駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『HiGH&LOW THE PREQUEL/Capricciosa!!』

2022年11月09日 | 観劇記/タイトルは行
 宝塚大劇場、2022年9月1日11時。
 東京宝塚劇場、11月3日15時半、8日18時半。

 ムゲンの元メンバー・コブラ(真風涼帆)は元メンバーの幼馴染みたちと山王連合会を結成し、日々喧嘩に明け暮れていた。ある日彼らは、羅千地区で勢力を持つWhite Rascalsが主催するパーティーの招待状を手に入れる。敵を知る絶好のチャンスと盛り上がる仲間たちに、無意味な抗争を好まないコブラは胸騒ぎを覚えるが、逃げるわけにも行かず渋々同行すると…
 原作・著作/HI−AX、構想/平沼紀久、渡辺啓、脚本・演出/野口幸作。2015年のテレビドラマから始まり音楽、コミック、テーマパークなどに進出した「総合エンタテインメント・ブロジェクト」の前日譚をコラボレーション。

『クローズ』はわりと好きだったんですよ。原作漫画も確か知人にコミックスを借りてひととおり読んだし、映画はDVDもⅡまで持ってるし小栗くんの写真集も買いました。喧嘩とかアクションとかにはそれほど興味なくても、イケメンたちがわらわら出てきてなんかわさわさやってるのを眺めるのはそりゃみんな好きだよね、みたいな(笑)。
 なので『ハイロー』も存在は知っていましたし、いつかは履修したいと思っていたのですが、課金するほどではないと手を束ねていて、上演が決まったときに喜んでいた後輩たちもみんな円盤までは持っていなくて借りられず、結局ほぼなんの予備知識もないままにマイ初日を迎えました。なんちゃって近未来?かなんちゃって異世界?の東京?らしき場所で抗争を繰り広げているチームの男たちのお話、くらい。まあまあイケメン俳優が起用されていたりここから出世していった俳優さんもいるらしいけれど、誰が誰だかはよくわからん、そんな感じ。女子チームもあるけど重要視はされていないらしいこと、今回は前日譚でヒロインのカナはオリジナル・キャラクターであること…くらい? 『FWM』も観ましたが、楽曲についてはまったく知らないし全然覚えられなかった、というレベルでした。
 大劇場公演初日は頼んでいたお取り次ぎがお断りだったので観られず、しばらくしてからの観劇だったので、まあまあトンチキだけどショーみたいなものとして楽しめばいいのでは…というような感想ツイートも目にしていました。それも踏まえて、あまり構えず、また斜にも構えず、フラットに観てみたつもりです。
 で、もちろんキャラやストーリーは十分にわかったし、まあまあ上手く宝塚歌劇ナイズされているなとは思いましたが、それでもこれは『ハイロー』ファンが観た方が楽しい作品になっているのでは、とは感じました。知っている人はあの曲がこんなふうにアレンジされて、あのキャラがこんなふうに再現されて…ってだけで萌えるしアガるしブチ上がるんだろうな、と。私はスターのコスプレ度合いはまあまあ楽しめたけれど、物語やドラマを味わうという点では全然もの足りなくて、まあそんなに回数観なくてもいいかな…と判断してしまいました。のちにナニーロだけ眺めるというワザも発揮したのでけっこう間は保ちましたが、ショーも私にはやや凡庸なものに思えたので、ね…イヤこのオーソドックスさはこの芝居のあとものとしては優秀でしたけれどね。でも『グラカン』の方がいい出来に感じました。ただそれはトップスターや組子のポテンシャルや持ち味の問題もあるかな…頼むから宙組にもダイスケ以外のショーをくださいよ、Bはどうしてこんなに何年も何年も来てくれないの…?(ToT)
 それはともかく芝居の話に戻ると、カナの「死ぬまでにしたいことリスト」を叶えるためにコブラとカナの主役ふたりがSWORD地区を巡り、各キャラやチームを見せナンバーも披露する、という構成は非常に上手いと思いました。宝塚歌劇あるあるのパーティー(舞踏会)やお祭り(カーニバル)場面を入れて宝塚歌劇感を上手く醸し出したり、大人数を使ったりという手腕も上手いな、と感心しきりでした。これで卒業のあーちゃんに、今回の悪役というかラスボスにあたるキャラをオリジナルで当てるのもいいなと思いましたし、そのチームの在り方も違和感がありませんでした。また、苺美瑠狂の在り方も原作よりアップデートされているそうで、それも素晴らしいことだなと感じました。
 なので引っかかったのは2点だけかな。
 まず、パーティー場面が二度あるのは間抜けでしょう。最初のは仮面舞踏会であとのは開店記念パーティーだから、というのかもしれませんが、モブのお衣装は同じだし、細かい差異はあれどコンセプトとして同じなのだから場面として二番煎じです。またかよ、芸がないな、と私は感じてしまいました。ROCKY(芹香斗亜)の決め台詞らしい「パーリィタイム!(吐息)」を何度か言わせたかったのかもしれませんが、それでもどちらか一回に絞るべきだったと思います。
 それから、原作のコブラは無口なキャラとして有名らしく、今回はその原因がカナにあったとするお話になっていて、それはとてもいいなと思ったのですが(原作側ともちゃんと協議して進めて作ったエピソードのようで、公式として齟齬がないと思われるところもいい)、カナに「君は黙っている方が素敵だよ」と言わせるなら、その前のコブラは饒舌すぎるくらいにわあわあしゃべる演出にしなきゃ駄目じゃないですか。でもそれがぬるい、甘い、大ラスくらいしかそんなふうになっていない。それが残念でした。
 コブラはハナからどちらかというと口数の少ない、ぶっきらぼうな男子じゃないですか。考えていることや想いをペラペラ口にするタイプじゃないから、仲間たちもその真意を汲み取りかねているくらいです。それが、カナに対してだけは、あるいはカナの体調悪化に関してだけは心配して狼狽して、それでついつい口数が多くなる…のがいいんでしょ? 大丈夫か、痛くないか寒くないか怖くないかつらくないか、どうしたいんだどうされたいんだ、言ってくれればできることならなんでもやってやるぞ…とかコブラがわあわあ言うのに対して、女子ってそんなに弱くないから大丈夫だよ、とか、この病気はもうどうにもならないんだからそんなに気を遣ってくれても無駄なんだよ、とかの意味を込めて、カナは「君は黙っている方が素敵だよ」って言うんじゃないの? それでコブラは、別にカッコつけたいから無口になるんじゃなくて、仲間を守るために冷静でいること、目的を完遂するために無言実行のリーダーになることに目覚めて、無口な男になったのだ、それで原作『ハイロー』世界につながっていくのだ…ってことなのではないのかしらん?
 でも今、それが今ひとつそうなっていないじゃないですか。つまりコブラがカナに対してだけは取り乱し口数が多くなる、という芝居になっていない。わかりやすい演出が足りない。そこがもったいないんだよなー、と思ったのでした。
 それ以外は、あとはまあストーリーなんてあってないようなものですが(^^;)、主だったスターたちはちゃんと顔見せできているし、大階段始まりだしラストのリプライズもあって盛り上がるし、まあいいんじゃないですかね…というところだと思います。組子のファンがちゃんと観れば、出番の多寡とかいろいろ問題あるのかもしれませんが…娘役ちゃんも雪組『蒼穹』よりはしどころがありそうだし、楽しげでいいのではないでしょうか。
 とはいえ私はとにかく全編なんか気恥ずかしくて、奥歯を噛みしめて耐える場面多数、でしたけれどね…特に床屋場面は全編つらかった。他はキャラが立っているからファンタジーとして観られるんだけど、こういう現代日本のナチュラルな若者とか庶民とかってタカラジェンヌが最も不得意とするところだと思うのです(というか宝塚歌劇が最も不得意とするところ、ですよね)。ホント観ていてただただ恥ずかしかった…上手いとか下手とかではなくて、ただ似合っていると思えなくて私は観ていて気恥ずかしくなっちゃうんです、すみません。
 あとはやっぱり喧嘩その他ヤンキー文化全般が当然お行儀悪いものなので、わざわざ宝塚歌劇で観たいかなあ、とは思ったかな…PTAチックですみません。でもやはりただ荒々しいだけのものには萌えないんですよね私はね。世界はすでに十分に荒々しく、改善されるようにも全然見えないのだから、せめて宝塚歌劇でくらい理想的な温和な愛の世界を描いてほしい…と考えるタイプのファンなのですよ私はね。
 というわけで全体としてはnot for me作品だったので、あとはひたすらKOO(風色日向。てかずっと「クー」って読むのかと思っていましたよ…)を観ていました(笑)。この感じ懐かしいな、『風共』『ベルばら』がつらすぎてひたすらあっきーの顔ばっか観ていたときと同じ感覚だわわあヤバい…とか思いましたよ。でももともと顔が好きなのと、こういうキャラクターが好みなもんで、つい…まだだいじょぶですハイ(しかしらいと、ぱる、かりんさん、ナニーロにあたる雪組マイ若手スターが欲しいなあ…あがちんはもう立派な番手さんすぎるので。てか男役さんに好きな人がいないと観るのがちょっとつまらないですよね宝塚歌劇って。娘役さんは各組に好みの生徒がわんさといるんだけどなあ…)。でもホント垢抜けたし、首が長くて綺麗で長身で、そのスタイルの活用の仕方、見せ方を体得してきたようで、ホント目を惹きました。新公もお衣装やキャラに助けられている部分はあったかなとは思いましたが、大健闘していたと思いました。好き!(あっ)
 あとは、てらいなくやり通すキキちゃんがさすがだ思いましたし、ずんちゃんもホントなんでも上手いし、もえこやこってぃもハジけていて良き、と思いました。すっしぃもまっぷーもヘンに色っぽくてホント困るよね!
 そして話題のナルセンドウのメイナンツー(泉堂成)ね!! プログラムでは「ボーイ」となっていますが名前はズバリ「美男子」なワケで、一見あーちゃんリン(留依蒔世)のお稚児さんにしか見えないのですが、ここはフォロワーさんが唱えていた、リンの生き別れの、半分しか血のつながっていない弟説を採りたいです。もう何年も会っていなかった親の訃報が届いて一応葬儀に顔を出したらそこに彼がしょんぼり立ち尽くしていて、初めて弟の存在を知って放置もなんなので連れて帰って、とはいえ手下と同じに扱うのもなんだしあまりかまわないでいたところ、彼の方では兄と仲良くなりたい兄の役に立ちたいと知っている限りの手を尽くした結果がアレなのだ…という説です。人に好意を示す、人と親しくなる方法をアレしかしらない育ちの少年ってことです。ジルベールか!(笑)私は下手な愛人説よりこの薄い本(ありません)に萌え萌えになってしまい、以後そうとしか観られませんでした…私が観た回は登場時いずれも膝にしなだれかかっていたりといった密着バージョンだったので、それも満足でした。恐ろしい子…!
 あとは「出ちゃった」が似合うカナのかのちゃんのナチュラルな可愛らしさ、素晴らしさとホワイト・チャイナの絶品っぷりですよね! 最後の願いが「結婚したい」「結婚式を挙げたい」ではなく「ウェディングドレスを着たい」なのもとても良き。そして応えるゆりかちゃんコブラの優しさよ…! 等身大の男子のカッコ良さって表現するのがけっこう難しいものだと思いますが、さすが円熟期のゆりかちゃんはホントどんな男性像でもやってみせますよね。ホント素敵でした。


 ファッシーノ・モストラーレは作・演出/藤井大介。
 …フツーでしたよね、前述しましたが『グラカン』の方が断然好きでした。でももしかしたらそれはこっちゃんのポテンシャルによるものだったり、組としての芸風の違いによる印象の差かもしれません。
 でも冒頭の銀橋ズラリのチョンパは素晴らしいなと思いましたし、未だにミキちゃんの歌声で脳内再生される「カプリチョーザ」はやっばりアガるし、『FWM』に続きキキちゃんと組んで踊ることが多いかのちゃんに残留を決めたのか!?とときめいていたら同時卒業が発表されてしょんぼりでしたがとにかくナポリ場面の蹴りの振りが切れ味サイコーで素晴らしいし、じゅっちゃんの歌姫起用が全編素晴らしいし(近年稀に見る2番手格娘役の起用っぷりでは? おとくりもここまでではなかった気がします。次期への布石ならめでたい。まあ私はそんなに好きじゃないんですけど…すんません…)、ずんちゃんの女装は正直またかいって気はしたけどもえこの歌が超絶素晴らしいヴェネツィア場面もいいし、フィレンツェと言われればそうなのかもしれないけどなんかよくわからない南国チックなお衣装の中詰めも楽しいし(三組デュエダンにひろこが入るなんて嬉しい! しかしこのあたりはさくらやひばりよりむしろさらちゃんの方が正統派娘役枠なのではと私は考えているのですが…てかひろこには新公ヒロインやらせなかったんだからもうあとはエビちゃんみたいなダンスリーダー格になるしかないのでこういう起用はどうなの? うーむむむ…)、これまたまたかいみたいな三角関係のミラノ場面はオチがなかなか新鮮でよかったし、だよねコレだもん次で辞めるんだよね、と大劇場公演時に確信したローマ場面も美しく、フィナーレの「ミ・アモーレ」もハマっていて素晴らしいと思いました。歌謡曲は上手く使うと宝塚歌劇にホント合うと思う。まあ以前星組でも使ったけど『ホッタイ』のお衣装をまた宙男に着せるのはどーなんだ、とは思いましたけどね…
 そうそう、ヴェネツィアのさよちゃんさらちゃんもよかったけれど、全体に男女のデュエットソングが多い印象で、新鮮に感じ、とても良いと思いました。りっつと朝木ちゃん、ずんちゃんとさくらちゃん、プログラムにないけどプロローグも確か男女で歌っていましたよね?
 あ、それからキヨちゃんのロケットセンター、フィオレSはホントに素晴らしかったですね! あとナニキョロのアマリアンテねごちそうさまでしたこの時期ならではのダルマですよね! あとはあーちゃんのエトワールね! エトワールは歌上手娘役枠であるべきだと考えているけれど、歌上手男役の卒業公演なら許容されますよね。客席からも惜しみない、心からの拍手と早めの手拍子が湧いていて、本当に感動的でした。歌のお仕事、続けてほしいなあ…
 全編通してさらちゃんが本当に仕上がっているなと思いました。娘役力が出てきたというのかな。それ以前ももちろん可愛かったけれど、ずっと太ったり痩せたり不安定だったというのもあるし、何よりまだ「娘役」ではなかった印象でした。それが、自分の個性を生かしつつ、宝塚歌劇に求められる娘役のルリルリができるようになってきたんだと思うのです。上級生が抜けて立ち位置が上がっているというのもありますが、ホントどこでも目を惹きました! さくらちゃんやひばりちゃんってちょっとエキセントリックだから、美人美人したひろことシンメで並べるならむしろさらちゃんの方が映りがいいと思うのですよ。新公の長のご挨拶も立派だったし、ホント娘役も新公卒業してからが華だよなあ、と思ったりしたのでした。今後にさらに期待したいです!
 なので、かのちゃんはホントもったいないなあ、次はショーなしだしなあ…とホント悔しいです。二代に渡って5年とかやってほしかった、ホントそれだけの大器だったと思うんですけれどねえ。意外と組替えが精神的にしんどくて、ゆりかちゃんに助けられて心酔しちゃって早くに添い遂げを決めちゃったんでしょうが、そしてそれもわからなくはないんだけれど、でもホントもったいないと思ってしまうのですよ…ぐちぐち。でもここで辞めちゃうんじゃのちのち長い歴史に埋もれていってしまうんだよね…そういうの、長く観てるともう見えちゃうからさ…のちのち語られることも少なくなっちゃうんですよ絶対に。写真集も出ないし「歌劇」の表紙にもならないままだし、ホント残念だし寂しいのです…
 次のボンドガール、期待したいと思います!!!


 最後に『ハイロー』東京新公の感想を簡単に。
 やはり全体に若い分、学芸会感も増し増しで奥歯割れそうに噛みしめて観たのですが、キョロちゃんとひばりちゃんのザッツ青春!な主役カップルはまあ好演でしたよね。ふたりとも新公初主演よりあたりまえですが格段に進化していたと思いました。
 あと、そろそろ新公主演も来るかな?という大路くんのスモーキーが雰囲気あってよかったこと、ナルセンドウの日向もノリノリにクドくてよかったこと、奈央くんの村山も健闘していたのが印象的でした。あとましろんのリンね、よかったね! まあ前述したナニーロのROCKYといい、キャラが立っている方がやりやすいんだろうな、とは思いましたが。愛未ちゃんのKIDAとかもよかったし。逆に仁花の美星ちゃんとか、なんかメイクが残念でもっと可愛くなるのに…!と歯噛みしました。現代の若者役が難しいのは娘役さんも同じかな?
 東京マイ初日が新公になってしまったため、あまり細かく本役との比較ができず、印象薄めで申し訳ございません…長の長はバイフーの花宮沙羅ちゃん、素晴らしいご挨拶でした。キョロちゃんのご挨拶の間、泣くのをこらえているんだろうけどメンチ切ってんのかコラみたいな目つきの悪さになっていたナニーロがただただ愛しかったです。みんなよくがんばりました。
 感染状況がまた怪しくなってきていますが、どうぞ完走できますよう…あとちょっとだ、がんばれ! 引き続き応援しています。





***
 追記。
 勢い(? )あまってSSを書きました、すみません…





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