駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『バロンの末裔/アクアヴィーテ!!』

2021年12月16日 | 観劇記/タイトルは行
 梅田芸術劇場、2021年11月21日15時(初日)。
 沖縄コンベンションセンター、12月9日12時半(前楽)。

 20世紀初頭のスコットランド。由緒あるボールトン男爵家の次男として生まれたエドワード(真風涼帆)は屋敷を出て軍隊に身を置いていたが、双子の兄ローレンス(真風の二役)が病に倒れたとの知らせを受ける。急遽帰郷した彼を待ち受けていたのは、兄の莫大な借金の抵当に領地が入っているとの厳しい実情だった。穀物相場に手を出して失敗したローレンスは、エドワードがこの窮状を救ってくれると期待し連絡したのだ。エドワードをともに迎えたのはローレンスの婚約者キャサリン(潤花)だった。三人は幼い頃からともに育った仲だったが…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、作曲・編曲・録音音楽指揮/高橋恵。1996年月組初演、当時のトップスター久世星佳のサヨナラ公演の初の再演。

 初日雑感はこちら
 その後地方を回るにつれて、同伴者や初見者などが何が争点の話なのか理解していないようだ、というようなツイートをいくつか見ました。まあ、やはり地味といえば地味なんでしょうし、雉撃ちの丘でのドラマもそこからの石炭発見(?)からの大逆転も、わからない人にはわからないのでしょう…まあそこまで下のレベルのものをどこまで拾うか、という問題はあるにせよ、もうちょっとキャッチーに作るか、やはり全ツにはよりベタにわかりやすい演目を持っていく努力をすべきなのではないか、という課題はあるのかもしれません。私ももちろん好きな作品ではありますが、もの足りないと感じないわけではないので…
 あと、それとは関係ないっちゃないけど、たとえばリチャード(桜木みなと)やヘレン(山吹ひばり)は出てきた場面ですぐ会話の相手に名前を呼ばせて観客にもキャラ名を告知しろよ、とは思います。こういうことは基本のキだと思う。あと、主人公の生家が男爵家であること、当人は双子の次男にすぎず、この時代のこの国の貴族は爵位も領地も財産も何もかもを長男が継ぐこと、なので主人公はいわゆる部屋住みのほぼ一般人なのだということは冒頭にもっと明示しておいた方がいいと思います。だからタイトルに「バロン」とあるんだ、財産を兄弟で平等に分け合うわけではないのだ、という心構えを物語に臨む当初に観客にもっとさせるべきなんですよ。そういう気遣いが全然足りないことは気になります。口下手でぶっきらぼうでダンディーでカッコいいオレ、とかスカしてんじゃないよハリー! これは劇作家としてもっときちんと仕事しろって話ですからね。
 シャーロット(愛未サラ)がトーマス(凛城きら)の秘書という名の愛人で…というのもわかりにくいんだけれど、これは台詞を足すよりは芝居でわからせたかったところですが、一連のオチのウィリアム(瑠風輝)の「母さん…!」という台詞の不発さを含めて楽まで怪しかったかと思います。照明や移動の都合もあるだろうけど、もっと間を取ってから言わせるべきだったんじゃないの…?
 総じて、個人的に好きな作品なだけに、もっとおちついてたっぷり芝居してほしくて、乗り打ちも続くような全ツじゃそれは難しかったかー…と感じたりはしました。
 でも組子はみんなニンによく合っているお役で、良き再演になったかと思います。ノンちゃんのサヨナラ仕様部分もママでしたが、それだけわざとらしすぎず作品内に馴染んでいたということですもんね。ゆりかちゃんは軍服もスーツも本当に素敵で、いわゆるスーパーヒーローではないわりと普通の青年の役なんだけれど、それが普通にハマってかつカッコいいという、これぞファンタジーの男の中の男という(なんせリアルな普通の男はカッコいいわきゃないのがデフォなのである)、男役として仕上がりきった域に来ているなと思いました。『ネバセイ』は私は作品的に全然期待していないんだけれど、生徒の力でなんとか魅力的なものにしてくれることを期待してしまっています、重く背負わせてすまんな。
 かのちゃんもしっとり知的で美しく、いい感じに重い女っぷりも出てきていてよかったと思います。キャサリンは卑怯だとか打算的だとかいうよりもむしろ、真面目で馬鹿正直で誠実すぎる不器用さんタイプなんでしょうねえ。でもこの時代の貴族の女性として、釣り合うと思われる誰かに嫁ぐかそれとも自死しかないような未来から、何かしらの仕事を持つ未来を思い浮かべるところまでこれたのだから、やはり聡明ではあるのでしょう。少なくともこれを堕落と取って泣いて暮らすような女性でなくてよかったです。人は思い出だけでも生きていけると思うけれど、確かに側にはローレンスがいるのだし、また違う形の愛を築いていくのだろうと思います。前楽をともに観た親友はちゃかす意味で「ローレンスは病弱だからあと数年で子供も残さず死にそうだし、そうしたらエドワードは当主の座を継いでキャサリンとも再婚できるのでは?」と言っていましたが、この当時のこの国この階級でそういう兄から弟への再嫁が容認されていたのかどうかということ以前に、その数年の間にエドワードにも別の誰かとの出会いがあって結婚しているかもしれないし、エドワードとキャサリンの想いにはこのお話の最後のダンスの時点で一度ケリがついていて以後変質していくものなのだから、そんな安易な元サヤはないと私は思う、と私は大真面目で答えてしまったのでした。
 柴田ロマンならふたりは駆け落ちしていただろう、というツイートも見ましたが、その場合はローレンスの在り方がまたちょっと違うことになるのでしょうね。ともあれこういう双子とこういうヒロインの在り方にドラマを見て、こういう物語にしたのはまさしくハリーだな、とも思います。やはり好きな作品でした。

 ショー・トゥー・クールは作・演出/藤井大介。
 やっぱりダイスケ休もう、それかホテル待機があっても海外留学に1年くらい行ってこい! と思いましたよね。留学じゃなくていい、遊んでくるだけでいい。作家としてインプットが足りていませんよ、新たな刺激がなさ過ぎですよ…ショー作家いなさすぎ問題はホントにヤバいと思うので、若手にもバリバリ作らせて新人バンバン取ってガンガン育ててください劇団さん!! ミュージカルをやる劇団は他にいくらでもありますが、ショーを作っているのは稀有なのです。そこに矜持を持つべきですよ!!!
 そして以前にもちょっとつぶやきましたが、私はこの組にかつて贔屓がいたので男役ではそこばかりを見ていたこともあって、いなくなると見るところがなくなるんですね…代わりに見る人とか気になるようになってきた人、というのが少なくともまだいないのです。あ、プロプロはナニーロ見てたかな。てせもまだ全然そーいうんじゃないの。らいとばるあがたかりんクラス(…とは?)の好んで探して見る域にいるマイ・スターがいないのです。あ、でもすっしぃのお稚児さんみたいな(オイ)トゥモルトの泉堂成の色気がヤバいのは把握しました、なんだあのわかっててやってるセンターパーツは! けしからんイイぞ!!
 逆に娘役は断然かのちゃんが好きなので、真ん中で見やすくていいんですけれど、あとはエビちゃんなきあとダンスキャプテン就任か? って重宝っぷりのひろこを愛でていたら秒で終わるショーでしたね。下級生をもうちょっと識別できるようになりたかったけれど、わりと団体戦だったからな…このあたりは今後の別箱や新公のマイ課題としたく思います。さよちゃんやここさくちゃんもよりバンバン歌っていってくれると嬉しいです。


 沖縄の会場はなかなかクラシカルで素敵でしたが、逆に言えばまあまあ古いのかな? 反響がけっこう大きくて、特にショーは手拍子がワンワン鳴っちゃって歌う生徒も音楽が聞こえなくなっていそうでした。音楽は録音なのに走っているようにも聞こえましたしね。でもやはりパフォーマンスとして楽しみ集中している感じは客席から十分感じられて、沖縄公演は十年ぶりとのことでしたが、やはり来られてよかったねえぇと感慨ひとしおでした。椅子はわりと頑丈で鈍感な私の尻でもわかる固さ、痛さでした。最終日にダブルした方はおつらかったのでは…お疲れ様でした。

※※※

 そんなワケで、30年ぶりに沖縄に行ってきました。そして久々に旅行らしい旅行になりました。なので簡単にその日記を。
 思えば全ツが発表され遠征を決め友会チケットを当てて旅行の手配をしたころは、まだこのころの様子が読めず、そもそも沖縄は感染者数が多かったので行くのが不安でしたし、逆に県外から来た客なんて石を投げられるのではないかとか、観光地も飲食店もどこも営業していないかもしれないとか、いろいろ心配でした。やがて全国的に感染者数ががくんと減って緊急事態宣言なども解除され、ほっとひと息、大丈夫そう…となったら新たな株の出現でまた先が見えなくなってきましたが、もう開き直ることにして公演をやっているなら行く、と、仕事が忙しい時期でもありましたが平日に2日有休を取って、2泊3日でえいやっと出かけてきました。連れは台湾公演なんかも一緒に行ってくれた35年来の親友(みりお担)です。のちにこの日程にみりおコンの楽がぶつかっちゃったんだけど、ごめんね…でも彼女はコンサートの構成の芸のなさに怒り心頭で初日を観てすぐ残りのチケットを売ったそうなので(笑)、なんの未練もなかったそうです。
 5時起きで羽田に向かい、7時頃に親友と落ち合って、窓側の席だったためかすぐ搭乗。離陸してすぐ富士山が見えてきて、普段新幹線派で伊丹へもほぼ飛行機に乗らない私は「ふぉぉぉぉ…」となりました。オンタイムで着いて、外はピーカンでいかにも暑そうなので、空港のトイレでストッキングを脱いで生脚になり、帽子や着てきた厚手の上着はトランクにしまいました。
 モノレールに一駅乗って、カーシェアステーションで予約していたシェアカーに乗り込み、親友の運転で一路会場へ。カーナビにはまだ入っていない最近できた道路を親友がバッチリ下調べしてきてくれて、カーナビを無視してガンガン進み、30分ほどで無事に会場の駐車場に収まれたので、車中でお互い仕事のメールチェックやらなんやらして開場を待ったくらいでした。
 友会で当てた前楽は15時半終演。そこから駐車場を出るまでが大渋滞で(イベントあるある)、すぐ隣のホテルまで移動するのに30分近くかかりました。
 ラグナガーデンホテルはプロ野球チームが春季キャンプで来るらしく、すぐそばに球場がありました。大きなプールもある大型で大味なリゾートホテルという感じで、広くていいんだけどそこかしこがチープでやや残念だったかな…でも部屋はトリプルルーム仕様で、親友はデスク周りに、私はサブベッドをソファがわりに陣地を開いてスペース十分で、そこはよかったです。どうやら生徒も泊まっていたらしいですが、遭遇はしませんでした。
 近所の沖縄料理居酒屋みたいなところに開店一番で入って、生オリオンビールでアクアヴィーテ乾杯! 20時過ぎからは予約で満席とのことだったので、千秋楽帰りのお客が来るのかな? というか飲んでいるうちに地元の人らしきお客で奥の小上がりなどあっというまに満席になったので、早めに入って正解でした。紅芋天に白子天、ソーメンチャンプルーが美味しかったなー。茄子餃子やカリカリチーズなどテイクアウトして宿に戻りました。それだけ飲んで食べてもワリカンしたら三千円でしたよ…
 大浴場で長風呂のあとは、親友が持参したカヴァで部屋飲みしました。あれこれ語って、日が変わる前に就寝、爆睡。
 翌朝起きたらまだ暗かった…朝食会場はビュッフェが復活。友達とバッタリしました(笑)。8時にはチェックアウトして、一路島の太平洋側へ。通勤時間なのか街中っぽいところを抜けるまでは車が多かったですが、その後は快適なドライブでした。
 まずは世界文化遺産の斎場御嶽(せーふぁうたき、と読みます)へ。親友が有料ガイドを9時半に予約していたのですが、9時過ぎに着きましたよさすがすぎましたよ…! 琉球王国の聖地ということで、良き森林浴ができました。1時間くらいの散策ののち、勧められた近くの知念岬公園へ。これがまた絶景でした! 海と空と太陽がふんだんに楽しめる最高に贅沢な空間で、そこにごくシンプルな芝生がダーンと広がっていて、観光バスで乗り付けるような団体客も今はおらず、実に静かで快適で気持ち良かったです。市の形がハート型ということでハート押しらしく、芝生がハート型に刈られたり夜は光るっぽいハート型のオブジェもあったので、夕暮れ時や夜はカップルで賑わうのかもしれません。
 その後、天空陸橋とでも呼びたくなるニライカナイ橋をドライブしたのち、予約しておいたオーシャンビューのフレンチ・レストランへ。サイトは素敵だけれど実際はどうだろう…と心配していたのですが、本当に素敵なデザインの建物、素敵なフロア、素敵なコースに素敵なサーブで大満足でした。優雅な女子旅気分を味わいました…
 その後、近くのビーチに適当に行ってみたら、野良猫なのか売店などで飼われている外猫なのかがのんきにお散歩しているいい感じのところに出て、砂浜に「宙」と書いて写真を撮るなどしました(笑)。砂に書いたラブレターごっこは、海に来たらやはりやらないとね!
 その後は明日の予習に平和祈念公園あたりをさっと走って、今度は北上して瀬長島へ。ウミカジテラスなるお洒落お買い物スポットがあるらしい…と聞いていたので行ってみたところ、丘というか山肌にお店を階段状にして並べた、オープンエアのお洒落モール街でした。ただ営業しているのは飲食店ばかりで、空き店舗も多く、経営の厳しさを思わせました…せめて、とインフォメーションセンターがてらのお土産屋さんで自分土産をしこたま買い込みました。ご当地シートマスクやバスソルト、ティーバッグみたいなものに目がないのです…施設の前には広場と海が広がっていて、空港と5分おきに降りてくる飛行機が眺められました。優雅…
 2日目のお宿は瀬長島ホテル。昨日のお宿は飛行機とのパックツアーから選びましたが、ここは親友が公式サイトから予約してくれて、特典のエグゼクティブフロアでロビーテラスでのドリンクが無料だわレイト・チェックアウトだわその後も大浴場に入れるわでルンルンでした。部屋も小洒落ていてアメニティなど含めて高級感が昨夜とは段違い! ま、その分部屋はやや手狭でしたけれどね。でも部屋にはエスプレッソ・マシンがあって、用意されていたコーヒー豆がなんかすごい蘊蓄呪文コーヒーで(笑)、テンション上がりました。ヨギボーのビーズクッションとかまであるんですよ!
 ロビーテラスの夕焼けが素晴らしいと聞いていたので、荷解きしたあと日の入り時刻に合わせてテラスに行って、ワインなど舐めつつ日没を見守りました。やがて夜空になって半月と木星と金星が輝いて、18時半前後には国際宇宙ステーション「きぼう」が見えるというので方向を確かめて待機。5分ほどでぐんぐん天を横切るショーが見られました。前澤さんが「宇宙なう」とか言っているヤツですね、すごいなあ。
 その後ちょろっとお散歩して、予約しておいた地中海料理のレストランへ。ここもあとからどんどん賑わっていったので、いいタイミングで入れてよかったです。そしてここも、お料理も美味しかったけれどサーブが本当に気持ち良かった! 満腹、大満足でした。
 お宿の大浴場は温泉で、露天風呂も完備。極楽でした…! ぬるめの瓶湯に浸かったり、空港を眺めながら深い立ち湯に浮かんだり…長々いました。
 お風呂上がりには買って冷やしておいたオリオンビール缶とオリオンビールの豆のおつまみ?で乾杯し、これまた日が変わる前に寝てしまいました。
 最終日の朝食レストランもほぼ開店一番で入り、窓際のテーブルに案内していただけました。インフィニティプールの向こうに空港が見える素晴らしき眺め。朝食の和定食は3段重ねのお重で出てきて、お刺身も焼き魚も豚ローストも和風のだしカレーもあって、ごはんは白米とおかゆと中華粥が選べて、朝からゴージャスでした…! が、ぺろりと完食。
 今日は沖縄に来たからには戦争を学ぼう、という日にする予定だったので、8時頃ホテルを出て、迷子になりつつまずは轟の壕へ。これが道路に標識も看板も何も出していなくて…そして朝早くてまだ暗く、周りの木立は鬱蒼としているし鳥やら虫やら何かの獣やらが騒いでいて怖くて、最低限の手すりしかない階段は油断したらすぐ転びそうで怖くて、沖縄戦ではこうした洞窟が避難壕として使われたということでしたがもう身をもって怖さを味わいました。もちろん奥の奥までなんてとても行けなくて、途中の踊り場みたいなところに設けられた祭壇に泣きながら祈りました。民間人が避難していたところに役場を失った役人が逃げ込み、さらには日本軍兵士まで逃げてきて食料を強奪し、民間人は米兵に投降するまで餓死寸前だったそうです。考えるだけで泣く…
 次にまたまた迷子になりながら魂魄の塔へ。というかたどりついたら周りは塔だらけでした。県人会みたいなものが県ごとにその出身の戦争被害者を奉ってあちこちに塔を建てているようなのですが、そういう縄張り意識みたいなものもまた戦争の原因なのでは…とちょっと悲しくなりました。が、回れる限りは回って端から拝みまくり祈りまくりました。「お鎮まりください、二度と戦争は起こしませんから」、そう祈ることしかできませんでした…
 平和祈念公園の駐車場に車を止めて、沖縄県平和祈念資料館に開いてすぐ入りました。遠目には白い壁にオレンジの屋根の建物は大劇場チックに見えましたが、近くで見るとやはりちゃんと屋根が沖縄ふうでシーサーもいました。
 常設展は1時間ほどで見終えました。ガラガラでしたが、ときに修学旅行らしい学生さんのグルーブに抜かれたりしました。よく学ぶんだよ、と自分を棚上げして念じておきました。展示は沖縄戦に至るまでの歴史から丁寧にされていて、まず琉球王国が明らかに独立した文化圏だったこと、それが明治政府による琉球処分、皇民化政策でしごく乱暴に踏みにじられたこと、時の日本が近隣諸国に侵出し戦争に突き進み沖縄が最後の決戦の場にされたことを改めて学べて、もう泣きそうでした。そこからの地上戦は、日本軍はもう消耗し尽くしていてそもそも戦争の体をほぼなしていなかったこと、壕の中で日本兵による住民の虐殺や強制による集団死、餓死といった殺戮の地獄絵図が展開されたこと、その証言や記録などにもう打ちのめされそうでした。戦後も軍事基地として土地を奪われ抑圧され、長くまた迷走もした復帰運動を経て今に至り、恒久平和の樹立に寄与するためこの資料館を設立した、と展示は結ばれていました。見終えるとちょうど太平洋と空を眺められる明るい回廊に出られて、その美しさに癒やされますし、こんなにも美しい自然に恵まれた地で何を争おうというのだろう…と人間の愚かさにいっそう悲しくもなりました。私は確かに「戦争を知らない子供たち」ですが、それでもやはり二度と繰り返してはいけない、ということは確かにわかったのでした。
 戦没者の名前が刻まれた平和の礎の周りを散歩し、終戦記念日の式典で人が大勢集まるニュース映像などを見たことがあるモニュメントなどを辿り、明るい青天の下でちょっと毒気を抜かれつつも、やや口数が少なくなったまま、続いてひめゆりの塔とひめゆり平和祈念資料館へと回りました。有名な映画は私はおそらく未見で、今思うにこのジェンダーバイアスはどうなんだとも思えるんですけれど、戦争をしたがるのは常に男、国を戦争に引っ張っていく政治家たちもすべて男、何故なら女性に参政権がなかったし現代ですら女性が議員になるどころか普通に働くのもままならない世の中なんだから、そりゃ同じ学徒動員の犠牲者でも男子学生より女学生の方が同情され注目されるのは仕方ないやな、それが嫌ならせめてクオーター制を導入してから言ってこいって感じだよな、と思うなどしました。実際、沖縄県平和祈念公資料館より断然人出がありました。
 私はもしこの時代この国この場所にいたのなら、ここにいたろうと思うのです。私はどちらかと言えば経済的に厳しい両親共働きの関東のまあまあ都会の昭和の核家族家庭に生まれ育ったのですが、女子に教育はいらないなどという家風はなく、またたまたま自分が学校の勉強が苦手でないタイプだっため(これがいわゆる「頭が良い」というのとは意味が違うことを知っている程度には私は賢かったのでした)、16年公立の学校に通わせてもらったことが誇りでもあり自慢でもあるという人間です。だからここに生まれていたら絶対この学校にいたと思うのです。そして学徒動員といっても看護や介護のお手伝いをするくらいで、空いた時間には宿題もできるしすぐ学校に戻れるはず、と信じて支度し従った少女たちの一員だったろうと思うのです。でも彼女たちはあっというまに戦闘に巻き込まれ、すぐに前線に放置され、爆風の中右往左往して次々に命を落としていったのでした…校庭や校舎の前でさんざめきながら写真に収まる彼女たちの姿は、私たちや、音校生やタカラジェンヌたちとなんの変わりもないものでした。ほぼ全員が写真に残り、名前と、人となりの記録が残されていて、そして死の顛末が記されている…そのむごさに打ちのめされました。わずかに生き残った女生徒は戦後の女子教育に関わる人も多かったそうですが、過去を語る口は重かったそうです。それでもやがて、語り継がねば、記録に残さねばという思いがつのり、この資料館が設立されたそうです。私も生き残れていたらそういう仕事をしたかったです、でも生き残れた自信がまるでありません…私は普段は募金というものに偽善や照れくささを感じてししまってまったく熱心ではないのですが、ここでは展示の最後に置かれた募金箱に運営の足しにと財布の小銭を開けてしまいましたよね…もう本当に胸ふたがれる思いでした。女生徒たちに同行した教師のうちただひとりの女性は、私の母校の先輩とのことでした。当時のこととて女子高等教育の選択肢が限られているのでさもありなんなのですが、不思議な縁を感じられないではいられませんでした。
 ホテルに戻って荷造りしてチェックアウトし、トランクをフロントに預けてお風呂支度だけ持って大浴場に再び赴き、昨夜の女湯は金竜の湯でしたが今日は入れ替わって銀龍の湯になっていて、少し違う眺めの露天風呂に浸かって禊ぎのように気を静めました。
 その後は美らSUNビーチのカフェに行って、またまた海と空と飛行機を眺めたながらリッチなハンバーガーを貪り、道の駅でお買い物して、シェアカーを返却して空港に戻り、空港のトイレでストッキングを履き、離陸が多少遅れましたが爆睡で気づかないうちに帰京し、無事に帰宅しました。
 学生時代の旅行では確か低気圧に当たり、首里城観光などもしている写真も残っているのですが、寒くて海にも入れずホテルに籠もってときどきプールで水遊びしていただけだったような記憶です。それからしたら今回はお天気も良く、暑いけれども湿度はなく、さわやかで快適でとても恵まれていました。夏はもっと蒸し暑いんでしょうかねえ? でもこんなところで生まれ育ったら性格変わるな、と思いました。海添いの公園で1on1に興じる少年たち…なんて絵面が普通に見られるなんて、それこそ外国のようでした。でもそういう無邪気な感慨が沖縄の人に疎外感を与えているならやはり問題でしょうし、米軍基地の問題も環境破壊の問題も、ひとつひとつきちんと考えていかないといけない問題なんだなと改めて突きつけられた思いがしました。そしてその一方で、いいリゾートホテルや離島の宿なんかに量販のエメラルド婚記念旅行とかどうだろう…と考えてしまうナンパな私がいるのでした。
 生徒さんたちも少しは観光ができたのかな、海と空と太陽を楽しめていたらいいな、と思います。私もさすがに無防備に太陽を浴びすぎた気がしているので、帰京してからは毎晩買ってきたシートマスクで保湿をしています。紫外線がシミになりませんように…!
 観劇ついでの遠征ではありましたが、久々に遠征というよりはあきらかに旅行、という旅ができて楽しく、リフレッシュできました。ありがとう全ツ、次はどこへ私を連れて行ってくれるのかな…とりあえず次の遠征にはお土産のバスソルトを持って出かけたいと思っています。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宝塚歌劇星組『柳生忍法帖/... | トップ | 『泥人魚』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルは行」カテゴリの最新記事