駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

劇団☆新感線42周年興行 SHINKANSEN☆RX『薔薇とサムライ 2』

2022年11月23日 | 観劇記/タイトルは行
 新橋演舞場、2022年11月21日12時。

 女海賊アンヌ・デ・アルワイダ(天海祐希)が天下の大泥棒・石川五右衛門(古田新太)とともにコルドニア王国の混乱を収め、女王となって十数年。ある日、医者で科学者のケッペル・レンテス(粟根まこと)が滞在するデルソル島がコルドニアの軍勢に襲われ、訳あって滞在していた五右衛門が追い払う。アンヌの真意を確かめるため、ケッペルとともにコルドニアへ向かう五右衛門。そのころヨーロッパではソルバニアノッソ王国の女王マリア・グランデ(高田聖子)が隣国ボスコーニュを併合していた。国王シャルル一世(浦井健治/映像出演)が海難事故で生死不明の今、弟のラウル(神尾楓珠)は不利な条件でこの併合を受け入れるしかなかったのだ。得意満面のマリアが主催する祝賀会にロザリオ・イクシタニア(石田ニコル)とともに乗り込んだアンヌだったが…
 作/中島かずき、作詞/森雪之丞、音楽/岡崎司、振付・ステージング/川崎悦子、演出/いのうえひでのり。『五右衛門ロック』のスピンオフとして2010年に上演された『薔薇とサムライ』の続編。全2幕。

 前作は生では観られずゲキシネで観ていて、そのときの記事はこちら。なので今回はなんとしても生で観たくて、チケット取りもがんばりました。
 私は新感線はそんなに観ていなくて、そんなにファンでもない自覚がありますが(当たり外れがあると思っている、と言いましょうか)、今作は過去イチおもしろかったです。というか、私にはとても観やすかった。
 まず、とってもミュージカルでした。新感線の舞台には音ものというのか、ロック音楽や演奏、歌唱を前面に出す音楽劇のバージョンがあるようですが、私は今までどうにもこれがダメで、歌詞が映像で出ようが歌詞や台詞が聞き取れず意味がわからなくて閉口したり、ガンガン鳴っているBG演奏が歌のときだけ音量を下げるのがわざとらしくてとにかく嫌いで、あまりハマれないできたのでした。でも、今回はとてもミュージカルでした。ごく普通のミュージカルだったと言ってもいいでしょう。ロックだけでなくいろいろな楽曲があってそれがどれもよかったということもあるし、心情を歌い上げるものから会話がそのまま歌になる掛け合いの軽妙さで聞かせるもの、そしてもちろんノリノリガンガンのロックまで、多彩だけれどとにかくすべて聞きやすかったです。バラード以外は歌詞が丁寧に映像で出ましたが、なくても十分聞き取れて意味がわかって、楽しめたし沁みたしアガりました。役者がみんな歌が達者だったというのもあります。ユリちゃんは一度もカマさず(そんなのユリちゃんじゃない!という一抹の寂しさすら感じました)、ストーリーテラーめいたポジションの吟遊旅団のお三方(山本カナコ、冠徹弥、教祖イコマノリユキ)が終始ノリノリかつ絶品に上手かった、というのもあります。とにかく歌や音楽の量やバランスがちょうどよかったと思いました。
 また、演出が素直でてらいがなく、スムーズでスマートでした。私は最近ちょっと歌舞伎づいている気でいるのですが、そういう目で見るとホントに歌舞伎調の作品で、盆でセットが回転して場面転換するのもミュージカルというより歌舞伎の手法なんですよね。花道やスッポンの使い方や拍子木の入り方も歌舞伎的で、提灯が並ぶ新橋演舞場の雰囲気にぴったりで、そこでのびのび展開される大芝居とエンタメっぷりに唸らされました。殺陣ももちろん見事だし、本当にストレスがありませんでした。大衆芸能、こうでなくちゃね!
 そして何より脚本がよかった! おそらくはユリちゃんにオスカルをやらせたい、みたいなところから勢いで、なんちゃってヨーロッパを舞台になんとなくお話をでっち上げていつメンでわあわあ盛り上げて作ったのだろう前作を、12年の時を経てさあ続きを、ったってそんなすぐうまくいくもんじゃないことは容易く想像できます。作者も観客側もいろいろなこと、ものに対して解像度が上がっていて、世の中は変わりなんなら世知辛く悪い方に変わっていて、実際の戦争も軍事紛争も汚職も駄目政治もみんなが目撃していて、そんな世の中をしんどく思いながらみんな必死で生きていて、そこにどうこの「世代交代」の物語を紡ぎ魅せていくのか…が、キモだったろうと思いますが、本当によくできていました。
 民の幸せのために自ら最前線に毅然と立つクイーン・アンヌの姿は、現代政権批評を体現してあまりあります。霞ヶ関だか永田町だかのおっさんたちにも観てもらいたい、せめて爪の垢を煎じて飲ませたい。さらにロザリオもラウルも、単なる世襲で国を背負おうというのではない。なんなら王位継承者は別にいて、それでも世のため人のため思うところがあって、自ら政治に関わろうとする若者たちなのです。その潔く凜々しいことよ…! そして今だと謎の流行病がとか細菌兵器がどうとかにしちゃいそうなところを、中毒性のある塩が…としたところがまたいい感じにファンタジックでおもしろく、しかし「パンとサーカス」ではなく「パンと文化」というナンバーがあったりと、ストーリーが手堅く、かつホント深くて上手いのです! ニクい!!
 そして世代交代は、ただ老兵が去って終わるのではなく、アンヌはさらに先の地平に飛び立っていくのでした。かーっこいーい! 確かに五右衛門は前作以上に完全にアンヌの見守り役みたいになっちゃっていて、中の人が「なんの得にもならないぞ、いいのか五右衛門?」とつい思ってしまうというのもむべなるかな、な枯れた、精神的隠居爺っぷりではありますが、まあ男の方が老けるの早いしな…(笑)ムッシュ・ド・ニンジャとしての活躍も一応あるわけですし、まあいいんじゃないでしょうか。前作ちょっとはあったような気もするアンヌへの色恋もすっかり枯れて、でもそこはやはりさっぱりとすがすがしく、だからこそただの友達として同志として助け合うふたりが美しくまぶしく、実に良きコンビものとして仕上がっていました。
 それからするとヤング世代は、たとえばラウルとロザリオって普通だったら恋仲に設定されそうなものなのに、全然そんな感じじゃなかったのがまたおもしろいですよね。隣国の王子王女として小さい頃から親交があったはずで、政略結婚の話があったり、そうでなくても男女がいれば色恋に仕立てるのがありがちな物語というものなのに、彼らは自国の行く末を気にし自分に出来ることを模索しているまっすぐな若者で、ナンパな空気には全然ならないのでした。イクシタニアの王位は兄王子が継ぐから、とアンヌのもとで後継者修行みたいなことをしているロザリオは、王族として為政者としての自覚をきちんと持っていて、国王の兄が行方不明で政権を担わざるをえずちょっとおたおたしているようなところがあるラウルに対しても情けないもの足りないとズバズバ言っちゃう、なかなかしっかり者の、手強い存在です。こういう少女キャラクターって、実はなかなかない気がします。すごく新鮮に感じました。
 今やコルドニアの内務大臣エリザベッタ(森奈みはる)の息子ベルナルド(西垣匠)は逆にちょっとロザリオに気があるようで、それでラウルに噛みついている節もあり、このあたりは、まあそんなに深く掘り下げなくてもいいけどもうちょっと演技で出てくるとおもしろくなるのになと思いましたが、なんせこの西垣くんは初舞台らしく芝居は棒だったので…ともあれヤングチームもあくまで真摯に政治と向き合い民のために生きようとする若き為政者で、それはコバル(河野まこと)やマクシミリアン(早乙女友貴。素晴らしき立ち回り…!)たちののちの姿にも響いていき、本当にすがすがしいのです。
 だから、無理なく世代交代できる。彼らになら、任せられる。そして、彼らとは違った場所で世のため人のためさらに新しい仕事をするために、アンヌは海に戻る…サブタイトルは「海賊女王の帰還」。素晴らしすぎます!!!
 勧善懲悪の物語において悪人の在り方も重要ですが、いつでも任せて安心な高田聖子に加えて生瀬さんのボルマン(生瀬勝久)も按配が絶品で、本当によく出来た作品になっていたと思いました。全体に説明も丁寧で過不足がなく、シリーズや前作を知らなくてもわかるように気配りされていて、かつクドすぎることもなくダレることもない休憩込み3時間半みっちり楽しい、実に良き舞台だと思いました。観られてよかった!!!

 で、こんなちゃんとした作品なんだから誰がやっても成立するような気がしますがしかし、やはりこの舞台のセンターにはユリちゃんが立たないとね!な天下の天海祐希姐さんアンヌが、また本当に見事なのでした。めっさ出番多いし着替えも多いし歌も多い、でも疲れも衰えも見せず颯爽とやってのけて、まあぁカッコいいこと! 銀髪というかシルバーブロンドみたいな鬘も素敵で、流行りのグレイヘアのようでもあるし、老練な政治家としての威厳と、でも未だ若々しい活気がよく出ていて、素晴らしかったです。お衣装もどれも素敵だけれど、下町で中毒患者の看護をしていたときのざっかけない服がスッキリ似合っていて素敵だったなあ。てかホント変わらずスタイルがいい、姿勢がいい、華がある、舞台役者が向いています。もちろん先日の『広島ジャンゴ2022』もすごくいい舞台、すごくいいお役で、ユリちゃんに薔薇サムみたいな芝居ばかり求めるのは間違っているとは思うのですよ。でもこういう役どころが出来る、似合う役者が限られているのも事実なわけで…やれるうちにやらしたろ、とはなるよねそら、とも思っちゃうのです。そしてそれにしっかり応えるユリちゃんね…!
 だからトートもやらせちゃうし出来ちゃうんです(笑)。てかソレっぽいのがあるとは聞いていたんだけど、ナンバーの一音目からもうわかるんだからそもそもオリジナルがすごいってことですよね。そしてそれをきっちりパロる、たまらんね! そりゃ最後のタンスどころか家財道具すべて貢ぐね!!
 からの泥棒紳士ですよ黒燕尾ですよ短髪男装ですよ下手したらマジ30年ぶりとかじゃないのユリちゃん!? いや正直後ろ姿からの登場、肩と背中はやや甘いと思ったんですよ、でもそーいう問題じゃないよねもはや! てか今も通用する、なんなら今でもものすごく際立つに違いないこのスタイル、まして30年前はそら異例のスピードで出世もしようというものですよねえホント…! イヤしかしウケましたよ、だってここのアンヌ記憶喪失なんだよね? でも形状記憶のごとくできちゃうってことが、ホントそのままユリちゃんのことのようでおもしろすぎました。
 そしてここのエリザベッタがまたイイんだ…! 彼女はずっとアンヌのそばにいて、別にアンヌは苦しそうだったりしんどそうだったりして見せたことはないんだと思うんだけれど、それでもエリザベッタは、自分がアンヌから海を、自由を、翼を奪ってしまったのではないか、この国に、政府に縛り付けてしまっているのではないか、とずっと気に病んできたんですよね。良き後継者も育ちつつある今、彼女がこのまま記憶をなくし、政権を離れ、市井で生きてもアンヌはアンヌで、元気で幸せならいいじゃない…と考えてしまう、エリザベッタのこの女っぽいところが私はとても好きです。それをミハルがやっているってのがまたたまらないわけです。思えばエリザベッタは母にもなっているし最後はいつの間にかケッペルとラブいことになっていて、ロマンスの香りが全然ないこの作品においてフェミニンなパートを一手に引き受けているようなところがあります。ベタベタしていないんだけどいい感じにウェットなの、好き! ミハルの良き持ち味だと思います。
 だからアンヌが海に戻っても、エリザベッタは国に残る。でも彼女たちの友情は続く。これはそういう物語でもあるんだろうと思うのでした。
 でも一番は、人は夢を見、幸せになるために生まれてくる、それを助け支えるのが国の務め、そういう国を作り民を幸せにし民とともに幸せになるのが為政者の務め、それが王の幸せ…という、ごくまっとうなことをアンヌが常に言い、コルドニアの民たちも言い、だからみんながこの女王を信奉している…という、美しい、国と民とのあるべき姿を見せていること、それが今回のこの作品のキモなんだろうと思います。「♪幸せは矜持であり使命」これですよ、これ。この志を作品からきちんと受け継いで、私たちは私たちの現実の荒海を生きていかなければならないのだ、と改めて思ったのでした。
 富山、新潟、大阪と来て来月の大千秋楽まで、どうか無事の航海を祈っています!





コメント (2)
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