駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『EXIT』の出口はどっちだ?

2020年06月21日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名は行
 何度か語っていますが、私は自分にまったく素養がないのでだからこそ音楽もの漫画(何故か映画や小説、演劇ではそこまで惹かれないモチーフなのです)が大好きで、クラシックのくらもちふさこ『いつもポケットにショパン』や二ノ宮知子『のだめカンタービレ』、アイドルというかロックシンガーがモチーフの作品ですが上条淳士『TO-Y』など、いくつかのコミックスを愛蔵しています。『おしゃべりなアマデウス』とか『花音』とかも好きでした。才能と愛憎の絡み合い、みたいな物語が大好物なのと、漫画が音楽を直接は聴かせられないのに表現できてしまうところ、に妙味を感じているんですね。
 バンドものとしてより私はラブストーリーとして評価しているのですが、矢沢あい『NANA』も好きで、続きを待っています。こちらはあと1巻か2巻で完結しそうなところで連載がストップしていますよね。ストーリーとしてはほぼ見えているようなところはありますが、それでもきちんと完結まで読ませてほしいなー。ご病気とも聞きましたが、その後いかがお過ごしなのかしらん…首を長くして待っています。
 そしてそれと同様に「ねえ、まだなの…?」と涙目になりながらずっとずっと続きを待っているのが、藤田貴美『EXIT』です。白泉社花とゆめコミックスのときから買っていて、掲載誌が変わって版元が変わって、新装版で出直したときにも買い直しました。ソニーマガジンズのきみとぼくコミックスで7巻まで、8巻以降は幻冬社バーズコミックスで出て、2011年4月刊行の12巻で止まっています。最後の方は雑誌掲載ではなく電子配信だったようで、08年7月の記載があります。ちなみに第1話の掲載は89年6月だったとのこと。うーん、歴史を感じるなあ…
 BOOWYがモデルだとも聞きますが、私はそれこそ素養がないのでそういうことは全然どうでもいいのです。ただ、キャラクター布陣がすごくよくできていて、話が着々と展開しているので、そしてこういう物語って描き始めたときには作家の中ではもうオチは決まっていてそこ目指して描かれていたんじゃないの?と思えるので、読者としてそのラストまできっちり読ませてほしい、というだけなのです。キャラ萌えはそんなにしていないので(強いて言えば凡ちゃんですが)、あくまで物語を追いたい、この先とオチを知りたい、という感じです。まだあと5、6巻分はあるのかなと思いつつ、終わりの始まりはもう仕込まれているように見えるだけに、なおさらです。

 主人公はボーカルの少年。クラスメイトとバンドを組んで、プロを目指してコンテストに出て、夢を追って事務所に所属して、バイトして、バックシンガー務めて、事務所の先輩バンドに仲良くしてもらって、ギタリストを身請けして、元カノが出戻ってきて、ベーシストと出会ってドラマーと出会って、事務所の社長に独立されるも居残ってアルバムデビューし、やる気のないマネージャーに放置されてツアーし、気に入ってくれる音楽ライターが現れ、契約期間切れを機に独立し、買ってくれるレコード会社の社員が現れ、かつてのクラスメイトに経理とローディを任せ、大手レコード会社のディレクターにコナかけられ、かつての事務所社長が独立した先と契約し、熱心なマネージャーに恵まれ有能なプロデューサーに恵まれてロンドンでレコーディングし、応援してくれる音楽評論家が現れ、追っかけを撒くようになり、テレビの音楽番組で司会者を泣かせ、渋谷公会堂を埋め、日本武道館が決まってチケットがハケた…ところまでで、お話は止まっています。
 このバンドの曲はすべて、ボーカルの卓哉が作詞、ギターの凡ちゃんが作曲しているもので、どのバンドもほぼそうだそうですがこのフロントふたりがバンドの要、とされています。が、卓哉がなんとはなしに作曲したものをあるとき凡ちゃんが聴いて、ある種のショックを受けるエピソードが、わりと早くに描かれています。一方で凡ちゃんには、シンガーソングライターとしてアイドル的な人気があったものの実は作曲家にゴーストライターがいたことが発覚してスキャンダルになった女性シンガーの復帰アルバムに、ギタリストとして参加の口がかかる。「かけ離れて」るから、今までと何も変わらないはず、だけれど、曲のアレンジでもライブの演出でもなんでもツーカーだったふたりの感覚が、少しずつズレていきます。さらに一方で、事務所の先輩格で人気絶頂の、業界トップのバンドのボーカルは喉を痛めていて、ステージが中断される…
 ね!? ドラマが十分に仕込まれているんですよ!
 凡ちゃんはこの女性シンガーとラブになるんだろうし、卓哉はひなちゃんとずっと同棲していてラブ的には波風ないんだけどバンドの人気がここまで来るとスキャンダルになる展開も控えているのかもしれないし、卓哉の歌に惹かれてドラムとローディの見習いをちょっとだけした少年ユズルがこの先どう絡んでくるのかも伏線あるし、先輩バンドはボーカルの才能と人気とカリスマでバンド内がむしろぐちゃぐちゃで(もちろん「一之瀬くん」がツボです。てかこの4人もいいキャラ、いい関係性なのでスピンオフが読みたい!)、薬で騙し騙し歌っているような状態では業界トップの座交代の日も近そうです。卓哉の「勝ちたい」という想いが実を結んでしまうかもしれない、でもそこがはたしてゴールなのか? 卓哉もまたその先で彼のようになってしまうというだけのことではないのか? そこでこの物語は何を描くのか? それを知りたいのです。
 バンドって、ちょっと考えればあたりまえのようですが長く続くものも解散しないものも稀だそうで、それはやはり音楽性の違い、ひいては人間性の違いが原因となるそうで、それは人間同士のやることなんだからこそなのかもしれません。この物語も、「天下取ったぜやっぱり俺たちサイコーだぜ、これからもさらに高み目指して一緒に突っ走ろうな!」完!!か、「喧嘩別れじゃないよ、みんな音楽を愛しているしそれぞれお互いの音楽をリスペクトもしているよ、でも違うんだ笑顔で別れよう元気でな」完…かの二択だろうとは思うのです。誰かが刺されて死んで引き裂かれて終わるような悲劇的結末はさすがにないと思っているのですが、どうだろう…鬱ターン、どん底展開はあるかもしれませんよね、それもまた少女漫画の醍醐味です。ともあれ作者の中には絶対に物語の筋道ができているはずだし、一時期荒れた絵も少し戻ったし、もはやレコードとかランキングとかライブ動員数とかの時代ではないのかもしれないけれどそれでも、全体としてまだまだアリだと思うので、続きを描いていただきたいのです! 読みたいのです!!

 数年前にはラノベか何かの挿絵の仕事をやっていたとも聞くので、完全に廃業してしまったわけではないのかもしれませんが、どうしているのでしょうねえ。もう復帰の芽はないんでしょうかねえ?
 漫画の絵(イラストとは違う)が描けることとネームが切れることって私はとても特殊な才能というかテクニックだと思っていて(まあなんでもそうなのかもしれませんが)、この先フルデジタルフルカラー縦スクロールのボーンデジタル漫画が主流になっていくのだとしても、誰にでもできるものではないし、この技を持っている限り仕事の需要は尽きないと思うんですよ。業界全体の原稿料レベルはデジタル隆盛でむしろ落ちていると聞くので、残念ながら食いっぱぐれがないとまでは言えないんだけれど、その気になればいくらでも商業的な発表の場はある、と思うんですね。大手版元のメジャー誌で連載しなくなっても、BLでもTLでも電子でもなんでも、引き続き描いている漫画家さんってたくさんいます。そこに貴賤はないし、そこも同じように玉石混淆で、ちゃんとしているものもおもしろいものもたくさんあります。だから他人と最低限のコミュニケーションが取れて、手が病的に遅くなければ(なんせ上がらないものは載らないので)、仕事は切れない、のではないかと思うんですよね。あとはもちろん作家本人の「描く情熱」みたいなものが枯渇していなければ、なんだけれど、これまたオタクって死ぬまでオタクで描くのやめるなんてできないんじゃないかと私は思っているんですよね…
 なので、なんで描かないのかなあ、続き…と謎ですし、勝手に心配しているのです。描けないのかなあ、自分のためだけにでも描けばいいのになあ。それともちょっとエゴサすれば「続き待ってます」なんてコメントはすぐ何百と拾えると思うんですけど、たとえばそういうのは励みにならないのかなあ。
 このコミックス、どうしようかなあ…続きが別の版元から別のレーベルで出たときに、また出し直してくれるなら、今は手放してもいいのだけれど、今どきそんな体力あるところって少ないですよね。今、版権どうなっているんでしょう、せめてちゃんと漫画のレーベルがあるところと仕事してくれてればなー…これ多分、電子化されていませんよね? となるとコミックスを手放すともう読めなくなるわけです。表4に毎巻いろんな形の「X」が入っているのも含めて、カバーイラストもカバーレイアウトのコンセプトも粋でお洒落で素敵なコミックスなんですよね。手放したくはない、でももう本棚に空きがない。コロナ禍でまた買い込んじゃったコミックスを収める場所がないのです…
 ほとんど暗記している感じはあり、もう未完で終了だというなら、ここまでということですべてなかったことにして、売って場所を空けたい気もしているのです。未練を残させないでほしい…
 と、本棚を前に悶々とする日々なのでした。ちなみに棚板がたわんできているので本棚も買い換えたい、とかさらに悶々としています…出口はどっちだ!?


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