駒子の備忘録

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泰三子『ハコヅメ』

2023年04月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 講談社モーニングKC全23巻
 辞表を握りしめた新米女性警察官・川合の交番に、何故か刑事課から超美人の藤部長が配属されてきた。岡島県警(の男性陣)を絶望に陥れるコンビの誕生である…理不尽のち愚痴、ときどきがんばる、誰も見たことのない警察漫画。

 ドラマ化の前後に、17巻まで親友に借りて読んだときの感想はこちら
 その後は毎週「週刊モーニング」でも連載を追っかけて読んでいましたが、第一部完ということで全巻ボックスが漫画全巻ドットコムから出たので、新調した本棚にまだ余裕があることですし(笑)自分でも持っていたくて、ついポチッとしてしまいした。
 1巻の刷数は思っていたほどでもないなという印象で、世評ほど売れていなかったのか、一回の重版部数が大部数だったのかはナゾです。雑誌ではいつも巻頭から3、4本目に掲載されていたので、人気はあったんだと思うんですよね。でも紙より電子で売れるタイプだったかなとは思うし、なんなら課金はせず毎回無料で読むだけで済ませている読者が多かったのかもしれない…とは思います。親友はバッサリ「性犯罪を追う女性警察官の話なんて、おじさんたちが読むわけないじゃん」と言い切っていましたが…
 まだまだ続けようと思えば続けられたんでしょうけれど、長尺ものはどうしても紙コミックスの部数が落ちてくるものだし、何より漫画家さんの興味関心が次へ行ってしまったようですね。それでこの作品はこのあたりで一度ひと区切りとして、違うものも描いてみたい…ということでの連載切り替えだったようです。で、その新連載は無事始まったのかな? 最近雑誌を読んでいないのでわからないのですが…
 お話のオチは、人事異動で川合と藤のペアが解散し、新たに異動したきた同期の男子と組むことになった川合が、連載第一話で藤がやっていたのとまったく同じことをやってみせて終わる、という実に美しいものでした。最初から考えていたオチなのかもしれません。だからまあ、当初描きたかったことはまあまあ描ききったんだろうし、でも連載が長期化すると物語の時間より実際の時間の方が早く進んで、その間に世間の空気も常識も法律も変わるし、元女性警察官の漫画家が描く作品として、そういう現実との乖離を嫌って、一度物語を畳むことにしたのかもしれません。もちろん未来に向けた構想はあったようで、たとえば川合が警察学校の校長になっている未来の場面なんかはすでに描かれていたので、そこに至るドラマを全部ちゃんと見せてくれよ…という思いは読者としてはあるのですが、作者はある種気がすんでしまっているのかもしれません。
 でも、物語としてはやはり完全にはオチきっていないと思うので、ここで放り出すのは読者と作品に対してやはり不誠実だと私は思う。なので5年くらいのうちには戻ってきて、5巻分くらいでいいからさっと続きを描いて、きちんと完結させてほしいなー、と願っています。
 川合が警察学校の校長になっているとき、結婚指輪をしているので既婚なんだと思うのだけれど、まだ川合と呼ばれていて、警察は旧姓の通称使用が認められているようなので単にそういうことなのか、はたまた夫婦別姓が選択できる世になっているという想定なのか…は謎です。が、知りたい。夫が誰か…はどうでもいいかな。別に如月でなくてもそれはかまわないと思うのです。
 また、それとは別に、川合は何やらいわくありげな初体験(という表現もどうかと思いますが)をすることになるようなこともすでに描かれているのですが、このあたりもちゃんと読みたい。というか相手が如月なら、あるいは如月でないのだとしたら何故そうならなかったのか、の経緯を知りたい。あとはせめて彼のために水族館デートは行ってやってくれ川合、頼む。
 つまりそれくらい、私は如月昌也というキャラクターを愛し案じその幸せを祈っているのでした。いっとき、殉職とかさせたらマジ許さん、みたいなターンがありましたが、もしそういう構想ならそれも教えてください先生…(ToT)
 ところで、そんなわけでもうすぐ四十年の付き合いになる親友と三人でコミックスを回し読みした際に、持ち主は副署長を、もうひとりは山田を推しキャラにしていました。ホント何もかもが被らないんだ私たち…
 それはともかく、そんなわけで私はもうどうしてもこのテのタイプがキャラクターとしてツボなのでした。ザンネンなイケメン、という部分よりも、不器用な秀才、みたいなのが好みなんです。源みたいな天才で変人、みたいなのには私はそそられないのでした。次点は、また少しタイプが違うけど上杉、とかね。
 バリッとしたスーツ着て爪先とんがった革靴履いて、知能犯やインテリヤクザ相手に対抗してブチかます敏腕刑事で、ハンサムで、AV検定8段(笑)。モテるし来る者拒まずで彼女が切れたことがないタイプなんでしょうけれど(今はお疲れでお休み中で、昇進と静養と羽根伸ばしのために異動してきたわけですが)、その実まったく恋愛に熱いタイプではなく、なんならセックスもやるより見る方が好きと公言してはばからない、というキャラです。それは彼が美形だから周りからはギャグとして流されて成立しているんだけれど、彼にとっては単に本当のことで、それは彼が幼いころに女児に間違われて性犯罪被害に遭っていることが原因なので、これは彼にとって、というか誰にとってもまったく冗談ごとではない、とんでもないことなのでした。
 この国では性犯罪被害者のほとんどが女性でしょうが、そのケアも全然行きとどいておらず、まして少数の男性被害者のケアにいたってはほぼ何もされていないに等しいのではないでしょうか。今は多少は進歩しているにしても、如月が子供だったころになんらかの救済システムが機能していたとはとても思えません。そして幼き如月は、友達かつ女子である藤が自分と同じような被害に遭わないように努めることに必死で、そして自分のことは受け止めきれず誰にも言えず蓋をし棚上げし、その後は上手く忘れたふりをしてなんとかやってきたのでしょう。彼は賢いし強いから、そうやって自分の心を守ってきたのです。でもやっぱり弊害というか影響は出てしまうもので、思春期以降、自分の身に湧く性欲も他人が自分に向ける性欲に対しても、上手く対処ができないできたのでしょう。というか、性欲とは汚いもの、という感覚が拭えなかったんだと思います。だから楽しくない、気持ち良くない、あるいは快感より罪悪感が勝つ。なので好きな人とセックスする、とかが考えられないわけで、AVを眺めている方がよほど気楽だったということなのでしょう。
 そんな彼が、川合に恋をしているんですよ…しかも川合のスピードが激スローかつ方向がやや明後日なハートの針路に、必死で合わせようとしているんですよ…報われてくれ、幸せにしてやってくれ、と念じて泣かずにはいられません私……
 作品の本筋とは関係ないターンなのかもしれませんが、そこは描いてくれませんかね先生…お願い……これプリントしてモーニング編集部に送ろうかな………(重い)
 というかこの作品は女性警察官を主人公とした日常もの、職業ものだと思うんですが、最終的なテーマというかメッセージは、女性警察官を増やすこと、女性幹部も増やしより女性が働きやすい組織にすること、女性が被害者になりがちな性犯罪を減らし、そうした事件を男性警察官ばかりで扱う事態も減らすこと、今より男女ともに暮らしやすい平和で安寧な世の中を作ること…あたりにあるんだと思います。なので男性の性犯罪被害者で刑事である如月は、この作品が、世界が目指す最終的に救うべき存在なのであり、あたかも北極星のようなものなのではないかと思うのですよ。なのでそこまで描いてあげてほしいのです…彼のためにも、作品のためにも。
 なんだっけ、初めが半分、みたいな、始めることが一番大変で始めてしまえば半分がた終わったみたいなもんだ、みたいなことわざだか言い回しだかがあったと思うんですけれど、それでいえば如月は川合を知ったこと、出会ったことだけでもう半分がた救われているのかもしれません。眠れない夜の過ごし方を、もう彼はひとつ手に入れたのですからね。日にち薬が年月かけて癒やしてきた傷が、最後の一治癒を迎えている…と言ってもいいのかもしれません。どうか彼をこれ以上傷つけないであげてください、泣かせないであげてください、幸せで、健やかでいさせてください…私はそう念じているのです。
 ドラマにもアニメにも如月は登場しなかったけれど、それでよかったかな。私はわりと唯漫画論者(なんだソレ)なので。なので気長に第二部、あるいは完結編連載開始を待ちたいと思います。始めたものは終わらせる、それは作家も編集部も読者と作品に対する義務だと思って、是非ともがんばっていただきたいです…!!!








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