駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『プロミセス、プロミセス』

2021年12月08日 | 観劇記/タイトルは行
 シアター・ドラマシティ、2021年11月14日11時半。
 東京建物ブリリアホール、12月2日18時半。

 ニューヨークの総合保険会社に勤める経理担当のチャック(芹香斗亜)は、社員食堂に勤めるフラン(天彩峰里)に心惹かれているが、相手にもされず空虚な毎日を過ごしていた。そんなある日、チャックは会社の重役から、妻には言えない秘密の逢い引きのためにアパートの鍵を貸してほしいと頼まれて…
 翻訳・演出/原田諒、オリジナル翻訳/伊藤美代子、音楽監督・編曲/玉麻尚一、振付/麻咲梨乃、装置/松井るみ、衣装/有村淳。名作映画『アパートの鍵貸します』をベースにニール・サイモンが脚色、作曲家バート・バカラックと作詞家ハル・デヴィッドによる軽快な音楽で1968年にブロードウェイでミュージカル化、2010年リバイバル上演したものを宝塚歌劇バージョンとして新演出で上演。全2幕。

 映画はちょうどこのコロナ禍でテレビ放送があったのでたまたま見ていました。それ以前にも見たことはあったろうけれど…お洒落な作品でしたよね。ミュージカル版は未見、日本でも何度か上演されていましたよね。
 上演回数も少ないし、権利の関係で円盤化もスカステ放送もなさそうとのことで(「タカラヅカニュース」ではわりとたっぷりやっていて、カテコのご挨拶のみだったこともある過去のブロードウェイ演目よりはマシかなと思いましたが)これまたチケット難でしたが、なんとか東西一度ずつ観られてよかったです。 
 ぶっちゃけたわいない、なんてことない話なんだけれど、とにかく構成が上手い、脚本が皮肉やユーモアの度合いも含めてとにかく上手い、翻訳もいい、セットやお衣装がお洒落でキュート、楽曲は私が知っていたのは2曲のみでそんなに耳馴染みがいいとも思わない難しめのものだったかと思いますが役者の歌唱が良くていい、そしてもちろん役者の芝居が良くてアンサンブルの隅までちゃんとしていて、ざらりとするリアリティがロマンチックなハッピーエンドに回収されて笑って泣ける、とてもいい作品でした。こんな気持ちになれることってなかなかないです! このレベルのものをオリジナルでコンスタントに作ってくれ劇団!! もう107年だろうそろそろできるようになっていいはずですよ!?!?
 どこまでがブロードウェイ版ママなのでしょうか? 多少は足したり引いたりしているのかなあ? それで邪魔していないんだったら今回の原田先生は本当にいいお仕事をしましたねえぇ…!
 チャックの故郷のガールフレンドの名前のジョークがわかりづらかったのと(私は今でもよく理解していません…「鴨野鶏子」みたいな名前だということ?)、大詰めでチャックがシェルドレイク(和希そら)にキレて言いつのる台詞が日本語としてこなれていなくてわかりづらかったこと…だけが難点だったかな。あれはかなり英語っぽい、文学っぽい表現で、海外小説の翻訳を読み慣れている身でも耳で聞いて理解するにはつらい構文でした。かつ、今回滑舌が劇的に改善されていたキキちゃんが、さすがにあそこでは舌が回りきっていなかったので…もっと短く刻むか言い回しを変える工夫が欲しかったです。あとは、そもそもタイトルが約束とか契約とか誓い、というようなものから来ているのだ、とわからせる工夫ももう一押し欲しかったかな。プロミスは理解されている言葉だとしても、プロミセスってナニ?ってなるのが多くの日本人だと思うので…なんせチャックの「約束だ!」が私には2回の観劇とも「役職だ!」に聞こえて、今上司に喧嘩売ったとこやん!?ってなっちゃいましたからね(^^;)。
 それはともかく、総じてストレスのない、本当に良き舞台でした。
 その立役者がまずキキちゃんチャック、ホントよかったなあぁ! スターとしてのキキちゃんにノー興味の私でも下を巻きました。
 そもそも題材からしても、彼や重役たちのキャラにしても、今リアル男優に演じられたらけっこう「ケッ」ってなると思うんですよ。不倫の物語なので宝塚歌劇向きではないかも…みたいに語る生徒もいましたが(不倫という言葉を発しないようにすらしているようでしたが。てかこの言葉って突き詰めるとちょっと変だけどね…婚姻と恋愛と倫理の関係性において)、むしろ今やるなら宝塚歌劇でしか成立しない演目だったのかもしれません。ぶっちゃけ大概の成人女性がどの立場であれちょっと脛に傷持つような、心当たりがあるような、苦い思いをしたことがあるような、ないような…なネタを、上質なコメディと人間ドラマに変換し、女性観客を共感させるチャーミングなラブコメディに変える魔法は、よそではなかなかかけられないのではないかと思うのです。
 そんな世界の中でチャックはある種無色透明なようなキャラクターなワケですが、これをまたてらいなく嫌味なくしょーもなさすぎず好感度高くやってみせるのには、意外とテクニックと何より愛嬌がいると思うのです。キキちゃんはさすが絶妙でした。笑わせようとしすぎないところもよかったし、膨大な台詞を難なくこなしていて、いつもはわりと「なんて言った!?」って耳をそばだてたくなる(使い方違うかな(^^;))滑舌の甘さもほぼ払拭されていて、脚が長くてスマートでチャーミングでいじらしくてでもへっぽこで、抜群でした。『~ガーシュウィン』といいまた記録に残らない主演作となりますが、みんなの記憶には残るよ大丈夫だよ、そして2番手で濃い役をやらせまくるのももう限界だしこういう主人公像にも今でもハマれるスターであることも証明できたので少しも早く真ん中に置いてあげてください(一息)、という気になりました。がんばれー!
 そしてまたヒロインのじゅっちゃんがいい、本当に上手い。なんでもおじさまに奢ってもらって贅沢を楽しんで…みたいな関係をライトに楽しむには真面目すぎ重すぎ、会えない時間で編み物しちゃうわ毎日電話しちゃうわで、一度は別れたのに呼ばれればまた会っちゃうし、離婚してくれなんて言っていないけれどではどうしたいのかどうなりたいのかという展望も持てない…という、ウザいけどいじらしいヒロイン像をきっちり、かつ可愛く演じていてこれまた抜群でした。歌が上手いのはもちろんです。あとしゃっくり芝居の上手さね!
 でもMVPはそらかなー、本当に素晴らしかったですよねー。もう卑怯なまでに声がいい、芝居が上手い、色っぽい。それでこの絶妙な脚本での絶妙な不倫男っぷりを演じてみせて、「これは仕方ない」って観た人全員が思っちゃいますよね。ホントこーいうこと言う男っている!とかホントこのタイミングでどーしてこう男って…!とかの連続でしたよねー、いやホント上手い。また彼の家庭の描き方も実にちょうどよかったと思うんですよ。あくまでテンプレみたいな妻、子供の見せ方に徹したところが、ね。
 しかし私はミス・オルスン(瀬戸花まり。また絶品の上手さでした!)は「彼女、もうとっくに知ってるわよ」とつなげるのかと思ったんですよね。でも知っていて何も言わない、離婚のりの字も出さない、のは日本の妻のイメージなんでしたね。次に、こう脅しておいて実は言わない、のかと思いました。それもまた日本の女の優しさ、あるいは度胸のなさのイメージによるものだったんですね。実際にはミス・オルスンは宣言どおりちゃんと妻に告げ口し、妻は即刻子供を連れて家を出てちゃんと離婚が成立する、それがアメリカなんですね。妻はおそらく慰謝料も養育費もたっぷりもぎ取って、今まで専業主婦だったんだろうとこれからの暮らしに困らないほどには経済的に保証されるのでしょう。ひとりでは、あるいは母子だけでは食べていけないから別れられない、という妻が大半であろう現代日本とは雲泥の差なワケです。この事実にもちょっと打ちのめされましたよね…そして離婚が男社会の中でどれくらい傷なのかあるいは勲章扱いされるのかは、日米ではもしかしたらあまり差がないのかもしれませんが、それこそ男社会の話なのでどーでもいいです。また、しどりゅー以下四人の楽しげな不倫おっさんズたち(笑)は若くて本当に仕事もできるっぽいシェルドレイクとは世代もサラリーマンとしての生き方も恋愛観もちょっとタイプが違うのかもしれません。そんな多様性もどーでもいいけどな!(笑) 
 でもまっぷーりっつ澄風くんみんなまた上手くてきっちり笑いを取るんだコレが…お相手のさらちゃんシルヴィア(花宮沙羅)もバーバラ(風羽咲希。初めて認識しましたが、ショートの鬘が似合って、ちょっと桜乃彩音に似て見えて、好き!とときめきました)も、フランと違って割り切って楽しんでいるっぽいのがまたいいですよね。割り切れているなら、それはそれでいいのではないかと私は思うのです。妻に対する責務は夫である男が負うもので、その愛人である女の関知するところではないと思う。シルヴィアも真剣に恋愛してるからではなくて、骨までむしゃぶりつくしたいから貪欲に暴れているだけ(笑)なのでしょう。はっちゃけてるさらちゃんのキュートさ、たまらん!
 そして前述したミス・オルスンがまた絶品なワケですよ! せとぅーの芝居もいいが脚本の中での描かれ方もいい。これをただの嫉妬深いお局さまキャラにしちゃう凡百なドラマを過去に数多見てきましたが、この作品は違うんです。もちろん彼女の行動の要因にはフランへの嫉妬もありはしたでしょう、でも先輩からの助言という側面の方が強い。ある種のシスターフッドを感じさせるのです。そして自身はきちんと小金を貯めて新天地へ向けてさっさと旅立ってみせる…素晴らしい。彼女は絶対に幸せになることでしょう。
 その他、OLちゃんたちはみんなお衣装も髪型も可愛くて、目が足りなかったです。もっと回数を観ていちいち識別したかった…! そしてフランのところに花束が届いたとき、相手について冷やかしはしても「相手はどこの誰なのか、いつ結婚するのか」とか必要以上に詮索しないところ、ただフランに恋人がいることの幸せを寿ぐところとかも、いかにもアメリカ的で素敵だなと感心しました。
 目が足りないと言えば2幕冒頭の「怪しげな八番街のバー」(すごい場面タイトルだ(笑))もで、あの!どってぃがめっちゃ色気ダダ漏れなバーテンダー役だわ、嵐之くんがこれまた色気で飛ばしてるわ、さらにはりっつってどーしてこーいうモブでそーいう役作りしてくるの!ってつっこみたいわ、でもうタイヘンでした。娘役ちゃんたちもここはみんなセクシーなパリピっぷりで、観ていて目が楽しかったです。
 そしてあられ休演で急遽の代役となったあーちゃんマージ(留依蒔世)ですよ…! 発表は初日の1週間前とかだったと思うんですけれど、大変だったことでしょうね。しかしあーちゃんは歌えるし踊れるし芝居もできる人なんですけど、これは本当におもしろくて素晴らしかったです。敢闘賞! フランの兄カールとの二役ということになってしまったのが、またおもしろすぎました。でももちろんきっちり務めていましたね。
 ただ、あられマージも観たかったなとはやはり思います。そしてあられも元男役ではありますが、現役の娘役がやるマージならやはり今の圧に寄り気味の色気とは違う、ちゃんとした(?)色気が醸し出されて、チャックはもっと鼻の下を伸ばす展開になったんだと思うのです。それはフランがシェルドレイクとの愛欲に溺れているのと同等のことで、チャックだって人の不倫のことは言えた義理がなくて機会があれば無責任なワンナイトラブにやぶさかではないくらいのいい加減さがあって、フランの目が覚めるのを辛抱強く待っているだけの聖人君子なんかでは全然ないんだ…となる方がこの作品の正しい構図だと思うからです。今、チャックはちょっとイイ子ちゃんすぎますよね。男も女も愚かで弱くて卑怯で狡い、でもだからこそ愛しい…という感覚が根底にある作品だと思うので、いくら主人公でもチャックはもうちょっと汚れていいんだと思うのですが、そこは宝塚歌劇で男役が演じる主人公にちょっと甘いんですよね。
 ともあれ、あられの無事の復帰を祈っています。
 あとは専科デビューのまゆぽんですね、もう素晴らしすぎましたね! やはり組子でない人がやることに意味があるポジションでもあったと思いますし、しかし素晴らしい馴染みっぷりとワンポイント・アクセントっぷり、殊勲賞かと思います。今後の活躍にも期待大!です。
 もっと長く、がっつりクリスマス・シーズンまで上演してくれたら、もっと盛り上がったろうになあ…カテコもとてもお洒落でした。
 ラスト、舞台の奥のパネルが開いて光が差す感じに、泣けました。日の当たる方へ…今の朝ドラですね。あるいは、とある漫画のとある台詞を思い出しました。「ある朝目を覚ますと窓が開いていて自分が長いあいだ待ち望んだものの中にいることに気付くんです」(獣木野生『パーム スタンダード・デイタイム』より)。
 千秋楽の翌日にそらは雪組に組替えですね、3番手としてバリバリ働いてくれることでしょう。また女装かい、と言われそうですが、宝塚でも『ガイズ~』をやるなら咲ちゃんスカイにひらめサラ、あーさネイサンにそらアデレイドでハマるんじゃないですか…? ま、来年の外部版に関してはホント新演出に期待、ってところではありますが。前回の星組公演はホント翻訳といい演出といい言いたいことばかりだったので…
 閑話休題。ハッピーエンドは、コメディは人を幸せにします。劇団には良質の作品をバンバン世に出していっていただきたい、と切に願っています。四半世紀のファンとの約束だぞ!!!









コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『蜘蛛女のキス』 | トップ | 宝塚歌劇星組『柳生忍法帖/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルは行」カテゴリの最新記事