のちのち華ちゃんとか、ミナコとかくらいの影の薄さになっちゃうんだろうなーと思うと本当に残念なのです。あのあっかるいオーラやハイテンションはホント得がたい個性と魅力ですし(もちろん陰で泣いたりあがいたり努力したりはしているんだと思いますが)、バービースタイルも素晴らしく、まだまだいろんなお役や姿が見たかったです…ご卒業、おめでとうございます…しくしく…

 あとはまあ、キキちゃんがなんでもできることはもうみんな知ってるし今後も任せて安心で、ずんちゃんがなんでもできることもみんな知っていて、でもまたがっつりキキずんとなるとこれから何が見られるんだろう?という楽しみはありますね。
 そしてすっしぃさん、本当にお疲れ様でした。ずーっとずーっと組長でいてくれるのかとすら思っていましたよ…雪組名ダンサー時代からこちら、いろいろたくさん観てきました。千秋楽のフィナーレ男役群舞への拍手は大変なことになるでしょうね…
 あとはもえこがまた垢抜けて、『大逆転裁判』もあるし、こちらも楽しみです。こってぃもちょっと辛抱役なような、美味しいような、微妙な役どころかと思いましたが、いい爪痕を残していると思いました。ナニキョロのニコイチも意外とそう長くは観られないでしょうから、貴重でしょう。ひろことひばりはずっとキャッキャして良き。でもホントさらちゃんが素敵で、そしてさよちゃんがまた本当に素敵で、宙組娘役陣もだいぶ上級生がいないんだけどまだまだ固いです。


 最後に大劇場新公について、簡単に。
 ボンドはりーちゃん、大路りせくん。スタイルが良くて華があって雰囲気があって、もちろん細かいところはいろいろあっぷあっぷしていたけれど、まずは背伸びしてチャレンジ!というのがとてもよかったと思いました。ガタイがいいタイプなのでナニキョロと持ち味が違うのも強く、宙組男役は配属からどうも弱いとずっと思っていたのですがこのあたりの世代からぐっといいですよね…期待しています。
 ヒロインはちっち、美星帆那ちゃん。ちっちゃくて元気なデルフィーヌ像でよかったです。歌は緊張していたかな。妹役者にしてしまうのはもったいないと思うので、上手く育ててほしいです。
 ル・シッフルはキョロちゃん、亜音有星くん。主演経験もあるせいか舞台度胸もしっかりあり、余裕綽々の悪役っぷりで舞台を支えていましたね。
 ミシェルがなるくん、泉堂成くん。意外にここまで大きな役をやったことがない生徒さんだと思いますが、綺麗、手堅い、上手い! クセのある方にばかり行くのも損だと思いますし、これは大きな経験になったのではないかしらん。
 あとは、今回ル・シッフルのガードマンみたいなところにまなちゃんと並んで入って驚いた、私のちょっと気になっている嵐之真が、すっしぃさんのところのゲオルギー大公役で、鷹揚でおかしくてよかったのが印象的でした。次は真ん中あたりのお役が来ますようにー!
 グレアナ兄弟は聖くんと奈央くん、麗しかったです。イリーナニーナはるるちゃんと風羽ちゃん、可愛かったです。
 ひばりちゃんのヴェスパーはやはりさすが場数が違う印象で艶やかでしたねー。みうさくん、のあんくんもよかった。そうそう、愛未サラちゃんのアナベルもとてもはっちゃけていてよかったです。
 あとはやはりましろん劇場でしたかね…M長官とドクトル・ツバイシュタインの二役に扮した真白悠希、圧巻の出来でした。あ、きよちゃんジャンのところの波輝くんの身体能力も優勝!でした。


 星組大劇場公演は中止期間が延びてしまい、もともと公演期間が短い演目だけに暗雲立ちこめておりますが、こちらはなんとか完走できそう…かな? どうぞ健康第一、安全第一で、無事ゴールを切ってくださいませ。
 今のスカステニュースのゆりかの卒業トークコーナーもめっちゃ楽しいです。ホント良きトップコンビとなりました。寂しいけれど…でも、マイ楽のお芝居のラストソング、「♪君に~会えて~(ン)よーかーあったーーーー」の絶唱の「ン」を聞いたとき、私は成仏できた気がしました。まかたん、フォーエバー…!!





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