駒子の備忘録

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ねえ、ナナ ~『NANA』再読~

2023年12月17日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 矢沢あい『NANA』(集英社りぼんマスコットコミックス クッキー 既刊21巻)

 私は矢沢あいが台頭してきたころに「りぼん」を卒業しました。なので大人になってからまず『天使なんかじゃない』を読み、よくできていておもしろいことに感動し、これは連載当時のリアル女子中高生は夢中だったろうよ…!と心底思いました。そこから『ご近所物語』や『パラキス』もひととおり読んで、『NANA』は「Cookie」創刊時から読んでいたかと思います。とりあえず手元にあるコミックスは第3巻以降はすべて初刷りでした。
 私はコロナ禍以降、愛蔵しているコミックスを1日1冊再読する…みたいなことを断続的にしているのですが、この作品は連載中断中で、かつ続きが描かれる可能性がなかなかに低そうなことがつらすぎて、再読できないでいました。が、先日なんとなくやっぱり読みたい、となって、いい感じに細部を忘れていたので、とても楽しく読んでしまったのでした。
 美点はいろいろある作品ですが、私が今回感じたのは、今萌え萌えで見ているイタリアの医療もののテレビドラマ『DOC』に似ているかもな、ということでした。これは現代のミラノにある病院が舞台で、内科医チームの群像劇…みたいなものなのかな? メインの筋はありつつも基本的には一話完結で、運び込まれた患者たちの病気や問題が解明され改善されていく…というようなドラマです。でも、ただグルグルはしていなくて、ドラマの中で時間がけっこうガンガン進むのです。なので人間関係がかなり変わっていくんですね。つきあっていた者同士が別れてただの同僚に戻ったり、それぞれまた別の相手と付き合い始めたり、同棲を始めるとか結婚するとか離婚するとか異動するとか故郷に帰るとか亡くなるとか…キャラの出入りもけっこうある。でもとにかく、この「関係性の変化」がけっこう新鮮だな、こういうことが描かれる物語って実は少ないんじゃないのかな、でも人生って本当はそういうものだよな、などと感じていて、毎週おもしろく見ているのです。
 物語って、どうしてもスタートとゴールがあって、たとえば運命の相手同士みたいなメインカップルがあって、それが艱難辛苦の上に結ばれたら終わり、とかのパターンが多いかと思うのです。でもこのドラマは、スタート時にそう思えたカップルがいろいろあって別れて、それぞれ別の相手とつきあい出しても仕事場ではちゃんと同僚同士で信頼し合っていて…みたいな様子が描かれる。改めて、欧米の人って本当に個人がしっかりしているし自分も他人も尊重する姿勢があるし、「大人」だなー、と感動するのでした。
『NANA』のキャラたちは実はせいぜいが二十歳前後の若者ばかりですし、そういう意味では全然大人ではありませんが、わずか一年ほどの物語時間の中で、キャラとキャラとの関係はけっこう激変しますよね。そこがこのドラマと似ているし、少女漫画としては目新しいな、と今回再読して改めて感じたのでした。
 まあナナはいろいろあってもレン一筋で、これは別れているところから始まって再会して元サヤ、という流れなのである意味で一番一途で単純ですが、ナナはそもそもノブとまず友達になったり、その後もヤスをめっちゃ頼りにして甘えていたりして、こういう恋愛以外の関係性を描くのも上手い作品だよな、とも感じます。
 さらにもうひとりのヒロインの奈々はといえば、それはもう不倫リーマンから始まってめくるめく恋愛遍歴(笑)を重ねてのデキ婚、という派手派手しさなワケです。実はこういうことも少女漫画ではなかなか描かれないので、当時も今もやはり新鮮で斬新に感じますし、とてもいいなと思います。奈々には確かにちょっとフラフラしたところはあるんですが、でもそれってわりと女子として、いや人間としてナチュラルなことだとも思うし、そのときどきの恋愛にはそれなりにちゃんと一途なんですよね。ただいろいろな要因で長続きしなかっただけで。これもリアルあるあるだと思いますしね。
(それで言うと私が『キャンディ・キャンディ』を高く評価しているポイントのひとつにも、この点があります。それこそ半世紀前の少女漫画で、ヒロインが複数回恋愛することが描かれることってほぼなかったのではないかと思うからです。キャンディは幼いなりにアンソニーともテリーとも真剣な恋愛をしています。またフッたフラれたでない失恋、別離を描いているのも画期的だったと思います。もちろん最後は初恋の相手が実は…エンドなのでその意味では王道の「運命の相手もの」なんだろうけれど、この過程が大事なんだと思うんですよね…)
 女子中高生向けの、学園ものメインでない、さりとてレディスコミックとも違う女性漫画、女性漫画誌が生まれて久しいですが、当時も今も、こうしたオトナな視線を持って作られる作品って意外とないし、音楽シーンや携帯電話その他含めて時代的にアレとなっても、今なお新しくて素晴らしい作品だな、と思うのでした。作中の年代が書き込まれているので、その時代の物語なのね、として読めるので、その意味で古びないのも強いですよね。
 で、だからこそ、続き、続きをプリーズ…!とホント思うのでした。連載中断にはいろいろなケースがあるので、一概に言えないことはわかっているのですが、それでも始めたからには完結させるのが創作者の義務だ、ということは肝に銘じていただきたい…!
 お話はレンの事故死と葬儀まで描いて中断しています。その数巻前から、この数年後、みたいなシーンが挿入されるようになっていたので、そこが物語としてのゴールで、そこまでの過程もほぼほぼなんとなく見えてはいるんですよね。早ければあと2巻分くらいで描けるような気もするんです。そこを、早く埋めてほしい、読ませていただきたい…!
 この数年後、奈々はスタイリストみたいな仕事をして働いているようで、娘の皐と白金で暮らし、ときどきナナと暮らした部屋を覗きに行っている。シンは芸能界に復帰していて俳優として活躍しているようで、ノブは実家の旅館を継いだらしく、ヤスは何をして働いているのかはわかりませんが美雨といて、みんなと友達づきあいはしている。タクミはロンドンで仕事をしているらしく、レイラもナオキもイギリスにいる模様。彼らのそばにはレンと呼ばれる少年がいる。そして、髪が長くなったナナがイギリスで歌っているらしいという消息が知れる…
 つまり、レンの葬儀の後、ナナが失踪し、トラネスもブラストも活動休止か解散して、奈々が幸子と呼んでいたお腹の子供は生まれてみたら男の子で、それでレンの名を取って名付けられたんですよね? 皐はそのあとに生まれた娘なんですよね? どちらもタクミの子供なんですよね? そのあたりまでは、タクミと奈々の夫婦関係はなんとか成立していたということなのでしょうか。今も、イヤそもそもスタートからしてアレだというのは別にして…
 タクミが今ロンドンにいるのは音楽の仕事のオファーがあったからではないか、と私は推測しているのですが、イギリスに去ったレイラを追って…とかではないことを望みます。私はキャラとしてはタクミが好きなんですよね。読者人気があるのは優しいヤスとかノブかな、とかも思うんですけれど。私は彼の仕事ができるところや非情でも割り切れるところなんかが好きです。もちろん彼にも割り切れきれない部分はあって、そういうところを結果的にでも妻の奈々がフォローしている形になっているのも好きです。彼の結婚観とか妻の尊重のし方もいろいろアレではありますが、でもやはり彼なりの考えや矜持やこだわりや誠意があることはわかるし、私自身は全然奈々に似ていないしなれるともなりたいとも思いませんが、そういうのをひっくるめていいなーと思っちゃうのです。
 ただ彼の仕事のスタートはレイラを上手く歌わせたい、というところにあるので、結局そこかい、ってなるセンもあるのが不安なのですが…
 まあでもこのあたりは所詮脇筋です。だいたいの話はできていてもう描かれるだけになっているんだとしても、なんならナレ説明で済ませて飛ばしてもかまわないくらいなワケで、読者が求めているのは要するにラストシーンでしょう。まあぶっちゃけ、ついにナナの居場所を探し当てた奈々がナナに駆け寄り、海をバックに抱きついて抱きしめて終わり…とかでいいんだと思うのです。タイトルロールはナナと奈々、ふたりのNANAのことだと私は考えているので、ふたりが出会ったところから始まる物語が、ふたりが再会して終わる、というんで十分なんだと思うのですよ。それからしたら奈々のその後の結婚生活の描写なんか些末なことなのです。
 生きてさえいれば、また出会える。傷も癒やせる、乗り越えられる。つらいことはなかったことにはできないけれど、できるだけ忘れて、再び歩き出せる。家族や友人の支えもある。ナナは母親や妹とは疎遠のままかもしれないけれど、でもナナには奈々がいる。赤の他人だけれど、名前が同じの、同い歳の、運命の相手…これはそういう物語なのではないか、と私は思うのです。
 そのラストシーンを、見たい。ほぼわかっているようなものだとしても、きちんと描いてもらいたい。『王家の紋章』はグルグルのまま作者逝去でもいいけれど(オイ)、『ガラスの仮面』とこの作品は(あとそこまでメジャーじゃないけど私が切望しているのは『EXIT』の続き…)、なんとか完結していただきたい…
 改めて、そう思ったのでした。
 でももう、今は新規読者も入っていなくて、忘れ去られつつある作品なのかなあ…寂しいなあぁ……ねえ、ナナ?







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